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夫はコロナ陽性で自宅療養、同居母は認知症…「二重苦」の女性が抱える経済的不安

2020年05月05日 09:21  弁護士ドットコム

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「もしも咳が出たらヤバいという不安があった」


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新型コロナウイルスの陽性反応が出た夫(38)の自宅療養に付き合いながら、同居する母親(84)の介護もつづけた千葉県在住の木村佳子(40代・仮名)さんだ。母親には認知症の症状があり、「要介護3」と認定されている。木村さんにこの1カ月を振り返ってもらった。(ライター・土井大輔)



●病床がなく、自宅療養をすすめられる

木村さんは、夫と母親の3人暮らし。夫が発熱したのは、3月下旬のある日の夜だった。38度以上の熱があったが「インフルンエンザだろう」と考えたという。翌日、病院に電話すると、隔離室が空いたタイミングで来院するよう告げられた。



夫は病院で、インフルエンザの検査を受けたが、陰性だった。問診で、都内に長時間かけて電車通勤していることなどを話すと、PCR検査を受けることになった。木村さんは、その日から自宅内で夫を隔離することにした。



それから2日後、保健所から連絡があり「陽性」と告げられた。感染経路は不明だった。保健所からは、入院できる部屋がないからという理由で、自宅療養をすすめられたという。



●「重症者を優先したい」というニュアンスを感じた

木村さんの母親は2年前、大腿部を骨折した。数カ月間入院したあと、自宅で療養とリハビリをつづけている。手すりを使えば、自力でトイレにも行くことができるが、最近は認知症の症状が現れている。食事したことを忘れたり、買い置きのお菓子を食べつづけたりするなど、目が離せないという。



さらに木村さん自身、夫の陽性が明らかになったころから微熱が出るようになった。「頭が痛いな、だるいなという風邪のひきはじめのような感じ」だったという。



保健所から連絡があった際、木村さんは夫の濃厚接触者であることを告げたが、37.5度を超えていないことから、「PCR検査を受ける段階ではない」と判断された。熱のない母親も同様だった。



木村さんは「『重症者を優先したい』というニュアンスを感じた」と振り返る。





●ショートステイを断られる

夫が入院できないため、木村さんは母親を特別養護老人ホームなどにショートステイ(短期の入所)させることを検討したが、家族に感染者が出ていると告げると断られてしまったという。



木村さんは、介護が必要な母親と、新型コロナの夫との同居生活をつづけざるを得なくなった。しかも、自分も感染しているかもしれないという疑念があった。そこで、木村さんが次のような対策をとることにした。



・家族全員、家の中でもマスクを着用する



・陽性の夫は部屋に隔離して、ドアを閉める。食事はドアの前においておく



・トイレ、風呂を含め、できるだけ窓をすべて開けて、利用する



・触れるところ触れたところは、次亜塩素酸水で拭いたり噴霧する



・食器類はアルコール消毒してから使用する



・外出は控えて、必要なものは通販で購入する。玄関の前に置いてもらう



そのほかも、食事はしっかりと熱を通したり、滋養があるとされる献立を考えるなど、工夫をした。間取りの関係上、夫がトイレに行く際、母親の部屋を通らざるを得ないため、特にトイレ前後は入念に消毒したという。





●知人・友人の助けが支えになった

このような暮らしで木村さんが「支えになった」と話すのが、知人・友人の助けだ。「SNSで陽性になったことを明らかにすると、知人が消毒薬を送ってくれたり、近くに住む友だちが買い物に行って、ドアの前に置いてくれた」



夫の熱は数日で下がったが、4月中旬に訪問診療で受けたPCR検査では陽性のままだった。さらに1週間後の検査で、ようやく陰性となった。そして4月30日、4回目のPCR検査の結果も陰性と判明した。



一方、母親は4月中旬に発熱する。胆管炎の持病があるため病院に連絡すると、隔離室に通され、初めてPCR検査を受けた。また、母親を介護してきた木村さんも病院に呼び出されて、同様にPCR検査を受けることができた。ともに陰性だった。



●「夫が軽症で済んだことが大きかった」

木村さんは「夫が軽症で済んだことが大きかった」とこの1カ月を振り返る。「母親は高齢なので、もし感染したら悪化するだろうと覚悟していた。そのうえで、がんばれるだけ、がんばろうと思った」



芸能人の感染や死去のニュースに触れて、「怖くなかったのか?」とたずねると、木村さんは「自分たちは咳が出なかった。咳が出たらヤバい。すぐ病院に行かなければという不安はあった」と当時の心境を語った。



家族全員の陰性が確認された現在では、夫が4月中に働けなかったこと、自身が濃厚接触者で給付金や補助金の手続きをおこなえなかったことによる経済的な不安のほうが大きいと話している。