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「攻殻機動隊 SAC_2045」フル3DCGだからこそ描けるSF表現とは? 神山健治監督×荒牧伸志監督【インタビュー】

2020年04月23日 11:02  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『攻殻機動隊 SAC_2045』(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
4月23日(木)よりNetflixオリジナルアニメシリーズにて全世界配信がスタートする『攻殻機動隊 SAC_2045』。

シリーズ史上初のフル3DCGアニメーションで、新たな『攻殻機動隊』が始動する。圧倒的な世界観とビジュアル表現で観る側だけでなく、作る側であるクリエイターにも多大な影響を与えてきた近未来のSFの金字塔だ。


アニメ!アニメ!では、ダブル監督体制で本作を手がけた神山健治監督と荒牧伸志監督にインタビュー。

2019年に日本で最も観られたNetflixオリジナルアニメシリーズ『ULTRAMAN』でダブル監督体制を経たふたりが、新たな『攻殻機動隊』で描きたかったものは何なのか。
そして、3DCGになることで『攻殻機動隊』はどう変わったのか。

新たな物語、新たな『攻殻機動隊』と、なにかと“新”というキーワードがついてくる本作。従来の『攻殻機動隊』ファンへの注目ポイントも合わせて聞いた。
[取材・文=タナカシノブ]

■2045年を舞台に『攻殻機動隊』を描く意味
――本作の舞台は2045年ですが、今、この時代に『攻殻機動隊』シリーズで2045年を描く意義をどこに見出したのでしょう。

神山:タイトルを2045年にした理由のひとつに“シンギュラリティ”があります。
企画がスタートしたときにこの言葉があちこちで取り上げられていて、「2045年ならAIが人間を追い越している」「人間が想像していなかった世界が来るんじゃないか」と言われていたんです。
『攻殻機動隊』的には避けて通れないネタだったので、その辺りの時代を想定して描くことにしました。


僕自身は、未来予測をしたかったわけではなく、今を掘り下げていくことで、その先にあるいろいろなものが見えてくると考えたんです。
『攻殻機動隊』の設定の中で“今”を描いているという感覚でしょうか。

荒牧:具体的な年号で2045年と表現しているけれど、2045年はひとつの記号にしかすぎません。
「25年先はこうなっているはずだ」ということではないんですよね。

――『攻殻機動隊』といえば、「義体化」「電脳化」といったSF要素がありますが、それらと今の現実世界をどう結びつけようとされましたか。

神山:今回で言えば、スマホが脳みその中に入っている点です。

荒牧:スマホ時代なのでモチーフとしてはすごくわかりやすくなったと思います。わかりやすさは意識して描こうと思っていたので、スマホが入っているとと理解されやすいだろうと。


――現実世界が『攻殻機動隊』の世界に近づきつつあると思いますが、演出家としてSFを描きやすくなったと感じる面はありますか?

神山:いえ、逆に難しい部分のほうが多くなりましたね(笑)。

荒牧:そうですね。理解はされやすくなったけれど、SF描写に説得力を持たせることが大変になりました。

たとえば、「電脳」といった要素もこれまでは自由に想像を膨らませて描いていたけど、今は「どこで繋がってどこで切れて、どういう理由で繋がらないのか」「どのようなテクノロジーで通信しているのか」と理由を付けて表現する必要が出てきたんです。

――なるほど。そのほかSF描写で意識したところはあります?

神山:たとえば第1話でトグサが訪れる街です。


街の6割くらいはARの看板なのですが、普通にしていれば誰の目にも見えるものだけど、邪魔くさいのであえてそれを切るという描写です。

今までは主観カメラでしかやらなかったのですが、あのシーンではあえてカメラにも写っているように見せました。
第1話で素子がリンゴを手に取るシーンがあるのですが、リンゴにもタグがついているし、実際にもそうなっています。
でも、客観カメラで撮ったときには、あえて映らないようにしているんです。

荒牧:素子の主観カメラのときだけ、リンゴのタグが映るようになっているわけです。
アプリが入っている人には見えるけど、第3者の目から見ると見えない。そこはとても細かいですが決め事としてしっかり守りました。

神山:ぱっと見ではわからないけれど、そのルールを必ず守って演出していました。

たとえば第3話に登場する、店売りのおばちゃんが、目の前のハエを払っているように手を動かしています。
実は第1話からやっている動きなんですが、要は「安い電脳だから広告がやたらに出てきてしまう」という意味なんです。


――ネットで個人向けに出る広告のようなイメージでしょうか。

荒牧:そうそう。広告を消そうとしたのに間違って見てしまったなんてこともありますよね。あれを必死に払っているわけです。

――そこでもデジタルリテラシーの格差を表現されているんですね。

荒牧:有料でなくす方法もある。今、まさに現実世界の我々が体験していることですよね。

神山:そういうのを見えなくするスキルがあれば、出てこない。
テクノロジーに対してリテラシーが無い人は、広告に時間とデータを奪われてしまう。そういう世界を前半に描いておこうと意識しました。

荒牧:似たような例だと、銀行でおじいちゃんたちがお金を引き出すために、手入力している場面も出てきますが、バトーはスッと通り過ぎるだけ。その違いです。
そこの表現にはすごく気をつけました。
→次のページ:3DCG表現とSFテーマについて

■3DCG表現とSFテーマについて
――本作は「フル3DCGアニメ」であることも大きな特徴ですが、2D作画と違って3DCGだからこそ描けたものはありますか?

神山:「義体化している人間」と「生身の人間」、それから「アンドロイド」…これらの描き分けですね。
作画だと、相当頑張っても難しく「義体の人は体重が重いから飛び降りると地面が割れる」とか「銃を撃っても目をつぶらない」という表現で違いを出すようにしていましたが、気づかない人は気づかない(苦笑)。

――なるほど。描き分けの際に3DCGだとどのような恩恵があるのでしょう。

神山:セルアニメだと、人間だろうが義体だろうが、止まるときは止まってしまいます。
だけど、3DCGだと基本的にキャラは止まらない。それは、モーションキャプチャーで芝居をしているからです。

義体化している人間や生身の人間は完全に静止することはないのですが、例えば、企業の受付用アンドロイドは待機しているときはまったく動かないわけです。でも人が訪れたらフッと動き出す。
映像を見せるだけで「これはアンドロイドですよ」とパッと理解させることができるわけです。


一方で、素子は全身義体だけどほとんど人間と見分けはつきません。
でもちょっとつるりとしていて、人間にしてはすごくバランスが取れているし、太らない。
少女のような見た目だけど、屈強な男たちの中で隊長になるくらいだから、中身は少女じゃないはずだというところで、彼女が明らかに作り物であることを表現しました。

■キャラクターデザインの変化
――キャラクターデザインについても聞かせてください。とくに草薙素子は従来のデザインから変化を感じます。


神山:新しく作ること、時代は2045年であることを意識しました。
『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズの時代設定から15年経っているからといって、老成化した素子を見せるのはどうかなと。初めて『攻殻機動隊』を観る人が楽しめることを意識して、意図的に若くしました。

荒牧:あえてフレッシュにしています。

神山:頭身も縮んでいるから、これまでの素子よりちょっと若い印象があると思います。
実はこれには技術的な理由があって、従来の素子と同じ頭身にすると、3DCGではリアルな芝居ができなくなってしまうんです。

作画ではそのシーンを表現するうえで都度最適化して描けますが、3DCGは1回モデルを作っちゃうと、自由に伸び縮みさせるのが出来ない。今回は3DCGとして動かすことを踏まえたデザインになっています。

――3DCGのルック全体についても聞かせてください。とくに同じく共同監督された『ULTRAMAN』と比較してどうでしょう。

荒牧:『ULTRAMAN』では、セルアニメに寄せた「セルルック」と言われるルックでやっていましたが、『攻殻機動隊』ではストーリーを語るうえで、このキャラクターはこういうルックがいいんじゃないか、と作品の特性によって異なる落としどころを見つけました。

あと表情は意識しました。キャラクター性はきちんと出したいという気持ちはやっぱりありますからね。

――シリーズのマスコット的存在であるタチコマについてはいかがでしょう?


神山:タチコマ自体はこれまでも3DCGでやっていたので、表現のうえでは大きな違いはありませんでした。

荒牧:デザインはマイナーチェンジしています。とくにサイズを小さくしたいという気持ちがあって、バトーがギリギリ乗れるようにキュッとしました。

――なぜ小さくしたのでしょう?

神山:作画であればシーンごとに“ウソ”がつけるのですが、3DCGだとサイズが正直に出ちゃうから、あまり大きくデザインしてしまうと不都合が出てくるだろうと。

マンガではタチコマの元となったフチコマがマンホールに隠れる描写がありますが、冷静に考えると軽自動車より大きいタチコマには無理なんです(笑)。
マンガなら違和感ないシーンでも3DCGアニメだと違和感が出てしまうんですね。


荒牧:例えばこの部屋にタチコマがポンと置いてあったら、「どこから入ってきたんだ!」ということになるわけです(笑)。
そのくらいのサイズなので、とにかく小さく小さくと意識しました。

神山:タチコマに絡めた新しい表現でいうと、進行方向とは真逆を向いて走行していても、バーチャルコクピットなので全身義体の人が乗ると、進行方向が同じように見える。
サイボーグだから感覚を逆にすることができると。そういった過去にできなかった表現を今回やっていますね。

――では最後に『攻殻機動隊』シリーズのファン向けに、本作ならではの注目ポイントを願いします。

神山:『攻殻機動隊』シリーズは連綿と続いてきて、その世界設定のなかで事件もたびたび描かれてきましたが、世界戦争という歴史の大きな変革が起きたことは、これまでのシリーズにはなかったところです。

そういう状況になったとき、素子たち公安9課はその世界にどういうアプローチをしていくのかが大きな見どころです。
これまでのシリーズと比べて、「あ、こんな風に変わったのね。でも、変わっていないのね」という感じで、観てほしいと思います。

荒牧:何を言ってもネタバレになりそうですが(笑)、前半戦は公安9課みんなが戻ってくる話になっています。
「どうやって戻ってくるの?」という点に着目しながら追いかけてみてください。

神山:今まで観ていた人は、多分びっくりすると思います。

荒牧:ですね。驚く部分もあると思いますが、導入部分にはかなり工夫を凝らしているので、そのあたりにも注目して楽しんでください。

【作品情報】
■Netflixオリジナルアニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」
<配信情報>
2020年4月23日(木)より全世界独占配信(※中国本土を除く)

<メインキャスト>
草薙素子:田中敦子
荒巻大輔:阪 脩
バトー:大塚明夫
トグサ:山寺宏一
イシカワ:仲野 裕
サイトー:大川 透
パズ:小野塚貴志
ボーマ:山口太郎
タチコマ:玉川砂記子
江崎プリン:潘めぐみ
スタンダード:津田健次郎
ジョン・スミス:曽世海司
久利須・大友・帝都:喜山茂雄

<スタッフ>
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志
シリーズ構成:神山健治
キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:戸田信子 × 陣内一真
オープニングテーマ:「Fly with me」
millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045
エンディングテーマ:「sustain++;」
Mili
音楽制作:フライングドッグ
制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS
製作:攻殻機動隊2045製作委員会
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会