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さだまさしに聞く「緊急事態宣言の夜に」を歌った理由 「これが音楽家として僕にできること」

2020年05月03日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

さだまさし

 緊急事態宣言が発令された3日後の2020年4月10日、さだまさしがオフィシャルYouTubeとLINE LIVEで「緊急事態宣言の夜に」と題した楽曲を披露した。


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 〈お前のおふくろを 死なせたくないんだ〉ではじまるこの曲では、ウイルスに罹らないことの重要性、生活インフラを守る〈警察、消防、郵便、宅配、コンビニ、薬局、スーパー、自衛隊のみんな〉、そして医療関係者に対する感謝とエール、さらには争いを超え、連帯を求める〈今 ひとつになろう〉といった呼びかけが歌われており、発表直後から大きな話題を集めた。


 リアルサウンドでは、さだまさしに「緊急事態宣言の夜に」を軸としたインタビューを行った。同曲を発表した経緯、歌に込めた思い、新型コロナウイルスによって甚大な影響を受けている現状について話を聞いた。(森朋之)


歌おうと決心したのは生配信が始まってから
ーー緊急事態宣言の発令が4月7日。その3日後の4月10日に、YouTube、LINE LIVEで「緊急事態宣言の夜に」を発表して、大きな話題を集めました。


さだまさし(以下、さだ):“発表した”というきちんとしたものではないんですけどね。4月7日に緊急事態宣言が発令されて、その日がたまたま僕の母の命日だったこともあって、『「緊急事態宣言」に今 思うこと』というエッセイを書いたんです。最初は「Masa@Mania」(まっさマニア)というファンの方向けの月額サイトにのみ公開しようと思っていたら、スタッフから「これはたくさんの人に発信しましょう」と言われ、公式のInstagram、LINE、Twitterなどに載せて、さらに翌日、そこで書いたことを歌にしました。


ーーそれが「緊急事態宣言の夜に」なんですね。


さだ:ええ。4月10日は僕の誕生日だったんですが、「こんな日にコンサートもできなくて、何も発信できないのは寂しい」と思い、レコード会社に頼んで、オフィシャルYouTubeとLINE LIVEで生配信ライブをやらせてもらって。歌を歌ったり、バカなことを話したり、みなさんに楽しんでもえることをやろうと思っていたんだけど、緊急事態宣言を受けて、何も意見を言わないというのは何だか卑怯な気がしてしまって。それで、作ったばかりの歌を歌おうと。直前まで迷いましたけどね。「どうしよう、でも、歌うか」と決心したのは、生配信が始まってからでした。(歌詞の)推敲もできていないし、メロディも不安定だから、おそらく歌い出しと途中ではメロディが変わってるんですよ。ほぼ即興で歌ったようなものだし、新曲の発表というわけではないんです。そのときの僕の思いを音楽家としてぶつけたと言うのかな。


 エッセイと同じで、賛同してくださった方もいれば、反対意見もありましたね。その気持ちもよくわかるんです。だけどね、僕が文句を言って解決するならともかく、「カッコつけて言ってるだけ」みたいになるのが悔しくて。だったら、〈お前のおふくろを死なせたくない。だから俺はこの病気に罹らないように努力するし、お前に会わない努力をする〉ということを歌うべきだなと。


■表現者として歌を作ることはもちろん、発信を続けたい


ーー実際問題として、何ができるか? という。


さだ:人とできるだけ“会わない”努力をしていかないといけないと思うんです。全員が抗体を持つまで終わらない病気ですから、ウイルスをできるだけ遠ざけて、薬とワクチンを待つしかない。とにかく逃げるという作戦ですよね。僕は、いまの状況を“見えない宇宙人が攻めてきた戦争”に例えているんです。「コロナウイルス」という名前の宇宙人が攻めてきて、こんなにも人を傷つけているのに、人間同士が争っている場合じゃないし、「家で我慢する」という戦いなら出来るんじゃないか、と。ただ、「家でじっとしていたら、世の中が動かない」という役割の方もいらっしゃるんです。


ーー「緊急事態宣言の夜に」でも歌われている、生活インフラに関わる方々ですね。


さだ:はい。生活インフラに関わるみなさんには、感謝を捧げないといけないなと。こういう時期にゴミを集めて、処理してくださる方々がいるんですよ。怖いですよね。誰が鼻をかんだか分からないティッシュがいっぱい入ったごみ袋が、バラッとほどけてしまったり……。防護服も着ていないのに大変ですよ。本当に頭が下がるし、感謝の思いでいっぱいですよね。警察、消防署、宅配、自衛官のみなさんもそうだし、もちろん医療関係の方々もそう。僕の知り合いの若いお医者さんから、「(医療の)現場に入るとき、遺書を書く同僚がいる」という話も聞きました。重症化するリスクがある以上、そういう覚悟で医療に当たっているということですよね。そういう決心が伝われば、なるべく不要不急のときに「家から出ない」ということは僕たちにもできるはずだと思うんです。そのあたりのことは(「緊急事態宣言の夜に」のなかで)歌に入れられなかったから、次に披露するまでに直すつもりです。歌うチャンスがいつ来るのかはわからないですけどね。少なくともレコードにするつもりはないですが、これが音楽家として僕にできることです。


ーー5月20日にはニューアルバム『存在理由~Raison d’etre~』がリリースされます。ライブの開催はしばらく難しい状況だと思いますが、今後はどんな活動をしていこうと考えていますか。


さだ:表現者として歌を作ることはもちろんですが、発信を続けたいと思ってます。“生さだ”(NHK『今夜も生でさだまさし』)も4月25日に放送したのですが、井上くん(井上知幸/構成作家兼アシスタント)、住吉くん(住吉昇/音響効果)はパソコンで参加してもらいました。仲がいいからこそ、「(スタジオには)来ないでね」っていうことですね。その他にも、YouTube、LINE LIVE、インスタライブなど、いろんな形で伝えていけたらいいなと。表現するのが僕らの仕事ですからね。(森朋之)