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ゲーム実況コンビ・幕末志士、大団円のその先へ “ヒモで縛らない二人三脚”で踏み出す新たな一歩

2020年05月03日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 人気ゲーム実況コンビ・幕末志士が最後のライブ配信『幕末ライブ!最終回』を行ない、12年に渡る活動を終えた。


(参考:ありがとう幕末志士 人気ゲーム実況コンビが“最後の生放送”


幕末志士の人気はニコイチ感にあり
 坂本龍馬、西郷隆盛と名乗り“幕末志士“として活動をする以前から、幼なじみだった2人。多くのファンを惹きつけたのは、彼らのゲーム実況の面白さの根底にある、2人の友情だった。慎ましい暮らしをしていた幼少期、クラスメイトからの風当たりが厳しかった時期も、2人は支え合うようにして歩んできた。


 同じ釜の飯を食った仲、竹馬の友、唯一無二の親友、ニコイチ……と呼び合い、旅行先ではテンションが上がってスクラムを組み、お互いの家に入り浸ってゲーム三昧。ときには、黒歴史を紐解いて爆笑して昇華する。そんな友人を持つことは、ものすごく幸運なことで、どんなに大金を積んでも手に入らない財産だということを、私たちは知っている。


 だからこそ、幕末志士が活動を終えることに大きなショックを受けた。とはいいながら、どこかでうすうす感じている部分もあった。幕末志士のプロジェクト規模はどんどん大きくなり、いちファンとしてはそれはそれはワクワクさせてもらった。だが、おのずと2人にかかるプレッシャーも増えていった。好きだからこそ追い込んでゲームをやりこむ西郷。その姿に責任を感じて気遣う坂本。人生で最も楽しい“親友とゲーム“を続けて生きていけたら……と願っていた2人が、いつのまにかしんどさを感じる日々が続いてしまった。


最終回は2人だけの時間に
 そんな空気を感じていたからこそ『幕末ライブ!最終回』で、「時は幕末!」「ババンッ!」と、おなじみの茶番からスタートしたことに心から安堵した。この決断は、彼らの友情に歪みができたわけではなかったと、改めて確信したからだ。「西郷さんの気の済むまでやりましょう」という坂本。そこからは、完全に2人の時間だった。途中で画面が止まっても気づかないほど。


 懐かしのサッカーゲームでは、いつものように坂本に圧勝する西郷。『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』をオマージュしたオリジナルゲーム『サッカチャン2 Dr.サイゴーの謎』では、相変わらず坂本が見事な死にっぷりを披露して笑いを誘う。ゲームのオチが、Dr.サイゴー(西郷)がサッカチャン(坂本)を家に呼んだだけだったというのも、2人らしさがにじみ出て微笑ましい。万単位の人がその様子を見届けても、彼らの世界はずっと2人のものだったのだから。


 YouTubeでのライブ配信後、古巣のニコニコ動画で締めくくろうとしたのだが、「ただいまメンテナンス中」の表示に苦笑してしまった。ゲームをすればバグを出し、その狙わずとも“持ってる感“が飛び出すのは、幕末志士のいわばお家芸。最終回でもこんな展開が待っているとは、やはり最後まで幕末志士らしい。再びYouTubeでレトロゲーム『六三四の剣 ただいま修行中』をプレイして盛り上がる2人。坂本も西郷も実に楽しそうで、その姿を眺めながら嬉しくて寂しくて涙が滲んだ。


「二人旅 道はわかれど すぐ横に」
 そして、活動を振り返るトークタイムに。「いろいろあったけど振り返ってみれば、全部いい思い出」(坂本)、「うん。本当そうです」(西郷)。これまで様々なネットコミュニティから追われるように去ってきた経験を持つ坂本は、Twitterでも「今回は僕の人生で唯一、黒歴史として終わらなかったエピソードになりそうです。ありがとうございます」とつぶやいていた。


 先日のソロ配信では、進行中だったいくつかのプロジェクトを凍結させてしまうため、当面の活動は幕末志士で広げに広げまくった風呂敷をしまう作業をすることになるとも。それでも今回の最終回配信を受けて、人生初の大団円を迎えることができそうだとしみじみ語る坂本に、西郷が「終わる気でいるんですか?」と問いかける。「え?」思わぬツッコミに驚く坂本。さらに西郷は「私、最後に言いたいことがある」と続ける。あまりにも恥ずかしいので、事前に録音してきたという内容に、坂本も、ファンも、ドキドキしながら耳を傾けた。


「最後に坂本にひとこと言いたい。前から言いたかったんだけど、お前のその懇切丁寧な気遣いは何なんだよ! 介護してんじゃねぇ! いいか、お前は勘違いしている! 何から何まで片方が負担するのは、ニコイチとは言わねぇ! 俺は疲れて歩けなくなったんだから、黙って捨ててけ! おんぶしてんじゃねぇ。じゃないと、いつまでたっても、自分で歩けねえだろ。こんなところで止まらず、先に進んでくれ。俺もお前に頼らず、今度は自分の力で歩いていく。いずれ対等になるから! そのときはなんかの形でまた会うべ。ひとこと、終わり!」


 聞き終えるやいなや「うわぁぁぁぁ、恥ずかしいよぉぉぉ! こいつは何を言ってるんだ、恥ずかしいよぉぉぉお!!!」と叫びまくる坂本。いつもならそのまま照れ隠しを続けるところだが、今回は最終回。真面目に録音した西郷の言葉に向き合う。仕事でのつながりではなく、友だちだからこそ、担いででも一緒に歩いていこうとしたこと。坂本にとって「ニコイチ」とは共倒れも覚悟の“愛”だったのだ。


 そんな坂本に西郷が提案したのは、隣を同じ歩調で進む「ニコイチ」。それは、まるでヒモで縛らない二人三脚。疲れたら休み、回復したら、またスクラムを組んで走ればいい。ただ、1人が休んでいる間も、肩を組み続ける必要はない。ましてや、もう1人が担いで走る必要はないということ。


 言われてみれば「ニコイチ」ではなく「コモチ(子持ち)」のように、西郷に接していたと振り返る坂本。「歩けるのか、ひとりで?」と、しばらくは過保護な視線は抜けきれないようだが、そんな坂本が最後に詠んだ1句が「2人旅 道は分かれど すぐ横に」だった。


 坂本が最も照れる「お涙ごっつぁん」な展開となった最終回。だが、これが終わりではなく、仕切り直しだということが十分伝わってきた前向きな配信に救われた。きっと幕末志士とファンの関係も対等に仕切り直すチャンス。「この時間が終わらなければいいのに」と思える時間をくれた感謝を、スーパーチャットで少しでも返せたのは、せめてもの救いだ。だが、西郷が言ったように、孝行をしきれたと思う日は来ない。こちらも、まだ返しきれていない気分なのだから、ぜひまた何かの形で戻ってきてもらわないと困るのだ。その日まで、アーカイブ動画を何度も見直して待つとしよう。この先の人生に、“また会いたい2人の友がいる“と思える幸せを噛み締めながら。


(佐藤結衣)