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朝ドラ『エール』の恋路は文通で描かれる 現代には起こりえないロマンチックな展開に反響

2020年04月25日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』(写真提供=NHK)

 手紙を交わし気持ちを募らせていく裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)。『エール』(NHK総合)第4週は「君はるか」と題され、遠く離れた川俣と豊橋でそれぞれが相手を想う喜びや苦悩が交互に描かれる。時に声をあげて喜び、大粒の涙を流し、会ったこともない相手を一生懸命思いやりながら心を通わせた裕一と音。窪田と二階堂は強く惹かれ合う2人の様子を力強く表現する。


【写真】手紙をしたためる二階堂ふみ


 住んでいる場所も違えば、会ったこともない2人が“音楽”という共通の夢を語りながら「手紙」を通して徐々にお互いに惹かれ合っていく。朝ドラの魅力の一つである夫婦の“出会い”を『エール』は文通を通して描いた。近年の朝ドラでは『半分、青い。』や『スカーレット』のような「職場婚」や、『あさが来た』の「許嫁婚」、『べっぴんさん』のような「幼なじみ婚」が多く、惹かれ方も運命的なものというよりは自然と距離を縮めていくような恋愛が多かった。


 一方で本作は、文通を交わす中で距離を飛び越え、裕一にとってはまだ顔さえ知らぬ相手だが自発的に愛を送り合う。環境に委ねられた恋ではなく、2人が手に入れようとしてお互いに手を伸ばしているからこそ続く文通には、恋の結びつきのロマンチックさを感じずにはいられない。ラブレターがキーとなる作品は他に『わろてんか』(第97作)が挙げられるが、主人公・てん(葵わかな)の場合は旅芸人を名乗る藤吉(松坂桃李)と一度出会ったのち、送られてくる手紙に憧憬を募らせている。


 『エール』での文通は、会ったこともない裕一に音がファンレターを出すという一方的な憧れから、次第にハートがたくさん描かれたラブレターに変化し、時間の流れと心の変化が繊細に描かれているのだ。音からの返信がないことに動揺し、裕一が「古山裕子」と偽名を使ってまで送った渾身の手紙では、心なしか文字もいつもより余裕がなくガタガタとした印象になっており、裕一の感情の乱れが表れている。さらに裕一と出会うよりも前に、「今のあなたとはクラスが違うの」という御手洗(古川雄大)の言葉や、梅(森七菜)から指摘される「裕一とは住む世界が違う」という言葉に傷つく音の姿からは、強い悲しみが表現されていた。未だ相手と対面していなくとも、ボロボロと涙を流しながら手紙を書き、裕一を想う様子を表現できる二階堂の芝居には、すっかり裕一に恋い焦がれている様子が見てとれ、心を突き動かされる。


 音は裕一の書いた受賞曲のタイトル「竹取物語」が、幼い頃、父を亡くした時期に演じた思い出の演目でもあることから、裕一に運命を感じていた。それが如実に表れていたのが、音がかぐや姫を演じた当時の出来事を話しつつ、家族に対して興奮した様子で裕一の快挙を語るシーンである。ちくわを食べながら威勢良く話したり、ファンレターを書くと決めたらすぐ行動に移す音は、裕一の繊細さと比べ、パワフルで潔い。第1話で見せた夫婦の関係を予感させるようなキャラクターの対比に思わず顔をほころばせてしまう。


 同じように窪田も音からの手紙で一喜一憂し、自身の留学のことと同じくらい音のことを大切に考えている。窪田はそんな裕一を弾けるような笑顔や、切ない瞳でみずみずしく演じた。その姿は恋に夢中になる若い青年の姿そのもの。現在31歳である窪田だが、青年期の裕一を演じても違和感を感じさせないほどフレッシュな魅力を放っていた。志津から手痛い振られ方をしていた裕一も、新たな運命の出会いに心躍らせる。


 次週はいよいよ2人が対面してデートをするシーンが描かれる。その一方で、光子(薬師丸ひろ子)が音に、裕一から身を引いた方が良いと告げるシーンもあった。2人はこの局面をどう乗り越えるのか。2人の恋路に“エール”を送りたい。


(Nana Numoto)