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ルッソ兄弟らクリエイターの原点 『コミ・カレ!!』はアメリカのコメディドラマ入門に最適

2020年04月27日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『コミ・カレ』!!

 外出自粛の世の中になり、ニーズが高まっているストリーミングサービス。自宅にいる時間が増えたならば、最新作だけではなく今こそ過去の名作にも注目をという声も多く上がっている現在、アメリカ中心に人気のコメディドラマがNetflixで4月1日より配信開始となった。『アベンジャーズ/エンドゲーム』など名作を生み出しマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を支えた、ルッソ兄弟も多くのエピソードを監督している『コミ・カレ!!』(全6シーズン)である。


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 今年に入り、今日のTOP10の表示を始めたNetflixだが、正直なところやはり日本で根強い人気なのはアニメで、TOP10の過半数を占めることが多い。日本ではなかなか海外のコメディは受けていない状況はあるが、これから映画や海外ドラマを楽しむライトなファンの方にこそぜひ観てほしいのが、アメリカのコメディドラマ(特にシットコム)であることを、今回は人気ドラマ『コミ・カレ!!』を通して改めて注目していきたい。


原題『Community』の通り、アメリカをぎゅっと凝縮


 『コミ・カレ!!』は、2009年~2015年にNBCで放送された人気コメディドラマ。いわゆるシットコムと呼ばれるジャンルだ。シットコムとは、基本的に1話完結で、登場人物も一定(ゲスト出演はあり)、主な舞台は固定というのが特徴だ。今回紹介する『コミ・カレ!!』は、学歴詐称で業務停止処分を受けたジェフ(ジョエル・マクヘイル)が大学卒業資格を取るために、誰でも通えるコミュニティカレッジに入学し、そこで出会った学生や教師との交流をコミカルに描く。注目したいのは、何といっても登場人物たちの設定である。原題『Community』(日本語で地域社会、共同体の意)の名のごとく、アメリカに生きている人にとって「いるよね、こういう人!」という特徴を表現している。


 例えば、先ほど紹介した学歴詐称のジェフは40歳の白人男性で、「努力をしたことがない」と豪語するナルシスト弁護士。この「努力したことがない」というのは、白人男性という優位な立場を自覚なしに社会の上層で生きてきた愚かな男性として描かれている。そのほかにも、チアリーダーで優等生だったにも関わらず、集中力を高める薬を服用し薬物依存に陥り、コミュニティカレッジで再起を図るアニー(アリソン・ブリー)や、高校時代アメフトでクオーターバックとして活躍しプロムキングだったにも関わらず、あることがきっかけで落ちぶれてしまい、いまだに未練たらしく高校のジャケットを着ながらコミュニティカレッジに通うトロイ(ドナルド・グローヴァー)、CEOを退任しコミュニティカレッジで第二の人生を歩もうとするが、セクシズム甚だしい老害キャラのピアース(チェビー・チェイス)などなど。優等生や、プロムキング、CEOなど肩書きは良さそうでも実はそれぞれ問題を抱えているキャラを登場させ、しかも第1話冒頭から「コミュニティカレッジは負け犬の通う場所だよ~」と学部長(ジム・ラッシュ)が軽やかにスピーチするもんだから痛烈である。2009年開始のドラマながら、現在の作品にも(良いか悪いか)描かれ続けている社会問題をコミカルに取り上げて指摘する作風は、これから映画・海外ドラマを観始める方にとって導入編としても馴染みやすいのではないだろうか。


アメリカのエンタメを支えるアーティストたちの原点
 そんなライトなトーンながら、痛快で時に痛烈な『コミ・カレ!!』の多くのエピソードを監督しているのが、ルッソ兄弟(アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ)である。今ではMCUを支えた重要な監督として尊敬を集めているルッソ兄弟の原点はテレビシリーズの監督だ。『コミ・カレ!!』以前は、FOXでエミー賞ノミネートドラマ『ブル~ス一家は大暴走!』(原題:Arrested Development)というシットコムの監督を多く手がけている(ちなみに『ブル~ス一家は大暴走!』シーズン4以降はNetflixオリジナルとして製作され、アメリカのNetflixでは配信されているが、日本ではNetflixで新作シーズン配信がされることなく、配信そのものが終了されてしまい残念でならない)。『ブル~ス一家は大暴走!』でルッソ兄弟は、常時10人前後のメインキャラクターが登場するにも関わらず、20分程度でしっかりオチを付けてまとめる演出力を磨き上げている。そしてその力をいかんなく発揮しさらに高めたのが『コミ・カレ!!』である。どのキャラクターの存在も薄くならないように、短い時間で的確にそのキャラクターの持ち味を出しきる演出力があるからこそ、錚々たるマーベルヒーローが登場した『アベンジャーズ/エンドゲーム』も見事な作品に仕上がったのではないかと思う。手がけたMCU作品でたびたび『ブル~ス一家は大暴走!』や『コミ・カレ!!』のネタを織り込んでいることからも、テレビドラマ監督としての経験は思い出深いのだろう。


 そのほかにも『コミ・カレ!!』には、今アメリカのエンタメを支えるスターたちが多く登場している。一番の出生頭と言えば、グラミー賞(楽曲「This is America」)とエミー賞(FXドラマ『アトランタ』)を受賞し俳優としてクリエーターとして活躍するドナルド・グローヴァー。彼は本ドラマ内でもたびたびラップを披露しているので注目だ。さらに、エミー賞受賞ドラマNetflix『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』主演のアリソン・ブリー、同じくエミー賞受賞のトークショー司会者でコメディアンのジョン・オリヴァー、監督では『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リンも参加している。音楽面では、ルドウィグ・ゴランソンの最初のブレイク作品でもある。ゴランソンといえば、『ブラックパンサー』と「This is America」でグラミー賞を受賞し、クリストファー・ノーラン監督の次回作『TENET テネット』でも音楽を手がける今注目の作曲家だ。そしてなんといっても『コミ・カレ!!』のクリエーターであり、今あげたようなスター輩出のきっかけを作ったダン・ハーモン自身も、現在英語圏を中心に大人気のアニメ『リック・アンド・モーティ』のクリエーターとして大活躍中だ。『リック・アンド・モーティ』は人気が故に2018年に追加で少なくとも70エピソード分の製作契約を結んでいる。1シーズン10話として追加で7シーズン分(約7年の契約)と考えると、人気が盤石であることが伺える。『コミ・カレ!!』を観終わった後も、本作に関わったアーティストたちの作品を楽しむことができるのも魅力の一つである。


人気コメディを知る=カルチャーを一歩深く知る
 今回『コミ・カレ!!』はNetflixが配信権利を獲得しているが、配信権利獲得関連で大きく報道される作品の多くがコメディ作品であることだ。アメリカではHBO Maxが配信権利を獲得している『フレンズ』、Netflixが世界配信中の『グッド・プレイス』『ブルックリン・ナイン‐ナイン』『ふたりは友達? ウィル&グレイス』、その他にも『The Office(US版)』『Parks and Recreation(原題)』『となりのサインフェルド』など、すべてコメディかつNBC作品だ。地上波放送でコメディ人気の土台を作ったNBCがストリーミング大手と手を組むことで、日本でも今、ようやくアメリカ国内と同じように人気コメディが一部観れるようになった。お笑いを理解するには日本語力だけではなく当然、背景などを理解しないといけないように、シットコムを知ることでアメリカのことをより深く知ることができる。シットコムの良いところは、前提知識がなくても楽しめ、コメディだからこそ表現が平易なのもあり、気軽に理解が深まっていくところにもある。外出自粛を機会に在宅が増えた今、せっかくならより一歩深くアメリカの映画やドラマを味わうために、まずシットコムの視聴から始めてみてはいかがだろうか。しかも『コミ・カレ!!』なら前述のとおり、観終わった後も、関連してアメリカエンタメの最前線で活躍するスターたちの作品を追うこともできるので、どんどん理解が深まること間違いなしだ。 (文=キャサリン)