2020年04月26日 09:21 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの影響で、企業活動に大きな影響が出ている。必然、働く人にもしわ寄せがきている。
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旅館の客室係をしているという女性は、弁護士ドットコムのLINEに「客数が減った」と体験談を寄せた。
「今月はもともと9日の休日数でしたが、お客さまが来ないので、追加で有給休暇も4日とるように言われました」
同僚とは、「コロナが終わったあと、有休がなくなったらどうするんだ」などと話をしているそうだ。
また、認定こども園で保育士をしている女性は、次のような相談を寄せている。
「緊急事態宣言により、園児が減ったので有給休暇をとるように言われました。拒否したんですが、半ば強引にとらされて…」
「今、有休を取らされても、コロナでどこもいけないのでつらいです」と、女性は嘆いている。
コロナで仕事が減っているとはいえ、企業が有給休暇の取得を強制できるのだろうか。
日本労働弁護団に所属する山岡遥平弁護士は、次のように話す。
「有給休暇は労働者が好きにとれる、というのが原則です。使用者が強制することはできません」
ただし、有休が年10日以上ある労働者については、最低5日は取得させなくてはならない。使用者による時季指定も認められる。
「ただし、使用者が指定するときでも、労働者の意見を聴取し、その意向を尊重しなくてはなりません。そもそも、年10日ない場合は指定もできません」
どうやら、女性たちに有給休暇を使わせるのは難しそうだ。
会社都合で労働者を休ませるとき、会社は労働者に対して、少なくとも平均賃金の6割以上の手当を払わなくてはならない(労働基準法26条)。
休業手当の対象になるかは、事案を総合的に判断する必要があるため、たとえば、緊急事態宣言にもとづく、自治体の休業要請がどうなるかなど労使で見解が分かれることもある。
「客がいないなどの理由であれば、使用者都合ということになるでしょう。給料の全額補償が原則だろうと考えています(民法536条2項)。少なくとも、休業手当は出すべきです」
政府はコロナ対策として、雇用調整助成金(休業手当の一部を助成している)や融資などの対策を打ち出している。
コロナで経営がきついことは理解できるし、書類が多く、申請ハードルが高いことなども指摘されているが、企業側は制度を活用して乗り切るしかないようだ。
ただし、場合によっては休業手当が認められない場合もある。
LINEに体験談を送ってくれた別の女性は、店舗のあるモール自体が休館になり、仕事を休んでいるという。この場合、どうしてもほかにできる業務がないなどの条件はあるものの、法的には休業手当の支払い義務がないと判断される可能性が高そうだ。
この女性は、会社から有給休暇の利用などについて説明がないことを不安がっている。
「本人が使いたいと思えば、有給休暇は使える。会社には時季変更権がありますが、使えるのは業務上支障があるときだけです」
仮に法的な義務はないにしても、会社に何らかの補償を求めるということは十分に考えられることだ。
なお、休業で有休をとらせるのが、労働者にとって必ずしも不利になるとは限らない。休業手当は賃金の6割(以上)だからだ。
大事なのは、有休を提案するときは、労働者とよく話し合わなくてはならないということだ。
なお、有休を早い段階で使い切ってしまうと、体調不良などで休むときにトラブルになりがちだ。こうしたリスクも伝えつつ、労働者とコミュニケーションをとっていく必要があるだろう。
【取材協力弁護士】
山岡 遥平(やまおか・ようへい)弁護士
2016年弁護士登録(神奈川県弁護士会所属)。日本労働弁護団常任幹事・事務局次長。Twitter: @yoyamaoka
事務所名:神奈川総合法律事務所
事務所URL:http://kanasou-law.com/