2020年04月25日 09:41 弁護士ドットコム
女優、岡江久美子さんが4月23日、新型コロナウイルスによる肺炎のため亡くなりました。訃報が伝えられたあと、YouTubeには「岡江久美子の息子です」と名乗る動画が多数アップされました。
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「私ですね、女優岡江久美子の息子でございます。えー、本日ですね、僕の母の岡江久美子が亡くなりました。ちょっと、何を話していいのかちょっと、パニクってしまって、分からないのですが」
「このたび、母があれに感染して、死去されてしまいました。本当に悲しいんですけど、仕方がないことなので、現実を受け止めたいと思っております」
「僕は岡江さんの息子です。この度、母が亡くなりました。もともと母は持病を抱えており、2月にも抗がん剤による治療をおこなっておりました」
中には18万回以上再生されているものもあり、コメント欄には「不謹慎なんじゃないですか」「冗談でも人の死を利用して動画あげたらあかんやろ?」と批判が殺到していました。
また、こうした動画をあげているチャンネルをみると、他にも「志村けんの息子です。父が緊急入院しました」、「金正恩の手術した医者です」、「石田純一の息子です」などと題した動画がありました。話題となったニュースに絡めているようです。
話題となった人の親族や関係者であることを名乗って、動画をあげることに法的な問題はないのでしょうか。小沢 一仁弁護士に聞いた。
ーー投稿者はなりすまし動画をあげて、再生数を稼いでいるようにも捉えられます。こうした行為、法的には問題ないのでしょうか
「話題となった人」が存命中かどうかで適用されうる法律が異なるので、分けて考えたいと思います。
まず、亡くなった人の親族などであると名乗ることは、それ自体がただちに刑事上の犯罪行為や民事上の不法行為などに当たるわけではないと思います。
ただ、その具体的な表現内容によっては、刑事上は死者に対する名誉毀損罪(刑法230条2項)、民事上は遺族に対する人格権侵害(遺族の死者に対する敬愛追慕の情の侵害)による不法行為(民法709条)が成立する可能性があると思います。
なお、死者に対する名誉毀損は、生きている人の名誉毀損と異なり、摘示した事実が虚偽でなければ処罰されません(刑法230条2項)。
ーー存命中の人に関するものはどうでしょうか
生きている人の親族などであると名乗ることは、これも、それ自体がただちに刑事上の犯罪行為や民事上の不法行為等に当たるわけではないと思います。
ただ、具体的な表現内容によっては、その人に対する名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)や、事業者に対するものであれば、業務妨害罪(刑法233条)などが成立する可能性があります。
民事であれば、同様の理由で当該生きている人に対する不法行為(民法709条)などが成立する可能性があります。
ーー中には動画の概要欄に「動画は一部の動画(実体験シリーズ)を除いて全てフィクションです。エンタメとして観て下さい」と書かれているものもありました。こう書かれている場合も、法的な問題になりえますか
名誉毀損については、内容が虚偽とわかっているため社会的評価が低下するのか、侮辱については、侮辱といえる程度に名誉感情が侵害されるのか、業務妨害については、その危険のある行為といえるのか、などという問題はありますが、このような断りを入れたからといって必ず法的責任を免れるというわけではありません。
対象となる人が生きているかどうかにかかわらず、人の尊厳を害するような行為をすべきではありません。
【取材協力弁護士】
小沢 一仁(おざわ・かずひと)弁護士
2009年弁護士登録。2014年まで、主に倒産処理、企業法務、民事介入暴力を扱う法律事務所で研鑽を積む。現インテグラル法律事務所シニアパートナー。上記分野の他、労働、インターネット、男女問題等、多様な業務を扱う。
事務所名:インテグラル法律事務所
事務所URL:https://ozawa-lawyer.jp/