トップへ

「休業応じないパチンコ」知事ら罰則要求、大臣も法改正を示唆…違憲では?

2020年05月04日 09:01  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

新型コロナウイルスの封じ込めのため、休業指示に応じない事業者に対する罰則を求める声が広がっているようだ。


【関連記事:花嫁に水ぶっかけ、「きれいじゃねえ」と暴言…結婚式ぶち壊しの招待客に慰謝料請求したい!】



たとえば、4月29日にあった全国知事会のウェブ会議では、富山県知事らが「罰則を伴った法改正が必要」などと発言。多くの知事が同調したという。



休業要請・指示の根拠となっている「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」では、応じなかった企業名の公表はできるが、罰則の規定がない。



罰則規定をめぐっては、西村康稔・新型コロナ対策担当大臣も、法改正を示唆する発言を繰り返している。



企業にもさまざまな事情がある。緊急事態とはいえ、簡単に私権を制限することはできるのだろうか。早田由布子弁護士に聞いた。



●なぜ「罰則」が望まれるのか

新型インフルエンザ特措法では、多数の人が集まる遊技場等に対し、都道府県知事は、使用の制限・停止等を要請することができます(法45条2項)。




措置法45条2項
特定都道府県知事は、(…)当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。




そして、事業者が正当な理由なくこの要請に応じないときで、特に必要のあるときは、使用の制限・停止等を指示することができます(同法45条3項)。




措置法45条3項
施設管理者等が正当な理由がないのに(...)要請に応じないときは、特定都道府県知事は、(...)当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。




5月1日、兵庫県知事が休業の要請に応じなかったパチンコ店に対し、全国で初めて休業を「指示」したことが報道されました。同日、神奈川県もパチンコ店に休業指示を出しています。



これは、事業者が従う必要のない「要請」ではなく、休業する法律上の義務を負ったことを意味します。



現行法では、その義務に反したからといって、罰則等があるわけではありません。実際、休業指示が出てからも営業しているパチンコ屋があるようです。



そのため、より強制力を持たせるよう、罰則を設けることが言われているのです。





●「営業の自由」との衝突

営業を継続してきたパチンコ店等の事業者に対し休業を指示するというのは、どういうことでしょうか。



店舗を維持するためには多額の経費がかかります。毎月の家賃、従業員に対する休業補償や社会保険料。休業して入ってくるものがなくても出ていくばかり。



一方、休業を指示したとしても、その損失を補償すべきとする条文はありません。要は、事業者が一方的に損失を負うだけなのです。



これは、公権力による営業の自由・職業選択の自由の侵害です(憲法22条)。



●補償なしで「罰則」なら、違憲か

この営業の自由に対する侵害は、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するためなので、国民の生命・健康に対する危険を防止するための、「消極目的規制」にあたります。



判例上、規制の必要性・合理性が認められ、より緩やかな規制手段では同じ目的が達成できない場合に、合憲となります。



新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するためという目的は正当でしょう。



しかし、現に営業している店舗に対する休業指示なのですから、休業しているだけで損失が積み重なっていくという意味において、営業の自由に対する侵害の程度は極めて高いものになります。自ずと、規制の合理性も高度のものが求められます。



休業による損失を補償する法的枠組みもないまま、法改正により罰則付きの休業指示を設けると、営業の自由の侵害の程度が大きすぎるため、違憲の疑いが濃いといえます。





●「休業」がすべてなのか?

また、事業者が、客が着席するスペースに2メートルずつ間隔を開けるように席を間引いたり、換気をしたり、アルコール消毒やマスク着用を義務付けるなどの感染防止策を取っている場合、その店に休業の指示を罰則付きですることが合理性あるといえるのでしょうか。



現行法上、休業以外にも、入場者の整理、手指消毒設備の設置、施設の消毒等の措置を要請・指示することはできます(特措法45条2項・3項、同施行令12条)。



休業指示より緩やかな措置を講ずべきことを指示することは考えられるでしょう。



●「補償の枠組みを整えるのが、政治の役割」

現在、休業・自粛の要請に基づき、多くの企業・店舗が休業したり事業を縮小したりしています。



法的義務はないけれど自主的に休業したり外出を自粛したりして、それによる損失に耐えている事業者・市民からみれば、なぜあの店だけ営業しているのか、ずるい、と思ってしまうのは自然な感情です。



しかし、みんなのために休業し、その損失を丸抱えしてがまんしろというほうが無理な話です。「休み損」になってしまわないよう、補償の枠組みを整えるのが、政治の役割だと思います。




【取材協力弁護士】
早田 由布子(はやた・ゆふこ)弁護士
労働者側の労働事件を中心に扱う。「明日の自由を守る若手弁護士の会」事務局長。2010年弁護士登録、第二東京弁護士会。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/