2020年04月27日 10:32 弁護士ドットコム
新型コロナウイルス問題で政府は4月23日、都道府県知事による休業要請に応じない事業者名の公表に関するガイドライン(指針)を都道府県に通知した。
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これまでの休業要請は、「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」の24条による、「お願い」だった。
しかし今後は、同法45条をもとにした「指示」や罰則はないものの「公表」にも踏み切る。報道では、特に「三密」になりやすいパチンコ店を意識したものとも伝えられている。
だが、企業名が都道府県のホームページに掲載されれば、直接的、間接的な「リンチ」も起きる可能性もある。
こうした事態をどのように見ているのか。猪野亨弁護士に聞いた。
これまで知事などが行っていた「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」の24条による休業要請では要請に応じない企業もあり、いよいよ45条に基づく休業要請を行っています。
実際にパチンコ店が念頭にあったというのは大阪府知事が4月24日、休業要請に応じないパチンコ6店舗を公表したことからも窺われます。
飲食店などは来店者の激減も重なり、休業状態に追い込まれていますが、パチンコ店は依存症問題も背景にあるように、自粛要請だけでは来店の抑制が実現できない事情があります。
45条に罰則はなく、あくまで要請であって営業の禁止ではないのですが、企業名の公表は事実上の強制になります。実際、この大阪府知事の企業名の公表によって営業を自粛したパチンコ店もあります。
逆に企業名の公表がパチンコ店にとっての宣伝になってしまい、かえって集客効果が生じているパチンコ店もあります。
もともと休業要請自体、企業にとっては死活問題なので、来店があるのに休業など決断できるものではありません。
この点は、個々人への外出自粛要請も実はそうした店舗に行くなと言っているのと同じであり、国による損失補償こそ大事なことなのです。
この点、国は一貫して損失補償には後ろ向きであり、結局、中途半端なまま現在に至っているといえます。
すでに多くの娯楽施設が軒並み休業となっていますが、企業名が公表されるとなればGW中の営業は困難となり、軒並み休業することが予想されます。
むしろ、営業しているところがあればそこに殺到する可能性すら出てくるため、かえってその企業にとっても繁盛というよりは感染のリスクが高まることから休業せざるを得なくなるでしょう。地方の観光地にはそうした傾向があるようです。
しかし、パチンコ店がそうした行動に出るかは不透明です。外出自粛要請に疲れた人たちの一部が、依存症とは全く別に行くことによって、さらなる混雑すらも予想されます。
企業名の公表によって損害を受けたりしたとしても法的に争うということは現実には厳しいでしょう。
私自身は補償なき営業の「自粛」は憲法29条(財産権)に違反すると考えますが、裁判所が認めるかどうかは疑問です。
私的制裁を行った人たちへの賠償請求も自粛要請という中で行政が名前を公表したという前提があり、事実に反するようなことをネット上に流したというのであればともかく、批判であれば許容範囲と思われ、賠償請求は難しいと思われます。
そうなると休業要請を無視したもん勝ちにもなりかねません。強制力で封じ込められるものでないことは欧州諸国を見てもわかります。いずれにせよ、国民にとっても企業にとっても耐える時期といえ、これは社会全体で負担すべきものです。
個々の企業の犠牲だけで乗り切れるものではないということは理解する必要がありますし、それが国による補償です。
また、そもそも依存症を生み出すパチンコというギャンブルのあり方も問われているのではないでしょうか。
【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://inotoru.blog.fc2.com/