2020年04月29日 10:11 弁護士ドットコム
新型コロナの感染拡大を受け、在宅勤務を取り入れ始めた企業は増えつつある。しかし、従業員が実際に何をしているのかが見えないことから、企業側からは「社員がサボらないか不安」という声もあがっている。
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実際に、勤務中にサボっている人はいるようだ。
ネット上には「在宅勤務になったが、気づけばずっとネットサーフィンしていた」「サボり癖がついてしまった」「監視がない分、サボり方を覚えてしまった」などの声が上がっている。中には「アニメや映画を見ながら仕事した」という人もいた。
就業時間中にサボっていた場合、懲戒や減給などの処分の対象になる可能性はあるのだろうか。また、在宅勤務を取り入れるうえで注意すべきことは何か。平山諒弁護士に聞いた。
ーー就業時間中にサボっていたことを理由に、懲戒や減給などの処分の対象になることはあるのだろうか。
「十分あり得ます。もちろん程度問題で、『在宅勤務の時間中にスマホで少しインターネットを見た』、『仕事中にコーヒーを飲みながら少しスマホを触った』『自宅にいる子供の世話のためにわずかな時間離席した』というくらいでは、減給、懲戒解雇などの重い処分にするのは、明らかに違法と言っていいでしょう。
一方で、懲戒処分が有効となるケースもありえます。
例えば、在宅で会社の目が届かないことをいいことに仕事中にずっとスマホをしていて仕事を一切しなかったり、会社から割り振られた作業が進まず業務上の支障が出たり、取引先に迷惑をかけて会社に損害が出たりしたような場合です。
在宅勤務は休日ではなく、あくまでも労働を行う場所が会社から自宅になっただけです。そのため、勤務時間中に実際には遊びに行っていて何の作業もしていないという極端な場合や、何度注意や指導をしても態度が改善されないといった特殊な場合には、懲戒処分の対象となり得ます」
ーー会社から損害賠償請求をされる可能性もあるのだろうか。
「実際的に問題となるのは、どのくらいサボっていたかという点に加え、それによって会社にいかなる損害が出ているかという点でしょう。
会社側に損害が出ていた事例として考えられるのは、実際には在宅勤務をしておらず遊びに行っていたとか、あるいは、深夜残業の必要があるからと言って会社に残り残業代を得ていたのに、実際にはネットサーフィンばかりやって仕事はしていなかったケースがあります。
要するに、仕事をしていたと見せかけて実際には働いていなかったわけです。このような場合であれば、会社(上司)をだまして給料や残業代を得ていたという位置づけになるため、会社にとって必要がないのに支払ってしまった給料・残業代分の『損害が出た』ということはできそうです。
また、与えられた仕事をしなかったせいで会社の業務が遅れて取引先や顧客に影響が出た、というようなケースでしょうか。報告書など社内の書類作成や顧客への請求書、メールの返信など、在宅勤務で必要な作業を行わず、何らかの形で会社に損害が生じるというケースが想定されます。
しかし、仕事中に少しだけ気分転換などでネットを使っていたというような程度の話であれば、会社に損害が出たとまでは言えないでしょう。仕事中にサボるのがいいこととは思えませんが、賠償問題にまで発展するということはまれでしょう。
たしかに、理論上は賠償問題に発展する可能性は存在します。しかし、実務的な感覚でいえば、むしろどのような損害が生じたと言えるのか、サボりがどのような実害を生じたと考えるべきなのかの方が難しい問題になります。
たとえば、仕事の時間中にネットサーフィンばかりしていたという事例でいえば、実際には何時間ネットサーフィンをしていたのか、特定が難しいケースの方が多いでしょう。また、在宅勤務の時間中に少し買い物などで外出した、作業が多少遅れたから会社全体での計画がズレたというような場合でも、その部分を時間給や仕事の遅れが与えた影響を割り出して損害賠償請求することは、請求する会社側の目で見ると非常にハードルが高いでしょうね」
ーー在宅勤務をおこなううえで、注意すべきことはどのようなことだろうか。
「『社員がネットサーフィンでサボっていないか』という点に関連していえば、やはり気をつけたいのは『情報漏洩』の問題です。
会社のノートパソコンや業務の資料を持ち帰って作業をおこなうにあたり、インターネット経由で情報が流出しないかという点は注意が必要です。
たとえば、メールやチャットアプリを使うということもあるでしょう。セキュリティのしっかりしたシステムを導入していればいいのですが、フリーメールや無料ソフト、無料の電話会議システムなどを使う場合、公開範囲の設定ミスや誤送信などにより、社内の情報が外部に漏れだすというトラブルが想定されます。
実際に、顧客情報の流出などが発覚しトラブルになる例はよくニュースでも見かけるところです。このような問題が起きると、顧客との損害賠償問題に発展するとか、会社の信用問題にも関わってきます。
在宅ワークであっても自宅外にパソコンは持ち出さない、重要な情報にはパスワードをかける、セキュリティソフトを導入する、メールやチャットにアクセスできる人の範囲を確認するなどという基本的な対応を忘れずに行うようにしましょう」
ーー社員を監視するにはどのようにすればよいのかと悩んでいる企業もあるようだ。
「会社としても、従業員がきちんと自宅でも割り振られた作業ができているかどうかは把握しておきたいところです。新型コロナウイルス感染症の流行という緊急事態を受けて急きょこれを導入したという企業の場合、はっきり言って手探りの状態という所もあると思います。
会社によっては、きちんと仕事をしているかどうか1~2時間ごとに定期的に電話やメールでの確認をしている所や、作業開始時・終了時にメールなどで報告をさせる会社もあると聞いています。それぞれに試行錯誤しながら対応しているようです。
在宅勤務者の管理把握をどこまで行えるかというのは、会社の事業規模や従業員の人数にもよるのでしょう。会社と在宅勤務の従業員との間の連絡、連携がどこまで『密』に行えるかは非常に難しい問題だとは思います。
しかし、私としては、従業員がサボっていないかと『疑い』の視点で監視するというよりも、在宅勤務という慣れない環境の中できちんと仕事ができるかどうか、従業員が効率よく作業するために会社としても工夫できることはないかとモニターする意味で、自宅にいる従業員に対してうまくフォローをしてあげてほしいと思います」
【取材協力弁護士】
平山 諒(ひらやま・りょう)弁護士
中央大学法学部、一橋大学法科大学院卒。大小さまざまな規模の事業者の顧問業務へ従事経験を持ち、現在は労働問題を中心に企業経営のパートナーとして活躍。 府中ピース・ベル法律事務所代表。
事務所名:府中ピース・ベル法律事務所
事務所URL:http://fpb.tokyo/