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きっかけは「もう少し静かにして」道路族との8年戦争、ついに法廷へ「悪魔のように誹謗中傷された」

2020年05月04日 09:31  弁護士ドットコム

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「もう少し静かにしてくれませんか」と一言注意したばかりに、8年間にわたって近隣から嫌がらせを受けている主婦がいる。


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道路で何かをすることを好み、近隣に迷惑をかける道路族の親と子から「変なおばさん」「ゴキブリ!」と呼ばれ、睨みつけられ、卑猥な言葉をかけられるように……。さらに、親からのいじめがエスカレートし、現在は民事で賠償請求して争っている女性だ。



新型コロナウイルスによる休校措置の影響で、道路で遊ぶ子どもたちが増えている。新興住宅街の道路やマンションの共用部分で発生し、社会問題化している「道路族問題」の、8年戦争の核心に迫ったーー。(ルポライター・樋田敦子)



●新興住宅街の12世帯

事の発端は、2012年の集会だった。京都府に住むパート主婦の角谷綾子さん(45歳、仮名)は、09年に新居に引っ越し、近隣の騒音問題に悩まされ続けていた。



角谷さんの家は、袋小路のコの字を取り囲むように12世帯が建てられた新興住宅街にある。隣の家との距離は70cmほど。その密集地に、各世帯がほぼ一斉に入居し、ほとんどの家には未就学児がいた。



数年のうちは、遠慮しながら暮らしていたが、子どもは成長するにつれ、不動産会社が所有する幅6mほどの私道で遊ぶようになった。



「節度を持って遊んでいるときは良かったのですが、そのうちに短くて昼2時間、夕方2時間の、1日4時間と長時間になり、友達を連れてきて遊んでいることもあり、自宅前の道路を占拠するようになりました。我が家の長男は、少し年上のこともあって、公園で遊んでいたので、道路遊びには加わらないでいました」



そう角谷さんは述懐する。



毎日、最低でも5人以上の子、多いときには20人ほどの親子が集まり、子どもたちは道路でかくれんぼや鬼ごっこをする。角谷さんの家は、オープン外構。道路や隣家との間に壁をもうけていないので、庭に入り込んできて、花壇の花をむしる。ボールが投げ込まれ、丹精込めて育てた花をなぎ倒す。庭に置いていた雪だるまのオブジェは壊されて道路に散乱した。



またある日はデッキブラシを振り回しチャンバラごっこをして、人に当たりそうになるーー。そんな被害は365日続いた。



子どもたちが遊んでいる間、母親たちは話に夢中で、子どもを一切注意しない。公園は徒歩2分ほどのところにあるのに、決まって遊び場は、道路だった。



●あやうく子どもをひきそうに

家の前の私道は、住民の車が出入りする。加えて配送車、郵便配達のバイクも。入ってきた宅配便の運転手は、飛び出してきた子どもを、危うく轢きかけたこともあった。角谷宅を訪れた友人は、車の周りで子どもたちが遊ぶので、怖くてバックもできずに小刻みに回転しながら、道を出ていくしかなかったという。



いちばん悩まされていたのは、子どもたちの出す騒音だった。音が響き、土日ともなると夕食の時間まで遊びは続く。夏は午後9時頃まで、路上にブルーシートを広げ宴会をして騒いでいたこともあったという。



「夫は地域の子どもボランティア、私は本の読み聞かせのボランティアをしており、夫婦で子どもは大好きです。以前、幼稚園の前で暮らしていたこともありますが、子どもの大声や泣き声は気になりませんでした。けっして子ども嫌いではないのです。



しかし、毎日やむことのない大声や悲鳴。プラスチックカーのタイヤのゴーゴーという音。それは、長男が勉強している時間、夜になっても続いていました」



●話し合いの場で「お宅のほうこそ謝るべき」

そこで、各世帯に手紙を書いた。「騒音がひどいので困っている。道路の使い方について、一度みんなで話し合いしませんか」という内容だった。



角谷さんは、「迷惑がかからない程度の音で遊んでください。車の出入りもあり危ないので、大人数になるなら、公園で遊んでほしい」と言った。



ところが、ふたを開けてみると、角谷家の申し出に反対する世帯ばかり。10対1(1軒は参加せず)で、話し合いに出席した夫は、住民たちに取り囲まれてすごまれてしまう。



「みんな騒音だとは思っていない。うるさいと言っているのはお宅だけ」、「子どもがいるんだから、うるさくなるのは当たり前」、「家の前の道路で遊ばせるために、この家を選んだ」、「共働きで公園には連れていけない」、「小さい子だから注意しても聞かない」、「お宅のほうこそ、1軒1軒回って謝るべきじゃないですか」ーー。



といった意見で、詰め寄られたという。



●夫婦で心療内科へ、嫌がらせはエスカレート

「夫は謝罪を求められて、精神的にまいってしまいました。小学校3年生だった長男が、遊んでいる子どもたちに“もう少し静かにして”と静かに言ったのですが、年上の子に言われたことによって子どもたちが萎縮してしまったと親たちに言われて……」



夫婦はともに心療内科に通うようになり、家にいる時間をなるべく少なくしようと、長男は放課後、教室や塾に通わせた。



●あまりに常軌を逸した嫌がらせ

しばらくして嫌がらせはかなりひどくなった。



脅迫文を送りつけられる。家の前で出会うと、睨みつけられる。角谷さんの家の前で車やバイクのエンジンをわざとふかせた。卑猥な言葉を投げかける。インターフォンに向かって威嚇する。



住人が玄関前に立っていて、外出できなかったこともある。



宅配便がやってくると、「何を買ったの? 夫が汗水たらして稼いだお金で、しょうもないもの買ったの?」と、大声で叫ばれる。家の中にいる角谷さんの姿をカメラで撮影する。 あまりに常軌を逸していた。



中学受験の合格発表も終わり、塾通いがなくなり家に長くいるようになった長男は、罵声や嫌がらせが聞こえてきて、ストレスを感じたようだった。親にも相談できず、登校すると学校の机を削って文字を書いたため、担任教師に謝罪したことも。



「子どもには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」



これらは、6世帯が中心になって行っており、断続的に続いていた。角谷さんが記録していた相手側の行為は、A4用紙、10枚にもわたってびっしりと書かれ、2、3日に1回の割合で何らかの嫌がらせを続けていた。



これに抗して、玄関とガレージに防犯カメラをつけたが、カメラに映らないところで睨み、大声での嫌がらせも続けた。



「不毛なにらみに、疲れてしまいました。防音壁もない自宅前の道路なので、音は響きます。それを注意したのを逆恨みされてしまって、いじめが始まりました。



小さい頃から道路を遊び場にして育ってしまった子どもたちは、寝転がったりしゃがみこんだりして遊び、飛び出しは日常的。ヒヤリハットが起きて、いつ事故が起きてもおかしくない状況でした。



親は注意をしないので、ずっとそのまま。道路族は、親の問題なのだと、つくづく分かりました」



警察に相談するものの、迷惑行為は一向にやむことはなかった。



●裁判に…それでも止まない嫌がらせ

2016年に道路族被害にあった経験のある千葉県の女性がインターネットを使いアンケート調査を行った。回答を寄せた421人のうち、243人は相手に直接注意し、126人は警察に通報。257人は効果がなかったとしている。



さて、17年3月、角谷さん夫婦は、嫌がらせを実行した住民の1人を京都府警に告訴。男性のつきまとい、威嚇行為等は、府迷惑行為防止条例違反容疑で、京都地検に書類送検され、略式起訴で罰金30万円を課せられた。この男性は、やったことは認めたものの、警察側に「最高裁まで争ってやる」と毒づいたという。



それでもまだ嫌がらせは止まらない。記録からは男性3人が直接的な嫌がらせをし、4名が主導して角谷さんを監視していたことが分かった。彼らはいずれも社会的にも信用ある職業についている人ばかり。節度や常識が、彼らにはなぜ通じないのか。



「引っ越しも考えました。ただ金銭的にも難しい面もありましてーー。この家と引っ越した新しい家のローンの両方とを払わなければならなくなると破産してしまいます。子どもにはまだまだ教育費もかかりますので、引っ越しは断念しました」



●「悪魔のように誹謗中傷された」

その後も関係の修復に至っておらず、夫婦は17年11月に10人を相手取って、民事で仮処分申請し、損害賠償を請求。19年9月には訴えを変更し、1332万円を請求している。その内訳は、夫婦の治療費と慰謝料などとなっている。



にらみはいまだに続いている。



「よく、道路族問題の本質を知らない人からは、子どもに対して寛容じゃないと言われるのですが、そういう問題ではありません。住民たちは、私が常識を無視し、悪魔のように誹謗中傷しましたが、普通に考えてもらえばわかること。



道路で遊ぶのは危険。命が奪われることもあるのです。また騒音問題や不法侵入の問題などを、全国の人にわかってほしいと思っています」



道路交通法では「道路において、交通の妨害になるような方法で寝そべり、すわり、しゃがみ、又は立ちどまっていること」や「交通のひんぱんな道路において球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること」を禁止し(75条4項2号、3号)、これに違反した場合には、5万円以下の罰金が科せられる(120条1項9号)と定められている。



また児童や幼児を遊ばせるときには、親はそれに代わる監護者を付き添わせなければいけないとしている。



親は、子どもたちが安心して遊べる安全な場所を自ら確保し、近隣の住民に迷惑をかけないようにすることが、今、求められている。