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スタバ、ドトール、ぽえむ……喫茶チェーンには“キャラ”がある? 後藤由紀子の『喫茶チェーン観察帖』レビュー

2020年05月01日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『喫茶チェーン観察帖』 飯塚めり 著

 新型コロナウィルスにより外出自粛要請が出て、「また来週ね」と話していた友達に急に会えなくなったり、打ち合わせや展示会がなくなったり、おいしいものを囲んで乾杯することがなくなったりと、人と触れあえない寂しさ、味気無さを感じています。


 お茶やお酒を飲みながら、どうでもよいことを、だらだらとおしゃべりする時間というのはとても大切だったんだなーと、何でもないようなことが幸せだったんだなーと再確認しました。


参考:阿川佐和子が綴る“食卓の思い出”にワクワク 後藤由紀子の『アガワ家の危ない食卓』レビュー


■喫茶チェーン店のみをまとめた本


 そんな時、この本に出会いました。喫茶できない寂しさを紛らわすように読みました。チェーン店しばりというのは面白い切り口です。もともと純喫茶が好きで、おじさんがスポーツ新聞を読んでいるような雰囲気が居心地よく、接客も必要最小限でぶっきらぼうなくらいがちょうどよかったりします。おしゃれでお茶しに行く目的ではないので、テンションがあまりに高い店だと、それに圧倒されて疲れてしまいます。浮足立っていないお店が好みです。


 前書きにはチェーン店ごとに「人格、キャラ」を感じるとあります。必ずしも計算されたものではなく、お店のこだわりや歴史などからにじみ出てしまったマニュアルを超えた「味」、その人格のようなものに惹かれているから、お店に通っているとのこと。なるほど、確かにそうかもしれません。だからこそ、たくさんあるチェーン店でも実際足しげく通うのは、私の場合2、3店なんだなーと思いました。


 トップバッターは「スターバックス コーヒー」。


「スタバを味わうための背伸び」をしていた時期がありました。(本文より)
 という一文から始まります。本を出すほどのエキスパートでも最初は素人なんですね。私もスモールといまだに言ってしまったり、ダサさ全開です。コーヒーカスタム以前のレベルです。飲み物はもちろんフードに至るまで事細かに書かれています。イラスト付きなのでとても分かりやすい。私の住む地元にもようやくあちらこちらでスタバの開店がありました。友人からもスタバのドリンクチケットがLINEで贈られる時代です。この本を熟読し入門編として楽しんでいけたらと思います。


 次は私の愛する「ドトールコーヒーショップ」。いつだって「ド定番」とあります。そう、その定番感から安心して足しげく通ってしまうのだと思います。すっきりしたデザインの器できちんと出てきてBGMも良いんですよ。出張先にも近くにドトールがあるのならホテルの朝食をつけないほど好きです。新幹線に乗る前も、三島駅のドトールでホットドッグのモーニングセットを買ったり、やる気満々の時は季節のミラノサンドを買ったりしちゃうくらいです。ミラノサンドは紙ナプキンを使うとよりスマートに食べられるという、裏技もご紹介されています。地元にもあり都会にもあり地方にもある安定感にホッとできるお店です。


 「アフタヌーンティー・ティールーム」。東京時代は友達がパルコパート3店にいたことから、しょっちゅう通っていました。この本にもあるようにコゼーの役割を初めて知ったり、カフェオレボウルでカフェオレを飲んだり、クロテッドクリームをスコーンにつけたり、いろいろと初めて尽くしのお店でした。気の利いた音楽が流れて、お店に来ているお客さんのおしゃれな洋服を横目にちらちら見ながら、友達とおしゃべりに花を咲かす、そんな場所でした。ただの喫茶店ではないアフタヌーンティールームのカルチャー色の強めなところが、20歳そこそこの小娘には興味津々なお店でした。


 今はもうすっかりおじさん化してしまっている私は縁遠くなってしまってますが、この本を読んでたまにはおしゃれして行ってみようかなーと思いました。


 行ったことがあるチェーン店、名前も知らなかったチェーン店など、いろいろ掲載されていますが一番気になったのが「コーヒーハウスぽえむ」。「おもてなしがニクイ」と見出しにあります。珈琲の種類が100種類あって、スコーンの種類もたくさんあるそう。マスターはものかげにいらして、チェーン店なのですが店によってメニューも様々で何だか面白そうです。今の状況が落ち着いたら、ぜひ各店舗を順番にいろいろ伺ってみたいなーと思いました。友人が住む駅にもあるみたいなので、呼び出しもできたらいいなーと夢が広がりました。


■落ち着いたら友達誘っていってみよう


 この本の中では各チェーン店を擬人化しています。これが的を射ていて見事です。ドトール系列のお店は一緒にいて不思議といやされる友人。清楚で60’sレトロガールのシャノアール姉さんと、トラッドで活発なベローチェちゃんなどなど、著者の妄想が膨らんでいます。喫茶チェーン愛がもたらすものだと思います。それぞれのコーヒーが入ってくる器についても、イラスト付きでわかりやすく、しかもかわいく紹介されています。こういう本を書く方というのは場数踏んでいるだけでなく、探求心と想像力が豊かなんでしょう。お茶をしていて心地よいとかおいしいとかは思いますが、私の場合はそれどまり……玄人と素人の違いですね。


 この本は章立てもとても面白いです。CHAPTER5は地方から首都圏へ。CHAPTER6はカフェに使える他ジャンルチェーン。と、もはやカフェではないけれどカフェに使っちゃう店ってありますね。下北沢の「ミスター・ドーナツ」は若いころ夜遊びするときの集合場所だったし、「デニーズ」はママ友との集いの場。「PAUL」も待ち合わせまでに時間があると品川エキナカで時間つぶしたり。確かにあります。ジャンルは違うけれど、町中華チェーン店を居酒屋みたいにしている友人もいたりして、ラーメンは食べたことないけど飲み会で使うと話していたことを思い出しました。そんなもんですよね。


 それぞれが好きなように楽しんでコミュニケーションをとる場所。そんな時間をかけがえがなかったなーと振り返る今、そしてこれから、落ち着いたら友達誘っていってみようと計画する楽しみ。今はそんなときかなと思い、もうしばらくじっとしていようと思います。


■後藤由紀子(ごとう ゆきこ)
1968年静岡県生まれ。静岡県沼津市の雑貨店「hal(ハル)」店主。庭師の夫、長男と長女の4人家族。センスの良い暮らしぶりが雑誌などで人気。著書に『50歳からのおしゃれを探して』『おとな時間を重ねる 毎日が楽しくなる50のヒント』『毎日続くお母さん仕事』『日々のものさし100』など、暮らしまわりにまつわる著書多数。