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『Mステ』『CDTV』『お部屋でSING!』……コロナ禍による音楽番組の将来的な可能性 各番組企画から考える

2020年05月05日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド編集部

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて、音楽番組が一気に様変わりした。どの番組も通常の放送形態を取りやめ、それぞれのやりかたで未曾有と言ってもいい事態に対応しようとしている。


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 テレビの歴史をさかのぼってみれば、音楽番組はこれまで幾度となくモデルチェンジしてきた。


 当初は歌謡ショーの中継のようなシンプルなスタイルが主流だった。それが1960年代後半になると、歌謡ドラマやご対面コーナーがあった『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)のようなバラエティ色を盛り込んだものに人気が集まるようになった。さらに1970年代後半から1980年代には、データのみに基づくランキング形式の『ザ・ベストテン』(TBS系)が新風を吹き込んだ。そして1990年代になると『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)や『うたばん』(TBS系)のように、フリートークによってアーティストの素の魅力を引き出すスタイルが全盛になった。


 だがそれらはいずれも、いわばテレビのなかの演出手法の創意工夫の話だった。今回のように、テレビとも音楽とも直接は無関係な外的要因で変わらざるを得なくなる事態は、これまでなかった。


 そうしたなか、各番組はさまざまなかたちで対応している。


 まず目立つのは、過去の映像の活用である。


 今回の事態を受けて、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)や『うたコン』(NHK総合)など、各音楽番組は過去の放送からピックアップした映像をメインに内容を構成するようになっている。たとえば、4月10日放送の『ミュージックステーション』は、「春うた30年名曲ヒストリー」として桜ソングなどの春うたの歌唱シーンや、それに絡めていきものがかりなどアーティストの番組初登場シーンを流していた。


 とはいえ、懐かしの歌や名場面をメインにした企画は、近年の音楽番組に以前からあった傾向ではある。


 そのなかで目新しく感じたのは、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)の「リクエストスペシャル」(4月13、20日放送)だ。『CDTV』の27年間のライブ映像を対象に視聴者からのリクエストを募り、多かったものを放送。4月13日分の放送では、リクエストが最も多かったものとしてSMAPの「世界に一つだけの花」がフルバージョンで流れ、SNSなどで大きな話題にもなった。4月20日放送回での発表によれば、1万通のリクエストが寄せられたと言う。


 またリモート出演にもふれておくべきだろう。


 新型コロナウイルス感染予防の観点から、スタジオとは別の場所からの出演、たとえば自宅などからの出演が音楽番組でも増えている。いまふれた『CDTVライブ!ライブ!』でも、4月13日放送回で森山直太朗が自分の部屋から弾き語りで「声」を歌う姿が放送された。


 さらには、単独での出演だけでなく、リモートでコラボする試みも現れている。たとえば、4月26日の生放送特番『お部屋でSING!』(NHK総合)がそうだった。


 番組には、Little Glee Monsterが登場。5人のメンバーは、それぞれ違った場所からリモート出演した。そして「世界はあなたに笑いかけている」をはじめとして、互いの距離を全く感じさせることなく見事にさまざまな曲を歌い切った。元々同じグループであるとは言え、そこにはリモートでのコラボが持つ豊かな可能性が実感できた。


 また同番組では、「NHK全国学校音楽コンクール 中学校の部」の課題曲にもなっている彼女たちの新曲「足跡」を、合唱部の中学生たちが歌う自撮り映像を番組側で合わせてコラボを演出する企画もあった。もちろん曲調などにもよるが、リモートで同時に多くの人間が参加するパフォーマンスは目新しく、これからのさらなる発展を予感させた。


 では現状はこうだとして、今後の音楽番組はどうなっていくのだろうか? たとえば、各テレビ局の大型音楽特番、さらには『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)などはどうなるだろうか?


 これらの番組の多くでは、観客がいるかたちでのライブ形式が定着している。だがいうまでもなく、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からは、現状のままだと従来のスタイルでの番組づくりは難しい。むろん一日も早く現在の事態が収束していることを願うのは大前提として、どんな違うやりかたがあり得るのかを想定しておくことは、音楽番組の将来的な可能性を探るうえでも決して無駄ではないだろう。


 海外の例だが、レディー・ガガの呼びかけで実現したオンラインでのバーチャル・コンサート『One World:Together at Home』は、その意味で示唆に富む。コロナ禍のなかで懸命に働く医療従事者などへの支援を目的に開催され、ポール・マッカートニー、スティービー・ワンダー、ビリー・アイリッシュなど多数の有名アーティストが「ステイホーム」を自ら実践しつつ参加した。


 その模様は、YouTubeなどを通じて全世界に配信されると同時にアメリカの3大ネットワークでも一部が中継された。それぞれがリモート出演で披露する歌には、背景に映る自宅の様子なども相まって、豪華なセットでのパフォーマンスなどとはまた異なるかたちでこちらに伝わってくる新鮮な感動があった。


 先ほどふれた過去の映像のアーカイブ的活用にせよ、あるいはリモートによる出演やコラボにせよ、それらは実質的にテレビとネットが接近しつつあることを物語っている。となれば、こうした海外でのテレビとネットの垣根を越えた試みを参考にしつつ、日本なりの音楽番組のスタイルを模索してみるべきなのかもしれない。


 ただいずれにしても忘れてはならないのは、音楽そのものが人と人を結びつける最良のメディアであるという根本の部分だろう。外出自粛を余儀なくされ、ともすれば誰もが精神的に孤立してしまいかねない状況だからこそ、そのことは改めて大切な意味を持つ。


 「わたしたちには歌がある!」。これは、『うたコン』が通常放送でなく特別編になって以来ずっと掲げている言葉だ。この現在の苦境は、一方で制作者、演者、視聴者といった違いを超えて私たちが歌、そして音楽の魅力を再発見する好機でもある。おそらくこれからも新たな音楽番組のチャレンジが続いていくだろう。そのなかで、そんな再発見の瞬間が何度も訪れることを期待したい。(太田省一)