2020年04月25日 09:11 弁護士ドットコム
「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が4月1日、指定管理者として運営している公立の武雄市図書館(佐賀県)の内装について、「立体商標」の出願をおこなった。こうした立体商標にはどんな効果があるのだろうか。知的財産権にくわしい齋藤理央弁護士に聞いた。
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「ロゴなどの典型的なトレードマークに限らず、ビジネスの全体的イメージを保護する要請が高まっています。『トレードドレス』とも呼ばれています。
一番基本的なものは、商品の梱包などですが、店舗の外観や内装もトレードドレスに含めて考えることができます。
たとえば、アップルショップなど、独特の売り場の内装は、一目見ればアップル社製品の売り場だとわかります。そうした特徴的な店舗の内装や外観なども、企業のブランドとして保護する要請が高まっています。
こうした動きを受けて、知的財産権法制は、店舗の外観や内装などをもっと柔軟に保護する方向に舵を切っています。
たとえば、店舗の外観や内装を保護できるように、意匠法が改正されて、2020年4月1日施行されました。これに対して、商標法は法律改正まではおこなわず、既存の立体商標の出願の仕方や審査基準を改善して対応しています。
これを受けた改正商標法施行規則や商標審査基準(改訂15版)が、改正意匠法と同じ2020年4月1日に施行されました。CCCの出願も同日ですね」
立体商標として登録された場合、どんな影響があるのだろうか。
「立体商標として店舗、施設の内装が商標権を付与された場合、通常の商標と同様に、商標権者以外の第三者は、類似の役務や商品について同じ内装や似たような内装を使えないことになります。
つまり、CCC以外の第三者は、CCCから許諾を得ない限り、書店や図書館の内装として、立体商標登録がされた内装や、これに似た内装は使えないことになってしまいます。
ただし、出願された商標が無事に登録されるかは、今後の特許庁の審査次第です。今後の審査経過が注目されます」
弁護士ドットコムニュースのツイッターアカウントに次のような質問が寄せられた。
・地方自治体の資産(図書館)の空間を、指定管理者とはいえ一企業が立体商標として登録できるか?
「たしかに、商標法4条1項6号は、公益著名商標という概念を定め、公益のための著名な『標章』の商標登録を認めていません。
つまり、(1)『国もしくは地方公共団体もしくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの』または(2)『公益に関する事業であって営利を目的としないもの』を表示する標章であって『著名なもの』と同一または類似の商標を登録することはできません。
図書館の内装も、立体的形状として『標章』に該当するため、公立図書館の業務を表示する『標章』として公益著名商標に該当しえます」
今回の武雄市図書館についてはどう考えればよいのだろうか。
「かならずしも全国区の著名性は必要ないものの、それでも、図書館の内装が『著名』とまで言えるかは疑問も残ります。
そして、何より、知的財産高等裁判所は、須崎市が『ちぃたん☆』の使用差止仮処分を申し立てた事件の即時抗告審で、地方公共団体が管理するゆるキャラであるにもかかわらず、公益著名商標に該当しないと判断しています。
『しんじょう君の商標は、商業的にも活用されるものであって、市町村章のように地方公共団体そのものを示すものではなく』
(参考)第93回須崎市市長定例会見資料 P37
https://www.city.susaki.lg.jp/download/?t=LD&id=3630&fid=14285
武雄市の図書館も一企業によって運営され、施設内に有料の書店が併設され、併設のカフェでも収益をあげている以上、営利性を肯定できます。すると、そのような武雄市図書館の事業を示す空間内装は、公益著名商標該当性を否定されるものと考えられます。
つまり、公立図書館の内装であることは、今回のケースでは商標登録を否定する事情にならないでしょう」
また、次のような質問も寄せられている。
・ほかの企業が設計した建物について、その後に改装した企業が立体商標として登録できるのか?
「今回立体商標は、破線と実線で描かれています。2020年4月1日に施行された商標法施行規則により、このように、立体商標を破線と実線で特定することができるようになりました。このうち破線の部分は、立体商標に含まれません。
CCCの商標出願も、よくみると、天井などの部分は破線で描かれていますので、商標の対象から除かれています。
実線部分は、新設された2階バルコニー部分と1階部分に設置された書棚および照明スタンド付き平台を含む施設の内装です。
このように、あくまで改装された内装部分が今回の商標の対象となっているようです。
なお、商標法29条は、ほかの知的財産権と抵触する場合、商標を利用することができないと定めています。
したがって、たとえば第三者が著作権を持つ建物について、店舗外観の商標登録を得たとしても、その商標は著作権者の許可がない限り使用できません。
つまり、商標権が登録されても、著作権者が許可しない場合は、実際に同じ外観の店舗を建てることはできないことになってしまいます」
【取材協力弁護士】
齋藤 理央(さいとう・りお)弁護士
I2練馬斉藤法律事務所リーガルグラフィック東京弁護士。東京弁護士会所属・著作権法学会会員。著作権など知的財産・IT法など、コンテンツと法律の問題に力を入れている。著作権に関する訴訟等も複数担当し、担当事案にはリツイート事件などの重要判例も含まれる。
事務所名:I2練馬斉藤法律事務所リーガルグラフィック東京
事務所URL:https://i2law.con10ts.com/