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道路族問題「昔はみんな家の前で遊んでいた」は通用しない…被害者サイトの管理人に聞く

2020年05月04日 09:21  弁護士ドットコム

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新型コロナウイルスによる緊急事態宣言による公園の閉鎖や休校措置の影響なのか、自宅前の道路など路上で遊ぶ子どもたちの姿が多数、目撃されるようになった。


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しかし、道路には危険がはらんでいる。過去には、自宅前の道路で遊んでいた子どもが車にひかれて死亡した事故が複数起きている。事故に至らずとも、遊びやマナーをめぐり、トラブルがあちこちで起きている。こうした子どもたちは「道路族」と呼ばれる。



実はこの「道路族」と称される子どもと大人による道路族問題は、単なるご近所トラブルで済まされないところまで来ている。社会問題化する被害の実態について取材したーー。(ルポライター・樋田敦子)



●勝手に家に入ってきた子どもたち…引っ越ししを余儀なく

「新築1戸建てを購入した5年前、近所に住む子どもがフェンスによじ登って家に入ってくるなど、びっくりするようなことがありました」



道路族による被害実態や情報交換を行うサイト「道路族.com」の管理人を務める山本進さん(38歳、仮名)は、そう話す。



乱入してきたのは、小学校に入学する前の幼児の兄弟とその友人で、専業主婦で家にずっといる山本さんの妻は、日常の騒音に耐えられず、何度も「静かにして」「家の前では危ないから遊ばないで」と注意したが聞かなかったという。



当初、妻の言うことに耳を貸さなかった山本さんだった。しかし、ある日曜日、家にいて様子をうかがってみて「これを毎日聞いていたら、ストレスになる」というほどの騒音だとわかった。



「どの家も同じです。日ごろ家にいない夫には、そのつらさが伝わらないのだと、妻に言われました」



兄弟の両親は、30代半ばの夫婦。以前住んでいたアパートでも騒音トラブルを引き起こしていたことを後になって知る。夫婦はそのアパートを「うるさい」と、追い出されるような形で出ることになり、4世帯ある新興住宅地の一軒家を買ったという。



山本さんを含め、4軒はほぼ同時期に引っ越ししてきたので、当初は仲も良かった。ところがこの家だけは、子どもが道路で遊んでいても、親は監督もせずに、子どもたちだけを道路で野放しにしていた。



徐々にエスカレートしていった。ゴーッとなるタイヤ付きのプラカーで遊び、大声で長時間騒ぎ、駐車場や家の中に入ってくることもあった。夏になれば夜遅くまで花火をする。その都度、山本さんが注意した。いったんは従うが、また繰り返すといった有様だった。



そのうち、山本さんの妻がノイローゼになり、ほとんど外出しなくなった。さらに昼間にもかかわらずシャッターを閉め、キッチンの冷蔵庫前で過ごすようになる。その場所が、子どもが遊ぶ場所からいちばん遠くに位置するからだった。



「以前は、その兄弟も家に遊びに来たりしていたのですが、何度注意しても言うことを聞かない。親は放りっぱなしで何もしない。私たち夫婦は子ども好きだったのですが、彼らをだんだんかわいいと思えなくなり、距離が離れていきました。



みなさんは、我慢できたのでは?と思うでしょうが、これは経験した者でなければ、わからない、つらい経験でした」



最終的に山本さん夫妻は、新築購入から5年後、家を人に貸して、賃貸に引っ越しした。引っ越しし資金、家を貸し出すための費用等、かなりの金額を工面して、我が家をあとにした。



●「道路族.com」の管理人に! 被害者は全国に多数

山本さんが近所の子どもの問題に直面したとき、「近所の子ども うるさい」とキーワードを入れてネット検索してみると、道路族という言葉に出会った。道路族の被害はまだ認知されておらず、道路族特有の「他人には相談できない」という悩みがあることが分かった。



そこで自身のブログで、道路族被害者の体験談を募集すると、かなりの数の体験談が集まり、さまざまな被害の実態が判明した。そこで山本さんは、相互で相談できる場を設け、被害者の役に立ちたいという思いで、道路族.comというサイトを立ち上げたのだ。



そもそも道路族とは、どういう人たちなのだろうか。



明確な定義はないが、「道路で何かをすることを好み、近所に迷惑をかけている人たち」を指す。その結果出てくるのは、騒音問題、器物破損、不法侵入といった迷惑行為なのだ。 道路で遊ぶことによって生じる問題を総称して、道路族問題というのである。



サイトに寄せられた被害のひどさは想像以上だった。



毎日大声で井戸端会議やバーベキューをする大人たち。子どもは道路上に放っておかれ、道路で寝そべって遊び、大きな悲鳴や奇声を上げる。他人の敷地内に入り、花壇や置物を荒らす。ボールなどで車を傷つける。親は見ていないので、注意もしない。その結果、被害は放置されたままーー。



「立ち上げたサイトは、Twitterで拡散されて、広がっていきました。現在サイトを訪れる人は、月に1万人ほど。30、40代の女性が7割を占めています。その中には、私のように引っ越しを余儀なくされた人、精神的に追い詰められた人もいて、数々のトラブルを抱えていました。



特に引っ越ししは費用や通勤、子どもの学校の問題も絡んできますから、単に引っ越ししをすればいいわけではない。厄介な問題です」



●「水着姿で道路遊び」「家に入ってソファーで飛び跳ねていた」

道路族.comに寄せられた投稿を拾ってみた。




「水着姿で水鉄砲を持って道路で遊び、ドン引きしていたら、さらに道路に水を撒いて泥水たまりでゴロゴロ。人や車が通るのに、開いた口がふさがりませんでした」



「何回もボールやフリスビーを敷地内に飛ばし、子どもは取り戻すために塀を乗り越えて、不法侵入し、持ち去る。親は“窓だけは割らないでよ”としか言わない」



「我が家のガレージ内でスケボーをして、車のリアバンパーを傷つけた。親は“本当にうちの子?”と言うので、防犯カメラの映像を見せると“盗撮”とか言われた」



「夜勤勤務が終わり、帰って寝ようとすると道路族の子どもたちが奇声を上げている。静かにしてほしいとお願いしたら“シフト表を見せろ、そのときだけ静かにしてやる”と言われた」



「家に勝手に入ってきて、冷蔵庫を開け、ソファで飛び跳ねていた」



「バイクのミラーを割られ、自転車のタイヤを割られました」




と常識では考えられないような投稿だったという。



●道路族「出現ポイント」チェックリスト

さて、山本さんによれば、道路族が出現しやすいポイントがあるという。それは以下の通り。




(1)新興住宅地



「新しく住宅地ができるというのは、さまざまな考えを持った人たちが集まるということで、自分で買って入居した家だから何をしても構わないという考えの人がいます。引っ越ししてすぐは、気を遣っていますが、あっという間にマイルールを押し付けてくるようになることもある。子育て中の若い親たちの間では井戸端会議が毎日のように行われる。集団による嫌がらせやいじめも起こりやすいのです」



(2)袋小路



「袋小路には、住民以外の車両や、人の出入りが少ないため、道路を封鎖するように道路族の行動が出てきます。子どもを遊ばせやすいため、騒音被害が多いのが特徴です」



(3)旗竿地(はたざおち)



「旗竿地とは、通路から奥まった部分に敷地が広がる土地のことで、駐車場部分も迷惑行為が発生する可能性があります。我が家も旗竿地でした」




●学校、警察に頼んでも解決に至らなかった

道路族に対して、私たちはどのような対応ができるのだろうか。山本さんが話す。



「学校に頼んでもほとんど解決した試しがなく、警察を通して何度注意しても聞かない人たちが大半です。普通なら、“こんなに毎日道路で遊んでいたらうるさいよね”と考えるものなのに、一切考えないので謝罪はない。“いつもすみません”と謝れる親たち、大人たちだったら、多少うるさくても私たちは我慢できます。



しかも道路で遊んでいたら事故にあうかもしれないという想像力がない。個人的な意見ではありますが、公園があるのになぜ道路で遊ばせるのか。道路族の問題は、親の問題でもあり、ご近所トラブルではすまされないところまできています」



こういった道路族被害者に対して、「子どものすることなのに大げさ」「きちんと話し合えば解決するはず」「子どもたちに対して不寛容ではないか」といった反論も聞こえてくる。



これに対して、山本さんは言う。



「小さいことで文句を言いすぎ、寛容でないという批判があるのは知っています。まさにここが道路族問題の核心なのです。表面的には道路で子どもが遊ぶという光景は、普通の何でもない光景に映りますが、被害の例をみても分かるように、内情はまったく違うのです。



昭和の時代は、道路で遊んでいる子どもたちがいました。当時は車も少なく、隣近所との信頼関係があり、それで生活は成り立っていました。



しかし今は車も増え、近所との付き合いはほとんどなくなりました。その中でみんなが使う道路で遊ぶのは危険極まりない。被害者の多くは、何年も我慢し、お願いし、注意して、いろいろな手段を尽くしてもダメだったのです。しかも学校、警察、行政に頼っても、それでも解決できませんでした」



●「居場所がないので、道路で遊ぶというのは間違っている」

また子育て中の母親からは、次のような意見もある。



「近所の公園は、どこも子どもでいっぱいで、ボール遊びを禁止しているところもある。開校日でも校庭で遊べる日は決まっていて、しかも短時間。こういった事情からやむを得ず住宅街の道路で遊ばざるをえないのです」(東京在住、主婦)



そのほかにも「子育ては大変なのだから、多めに見てほしい」「声が聞こえる場所なら親も安心していられる」「忙しくて公園に連れていけない」「車が通らないので安全」と、続く。



「子どもたちの居場所がないので、道路で遊ぶというのは間違っています。国土交通省によれば、1960年から都市公園は増え続けています(ただし、ボール遊びを禁止する公園は増えている)。少し離れていても、親が子を連れて公園に行く。連れて行かないのは親の怠慢だと思います。



公園でボール遊びを禁止しているなら、行政に掛け合えばいい。公園でボール遊びが危ないのなら、道路でのボール遊びのほうがもっと危ないです。遊べる公園を探す。学校に掛け合ってグラウンドを使えるように、保護者同士で話し合って使えるように働きかける。それが親の仕事だと私は思います。



残念ながら、道路族問題を解決する方法は、いまだ見えません。被害者の会はまだ結成していないので、個々で戦っていくしかないのが現状です」(山本さん)



山本さんは被害者の声を大きくして、道路族の問題を認知してほしいという。



次回は、近隣に住む道路族の5世帯と8年にわたって争い、現在は民事で損害賠償を求める訴えを起こしている女性の話をお届けする。