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小型車の頂上決戦? 連続試乗でヤリスとフィットを総点検!

2020年04月24日 11:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
奇しくも同時期にフルモデルチェンジしたトヨタ自動車「ヤリス」(2月10日発売)とホンダ「フィット」(2月13日発売)。Bセグメントのコンパクトハッチバックという“クラス”だけでなく、ガソリンとハイブリッド(HV)という2つのパワートレーンを採用している点も全く同じ構成で、さながら「小型車の頂上決戦」(?)の様相を呈している。この2車種を同時期に、ほぼ同じルート(東京都内~千葉県の富津岬)で試乗できたので、エクステリアやインテリア、走りや使い勝手などを項目ごとに比較し、それぞれの特徴を探ってみた。

○エクステリア:テーマは「黒豆」対「柴犬」

両車の全長×全幅×全高を見ると、ヤリスが3,940mm×1,695mm×1,500mmであるのに対し、フィットは3,995mm×1,695mm×1,515mmとこちらの方がわずかに大きい。一方、ホイールベースはヤリスの方が20mm長い2,550mmとなっている。

両社のデザイナーに開発イメージを聞くと、ヤリスは「黒豆」でフィットが「柴犬」。ルーフ後方をギュッと絞り、リアフェンダーを張り出すというスポーティーなスタイルをとるヤリスに対し、フィットは無駄のないワンモーションスタイルを踏襲している。ボディスタイル同様にアグレッシブな顔つきのヤリスと見比べると、ワンコのような優しさを感じさせるフィットの顔つきには癒される。近年のホンダは“つり目”のクルマが多かったが、その点でもフィットは新鮮だ。

○インテリア:革新の視界に衝撃を受けたフィット

ドライバーズシートに座って、思わず「おーっ!」と声が出たのはフィットの方。フロントピラーが、ガラスを支えるための細い「Aピラー」と衝突荷重を受け持つ「A’ピラー」の2本柱になっていて、その2辺が上で交わり、大きな三角窓を形成する独創的な構造になっている。その結果、ドライバーの水平方向の視界は従来モデルが69度だったのに対し、新型は90度へと一気に広がった。インストルメントパネルは水平・直線基調で、ガラス下端が横一文字に仕切られる。さらにワイパーは収納されていて見えないので、景色の見え方はまことにすっきりしている。

フィットの室内はリラックスできる空間になっている。柔らかな布製パッド、初代「シビック」を思わせる2本スポークのステアリング、バイザーレスメーターなど、シンプルで凹凸の少ない各パーツはセンスのいい仕上がりで、視界の良さにもリンクする。樹脂製マットが骨盤から腰椎まで支えてくれるフロントのボディスタビライジングシートはもちろん、足元広々で厚く柔らかなパッドが使ってあるリアシートも座り心地がいい。90度近くまで開くドアで乗降性も文句なしだ。

一方のヤリスは、抑揚のあるダッシュボード、双眼鏡のような形状のメーターパネル、奥行きのあるドアノブ部など、エクステリア同様にスポーティーでオリジナリティのあるデザインを採用している。37cmの小径ステアリングと従来型より約20mm低い位置にセットされたドライバーズシートにより、ポジションはピタリと決めることができる。大きく傾斜したAピラーと相まって、ちょっとしたスポーツカーのような雰囲気だ。

調整幅があって余裕のある前席に対し、後席は座るとひざ前に余裕がなく、狭いサイドガラスによって閉塞感を感じてしまう。とはいえ、足先を前席のシート下に滑り込ませることができるので、「耐えられない」というほどではない。2+2的な使い方が多いユーザーを対象とした割り切った設計と言えるだろう。

マニュアル式ながらドライバーのポジションを記憶するイージーリターン機能付きフロントシート(Zモデルに標準装備)や、女性や高齢者に優しいターンチルトシート(乗降時に回転させられるシート Z以外にオプション設定)など、フィットにはない機能が付いたシートを選べるのはヤリスの強みだ。

○走り:ヤリスのハイブリッドは「GTカー」の雰囲気

新開発の1.5リッター3気筒エンジン(91ps/120Nm)+THS-Ⅱハイブリッドシステム(80ps/141Nm)+リチウムイオンバッテリーの組み合わせとなるヤリスのHVは、先代から30%ほどパワーが向上。「TNGA」の「GA-B」プラットフォームによって40キロほど軽くなったボディと硬めのサスペンションの効果も相まって、しっかりとしたGTカーのような走りを見せてくれる。燃費は実測(満タン法)で31km/L前後を記録した。

一方、フィットのHVはホンダ独自の1.5リッター4気筒エンジン(98ps/127Nm)+2モーター(109ps/253Nm)の「e:HEV」システムを搭載し、基本的にはモーター中心で走行する。街中ではEV(電気自動車)然としていて、静かでとてもパワフルだ。燃費は23~24km/Lで、ヤリスにちょっと差をつけられた。

ガソリンモデルについては、120ps/145Nmの新開発1.5リッター3気筒を搭載するヤリスに対し、フィットは98ps/118Nmの1.3リッター4気筒。車重もヤリスの方が70キロ軽い1,020キロなので、フィットはかなわない。燃費はヤリスが18.3km/L、フィットが15.6km/L。ただし、エンジンを高回転まで回した時は、“ホンダミュージック”(エンジン音)が堪能できるフィットの方が楽しい。

○安全運転支援システム:ヤリスの駐車支援が使いやすい

高速道路で「ACC」を試してみると、両車ともレーントレーシングアシストが機能するので、巡航中の作動状況はほぼ同じだった。差が出たのは渋滞時で、ヤリスはパーキングブレーキが機械式なので、時速30キロ以下で追従がキャンセルされてしまう。一方のフィットは電気式を採用しているので、ノロノロ運転にも対応可能だ。ACCを作動させる機会が多い渋滞時において、「使える」か「使えない」かの差は大きいと思う。

ヤリスの注目すべき点としては、レーダー、ソナー、カメラを組み合わせた上級モデル並みの自動駐車システム「アドバンストパーク」を搭載していることが挙げられる。実際に試してみると、コンパクトなサイズをいかして素早く駐車が終了するので(両側にクルマが停車していないクリアな状態で40秒~60秒)、これは使えそうだ。並列と縦列で停車位置を変えるなど、細かな制御もできていて感心した。

○バリエーション:フィットは選択肢豊富、ヤリスには飛び道具が!

1.5リッターHV、1.5リッターガソリン(6MTあり)、1.0リッターガソリンの3種のパワートレーンに「Z」「G」「X」グレードを持つヤリスに対して、1.5リッターHV、1.3リッターガソリンの2種のパワートレーンと「ベーシック」「ホーム」「ネス」「リュクス」「クロスター(SUV的なスタイル)」の各グレードを持つフィット。2トーンカラー(アクセントも含む)など、ボディカラーの数も入れた選択肢の豊富さでは、フィットに分がある。価格はヤリスが139万5,000円~249万3,000円、フィットが155万7,600円~253万6,600円だ。

ただしヤリスには、「東京オートサロン2020」でワールドプレミアとなった「GRヤリス」という“飛び道具”がある。272psの1.6リッタータボエンジン、6MT、フルタイム4WDシステムを3ドアボディに搭載し、「WRC」(世界ラリー選手権)で勝つために開発したホモロゲーション(FIA公認レースに出場する資格を得るための量産車)モデルだ。カタログの価格は396万円~456万円と別格だが、こうしたモデルを望むユーザーにはバーゲンプライスなのかもしれない。

ちなみに両車の受注台数だが、発売から1カ月の時点でヤリスは約3万7,000台、フィットは約3万1,000台だった。
○まとめ:キャラは正反対、己を知れば迷う心配なし!

コンパクトなボディに欧州車のようにスポーティーな走りと世界レベルの好燃費を盛り込んだ体育会系のヤリス。かたや、幅広いユーザーに受け入れられるよう使いやすく心地よい内外装と走りを実現した癒し系のフィット。同じクラスながら、2台が持つキャラクターは正反対と言っていいほどだ。性能面ではなく、そのどちらが自分または同乗者の好みに合致するかを考えれば、選ぶべきクルマは簡単に見つけられるだろう。

○著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)
1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。(原アキラ)