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『ワイルド・スピード SKY MISSION』で国宝級のガン飛ばし “武闘派”ミシェル・ロドリゲスの魅力

2020年04月25日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ワイルド・スピード SKY MISSION』(c)2015 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 現在のハリウッドにおいて、ミシェル・ロドリゲスほど「武闘派」という言葉が似合う女優はいない。もちろん彼女より身体能力の高い、もっと踏み込んだ表現を使えば、ケンカが強いであろう人物はたくさんいるし、もっとハードな環境で育った人も大勢いる。ブレイク後の犯罪歴で言っても、彼女より無茶苦茶な人は多い。しかし、それでもやはり「武闘派」の称号が似合うのはミシェルなのである。それは本人の(メディア越しに見える)人格と人生、そして演じる役が合致しているからだ。4月25日、『ワイルド・スピード SKY MISSION』がフジテレビ系で地上波放送されるが、同作でも彼女の「武闘派」としての魅力は遺憾なく発揮されている。もうリアルサウンド映画部で何回『ワイスピ』の話をしたか分からないが、彼女の魅力については書いていなかった。これは完全に私の失態だ。今回はケジメをつけるという意味でも、ミシェル・ロドリゲスという人物の魅力を語りたい。


参考:『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』でまさかの復活! シリーズの立役者ハンの軌跡をたどる


 ミシェル・ロドリゲス、1978年生まれの41歳。思春期には両親の仕事や反抗期の関係で、5つの学校で放校処分を受ける。その一方で幼いころから俳優への憧れを持っており、1999年にはエキストラなどで俳優活動を開始。そして『ガールファイト』(2000年)では350人のオーディションを勝ち抜き、主役の座をゲット。“ボクシングに打ち込む不良少女”という限りなく当時の彼女自身に近い役を好演。全観客が「この人はマジだ!」と驚愕する睨み方……否、「睨む」という表現では生ぬるい、“ガンの飛ばし方”で絶賛された(本作のメインビジュアルにも使われていますが、このときの目つきは尋常じゃないです)。続いて今なお続く『ワイルド・スピード』(2001年)では、ヴィン・ディーゼルのタフな恋人レティ役を、『バイオハザード』(2002年)では「生きて帰ったらセックスしたいね」と豪快なジョークを飛ばす特殊部隊隊員を熱演。さらにはサーフィン映画『ブルークラッシュ』(2002年)に、サミュエル・L・ジャクソン、LL・クール・J、コリン・ファレルといった、今になって思うと濃すぎる面子と並び立った『S.W.A.T.』(2003年)など、次々と話題作へ出演し、ガンを飛ばしまくった。


 かくしてボクサー、不良、特殊部隊、サーファー、SWATと、順調にワイルドなキャリアを築いたが、彼女の場合、私生活もワイルドだった。2000年代中盤からは暴力事件やカーチェイスを繰り返し、ついには逮捕までいってしまう。これでキャリアも終わったかと思いきや、しかし、彼女は絶え間なく働き続けた。テレビドラマ『LOST』(2004年~)に出演するかたわら、中小規模で、アクションもない映画で修業を積むと、満を持して大作アクション映画業界へカムバック。それが『アバター』(2009年)である。


 『アバター』の監督は『ターミネーター2』(1991年)や『タイタニック』(1997年)など、サバイバル力の高い女性を好んで描くジェームズ・キャメロン。ここでミシェルに用意された役は……もちろん銃・タンクトップ・サングラスのキャメロン3種の神器に加え、インディアン風の戦闘メイクまで施された女戦士役だった。ガンの飛ばし方も円熟味を帯び、実家のような安心感に世界が満足。さらに『ワイルド・スピード』と『バイオハザード』にも、死んだけど復帰する離れ業を見せた。他にも女戦士役の『マチェーテ』(2010年)、女戦士役の『世界侵略:ロサンゼルス決戦』(2011年)、女戦士になる男役の『レディ・ガイ』(2016年)、女戦士の師匠役の『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)など、タフな女性キャラを演じ続けている。41歳の現在でも、やはりガンの飛ばし方は他の追随を許さない(もちろんアクションのない映画にも出ているし、それはそれで魅力的なのだが)。


 『ワイルド・スピード』は、そんなミシェルにとって最高の遊び場である。何せここには、格闘、銃、車、ストリート……etc、とにかく彼女を輝かせる全てが揃っているのだから。先述の通り1回死んだのだが、『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年)で「頭を撃ち抜かれて葬式をしたけど、実は勘違いだった」と、緻密な伏線回収で見事に復活。元気満々で総合格闘家のジーナ・カラーノとタイマンを繰り広げる。ここで注目したいのが、彼女のファイト・スタイルだ。ジーナは総合格闘家らしく、タックルや関節技を駆使して戦うが、ミシェルはボクシングをベースにしたケンカ殺法である。関節技を極められると噛みつきで脱出し、時には相手を抱きかかえて自分も一緒に階段を転がり落ちる。『アトミック・ブロンド』(2017年)などのスタイリッシュな動きとは違う、泥臭く、荒々しい戦い方だ。けれども、マジもんのガンの飛ばし方と相まって、そういう振り付けがバッチリ決まる。これがミシェルのアクション女優としての強みだろう。


 もちろん『SKY MISSION』でも、ミシェルのケンカ上等スタイルは健在だ。本作でも総合格闘家のロンダ・ラウジーとの壮絶なタイマンが用意されている。ちなみに本当は動きやすい衣装の予定だったらしいが、ミシェルのこんな一言で、ドレスとハイヒールでの格闘シーンになったという。


 「油で汚れた整備士みたいな格好はもう飽きたわ。シリーズを振り返ってみると、私は最初からタンクトップとGパンばかりだったの。だからこう言ったわ。『ドレスを着させてよ』って! だからとてもうれしかったわ。私も“女らしい”シーンを演じることができた! もちろん、それからボコボコにされたけどね!」(引用:ハイヒールで激闘!? ミシェル・ロドリゲスVS“世界最強女子” 『ワイルド・スピード』|シネマカフェ)


 結果的に、このアイデアは大正解だった。エレガントなドレス姿なのに、物凄いガンを飛ばしながら「かかってこい」と煽るミシェルは最高の一言である。同作は車を飛行機から落とすシーンや、クライマックスの「See You Again」など、見どころが盛り沢山だが、このガンを飛ばすシーンも素晴らしい。逆に言うと、ガンを飛ばすだけで“持っていく”ミッシェルは、やはりタダ者ではないだろう。ちなみに彼女自身『ワイスピ』シリーズには強い愛を持っており、だからこそ「(最近のシリーズは)さすがに女性キャラの扱いが雑すぎるだろ」と是正を求めているし、その結果か、最新作『ジェットブレイク』(2021年)の予告で凄い格闘シーンを演じていた。真正面から批判したうえで、きちんと見せ場を掴んでくるあたり、「さすが!」という感じだ。


 ミシェル・ロドリゲス。この稀代の武闘派俳優は、間違いなく『ワイルド・スピード』シリーズの重要な魅力の1つである。今回の地上波放送では、是非とも彼女の国宝級のガン飛ばしに注目して同作を楽しんでほしい。(加藤よしき)