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二階堂ふみ、朝ドラ『エール』で体現する一貫したテーマ 大河でも披露した歌唱シーンにも注目

2020年05月01日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』写真提供=NHK

 連続テレビ小説『エール』(NHK総合)で主人公の古山裕一(窪田正孝)の妻となるヒロイン関内音を二階堂ふみが演じている。


参考:窪田正孝の真価はきめ細やかなリアクションにあり コメディ色の強い『エール』で際立つ演技力


 「全身女優」という形容詞がこれほど似合う人もいない。すでに大女優の風格すら漂う二階堂だが、実は朝ドラは初出演。2,802人からオーディションで選ばれただけあって、意気込みは十分だ。音はその名前が表すように音楽への情熱を胸に秘めており、歌手として作曲家の夫・裕一とともに二人三脚で歩んでいく。


 『エール』では歌唱シーンもある二階堂だが、大河ドラマ『西郷どん』(NHK総合)でその美声は披露済み。奄美大島に流刑になった西郷隆盛(鈴木亮平)の二番目の妻・愛加那を演じ、第18話冒頭のシーンや、第21話の西郷との別れの場面では切々と胸に迫る島唄を聴かせた。共演した鈴木亮平から「感性のバケモノ」と称される二階堂は、大河ドラマは『西郷どん』のほか『平清盛』(2012年)、『軍師官兵衛』(2014年)にも出演。それぞれ平徳子と淀(茶々)という武家のファーストレディーを演じて強い印象を残した。


 10代でデビューした二階堂のキャリアはドラマと並んでスクリーンが主戦場。2011年に『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』で映画初主演を飾ると、園子温監督の2012年作『ヒミズ』でヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。その後も浅野忠信と共演した『私の男』(2014年)、大杉漣との共演『蜜のあわれ』(2016年)、行定勲監督『リバーズ・エッジ』(2018年)の主演など、若手の演技派としての評価を確立した。


 役者としての二階堂はどんな役柄もものにする振れ幅の広さが頭抜けている。『翔んで埼玉』(2019年)で男子の生徒会長、『地獄でなぜ悪い』(2013年)ではヤクザの娘で元・人気子役を演じるなどまさに変幻自在。さらには人間以外の生き物(金魚、『蜜のあわれ』)にも扮した。それでいてどれも二階堂のはまり役になっているのはさすがとしか言いようがない。


 園や行定のほか、入江悠、山下敦弘、蜷川実花など第一線の監督とタッグを組んできた二階堂だが、作り手のイマジネーションを具現化する秘密はその役作りにある。ラジオのゲストで出演した際には「頭のてっぺんから指先までその人の生き様が見えるようにしたい」と語っており(引用:二階堂ふみ、演じる役によって「変えること」とは? | 無料のアプリでラジオを聴こう! | radiko news(ラジコニュース))、役ごとに眉毛の形を変えるなどディテールにもこだわりを持っている。内面化したキャラクターは二階堂ふみというフィルターを通してそれぞれの作品世界に溶け込みつつ、たしかな輪郭を持ってその存在を主張する。


 スクリーンでの華々しい評価と比較して地上波ではやや控えめな印象もあったが、バラエティー番組や大河ドラマへの出演を経て、2019年の『ストロベリーナイト・サーガ』(フジテレビ系)で初主演を飾るなど徐々にその存在が浸透。今回、念願かなって朝ドラのヒロインを射止めた。


 『エール』の音は、「三歩下がって」というこの時代の女性像と対極的なキャラクターだ。第17話で姉・吟(松井玲奈)に連れられて来たお見合いの席で「私は男の後ろを歩くつもりはないから」と言い放ち、第23話でも、裕一の父・三郎(唐沢寿明)に「人を美醜で判断するな。心が美しい人が美しいのです」と主張しており、男女同権を掲げる進歩的な考えを持っている。第1話で、東京オリンピックの開会式直前に緊張からトイレに駆け込んだ裕一を音が探し出す場面があったように、夫に並び立つ姿勢からは音の人生で一貫して描かれていくテーマが見て取れる。


 1人の女性として自立しつつパートナーと手を取り合って進む音について、二階堂は「自分の感情や言葉で表せない思いを音楽にのせるキャラクター」と分析しており(引用:インタビュー 関内 音 役・二階堂ふみさん 仲むつまじく、力強く生きた夫婦を表現したい|NHK連続テレビ小説『エール』)、音の役作りにも表れている。窪田も「この作品の顔は(二階堂)ふみちゃんだと思っている」とコメントするなど(参考:窪田正孝、次回朝ドラ『エール』の“一体感”をアピール 父役・唐沢寿明からは「NHKの看板」の声)、2人の間に共通認識が築かれている様子が窺える。


 男女平等を胸に、戦前から戦中、戦後にかけて激動の時代を生きてゆく音と裕一。朝ドラには多くの主人公カップルが登場してきたが、その中でも屈指の演技派2人がどんな夫婦像を見せてくれるか楽しみでならない。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。