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=LOVEや≠MEら楽曲で光る、指原莉乃の柔軟な作詞力 アイドル愛に満ちた“発想力”も武器に

2020年05月02日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

=LOVE『CAMEO』

 指原莉乃がプロデュースするアイドルグループ=LOVEと≠MEが、新曲「次に会えた時 何を話そうかな」のMVを4月15日に公開した。


(関連:=LOVE、シングル6作目にして初首位に 指原莉乃による色彩豊かな言葉選びと“声”を活かしたサウンドアレンジ


 本作は、新型コロナウイルスの影響によりシングルの発売が延期した状況を受け、プロデューサーである指原莉乃の発案により急遽書き下ろされたもの。彼女自身が作詞をし、メンバーはスマートフォンのボイスメモアプリによって歌声を録音し、作曲からミックス作業、撮影からMV制作に至るまで、すべてリモート制作されたという。


 楽曲はタイトルの示す通り、離れ離れになった現状をもとに次会う時への期待感を歌った一曲で、寂しさの中にも愛が詰まった作品になっている。〈会えない時間だって 変わらず 大好きでいるよ〉というサビ終わりのフレーズは、グループからファンに対する感謝の言葉としても、メンバーに会いに来れなくなったファン感情をすくい取った言葉としても、あるいはメンバー同士のつながりを歌った言葉としても読み取れる秀逸な一節だ。


 こうした危機的状況をプラスの力に変えて、作品へと昇華する巧みな作詞力は評価されるべきだろう。プロデューサー兼作詞家としての指原莉乃の手腕が発揮された一曲と言えそうだ。


 彼女の作詞家デビューは2012年、自身のソロ2ndシングル『意気地なしマスカレード』(名義は”指原莉乃 with アンリレ”)に収録されたカップリング曲の「遠い街へ」と「ifの妄想」まで遡る。


 その頃の彼女の作風は、何気ないセリフを盛り込むことで聞き手に感情移入しやすく書いているのが特徴だった。たとえば「遠い街へ」の一節。


「今日は 何をしているの?」
「変わらない いつも通り」
会いたい気持ちを伝えられなくて
冷たいメールばかり
(「遠い街へ」より)


 遠い田舎から上京してきた彼女がふとした瞬間に感じる故郷への思いを歌った曲だが、主人公の思いとは裏腹に展開されるそっけないやり取りが妙にリアルで、相手との距離感が如実に伝わってくる。また「ifの妄想」でも同様にセリフが用いられている。


Zu, Zu,「ずっと私と 一緒に いてほしいの」
Ah あなたに 言えない こんなセリフ
「君の気持ちに僕は気付いてたよ」
言われたら どうしよう!?
(「ifの妄想」より)


 主人公の妄想が繰り広げられる歌だが、乙女心がそのままセリフとして表現されている。どことなく少女漫画的なのは、かねてよりファンだと公言しているつんく♂をはじめとしたハロー!プロジェクトの影響だろうか。


 2013年には当時SKE48に所属していた松村香織のソロ曲「マツムラブ!」へ歌詞を提供。2018年にはラストアイドルの作品へも3曲提供している(Someday Somewhere「この恋はトランジット」、Love Cocchi「いつかキスするその日が来ても」「Love Docchi♡LOVE DOCCHI」)。このように彼女はアイドル時代からすでに作詞を任されていた。


 しかし、自身でプロデュースしている=LOVEでは新しい一面を見せていく。昨年リリースされた5thシングル曲「探せ ダイヤモンドリリー」の冒頭は次の通り。


はらり花びら舞
古い校舎眺め
桜の歌口ずさんだ
(「探せ ダイヤモンドリリー」より)


 これまでの“人”主体の歌詞から、“景色”や“季節”を感じさせる単語が増えていき、曲に色合いや季節感が帯びている。初のオリコン首位を獲得した6thシングル曲「ズルいよ ズルいね」でも色彩豊かな言葉選びが特徴だったように、ここ最近の彼女の歌詞には視覚的な要素を盛り込んだ詩的な表現が目立つ(参照:=LOVE、シングル6作目にして初首位に 指原莉乃による色彩豊かな言葉選びと“声”を活かしたサウンドアレンジ)。


 そしてさらに新しい傾向を見せたのが、今回発売延期の決まった新曲「CAMEO」である。


Hey 強気の乙女なんて
Hey いないと思ってます?
(「CAMEO」より)


 これまでの作品に通底していた“少女の儚い想い”路線から一変、異性を翻弄する“小悪魔”的な女性像が全面的に描かれている。いわゆるガールクラッシュ的な、近年のガールズグループのトレンドを汲んだ作風だ。


 かと思えば、4月6日に公開された姉妹グループ≠MEの新曲「君と僕の歌」ではさらに異なるスタイルへ挑戦。


夢だった この場所に立ってる
全て捨てて( (今は))
戦うんだ 挑むんだ
(「君と僕の歌」より)


 初期の日向坂46を彷彿とさせる“青春感”たっぷりの歌詞にグループのストーリー性を含ませる手法は、まさに秋元康イズムを受け継ぐもの。そして、本人がTwitterで明かしている〈すんごい雨〉へのこだわりは、むしろつんく♂的なのが面白い。


 このように自身が影響を受けてきた歌詞のスタイルを自在に使い分け、色彩豊かな彼女独自の表現も組み込みつつ、時にはK-POPのようなトレンドにも踏み込めるその“柔軟さ”こそ、彼女の特筆すべき能力だろう。あるひとつの“型”にこだわらず、歌い手のカラーや状況に応じて作風を変化させている印象だ。


 また、“アイドル想い”な姿勢も見逃せない。今回の「次に会えた時 何を話そうかな」についても、現在活動休止中の高松瞳を参加させることによって、療養中の仲間を待つグループからの温かいメッセージとしても聴ける作りになっている。こうした姿勢は、自身もアイドルとして活動していた経験からくるのだろう。


 陥った状況を即座に作品へと昇華できる機動力、作品ごとに異なるスタイルを選べる柔軟さ、そしてアイドル出身だからこその発想力。


 アイドルとして一時代を築いた指原莉乃がいま、プロデュース業でもその敏腕ぶりを発揮している。(荻原 梓)