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コロナ感染防止、刑務所や拘置所「弁護士以外は面会認めず」への疑問の声

2020年04月23日 10:02  弁護士ドットコム

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法務省は新型コロナウイルス感染防止のため、特定警戒都道府県(13都道府県)にある刑事施設(刑務所、拘置所等)における収容者との面会について、弁護士を除き原則として認めない運用を始めた(4月20日付)。


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ネット上には、面会を制限することについて疑問視する声も上がっている。



●原則として「弁護人」「弁護人になろうとする者」以外は認めない

法務省矯正局の担当者によると、「弁護人」または「弁護人になろうとする者」の面会を認める理由は、弁護人の「接見交通権」への配慮からだという。



「もちろん、弁護人等とその他の方達との感染リスクが異なるものではないことは重々承知しています。弁護人は刑事弁護において重要な役割を果たしています」と担当者は説明する。面会の際はマスクの着用を頼んでいるという。



例外として認められるのはどのような場合なのだろうか。担当者は「個別に判断しており、一概に申し上げることはできません」とした。



●刑事収容施設法上、コロナによる面会制限は認められていない

刑事施設の適正な管理運営を図るとともに、収容されている人の権利を定めた法律として、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(以下、「刑事収容施設法」)がある。この法律で、面会を制限することは認められているのだろうか。



神尾尊礼弁護士は、つぎのように説明する。



「刑事施設には、受刑者だけでなく裁判が終わっていない人(未決拘禁者)も収容されています(刑事収容施設法3条)。未決拘禁者はまだ裁判が終わっていない状態ですから、受刑者よりも権利として認められる範囲が広くなります。



受刑者が面会できる相手方を規定する『刑事収容施設法』111条は『刑事施設の長は、受刑者(中略)に対し、次に掲げる者から面会の申出があったときは、(通訳費用を負担しない場合、又は懲罰中などの場合)を除き、これを許すものとする』としています。



具体的には、受刑者の親族、受刑者の更生保護に関係のある人などと面会が許されることになり、面会を制限できる場合は限定されています」



未決拘禁者の面会は、どのように規定されているのだろうか。



「未決拘禁者の場合は『刑事施設の長は、未決拘禁者(中略)に対し、他の者から面会の申出があったときは、(通訳費用を負担しない場合、又は懲罰中などの場合)を除き、これを許すものとする(以下略)』(刑事収容施設法115条)と規定されています。



そのため、未決拘禁者は親族といった制限もなく、面会できることになります。



以上のとおり、未決拘禁者はもちろん受刑者であっても、刑事収容施設法上『新型コロナウイルス感染防止のため』という理由での面会制限は認められていないことになります」



●面会制限は「国有財産法」に基づく措置

しかし、法務省矯正局の担当者によると、面会の制限は、施設の適切な管理を求める「国有財産法」に基づく措置だという。



神尾弁護士によると、該当する条文は次のものが考えられるという。



【国有財産法】
5条 各省各庁の長は、その所管に属する行政財産を管理しなければならない。

9条1項 各省各庁の長は、その所管に属する国有財産に関する事務の一部を、部局等の長に分掌させることができる。

9条の5 各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わなければならない。


「裁判例でも、つぎのように判示されたことがあります。



『拘置所等の刑事施設の庁舎は、国が所有し、国は、その所有権の効果として庁舎管理権を有しており、(中略)当該刑事施設の長が上記庁舎管理権を行使することとなる(国有財産法5条、9条1項)。



(中略)特に法令によって制限されていない限り、明文の規定がなくても、その庁舎に対して包括的な管理支配権を持ち、その事務の遂行に支障となる行為を禁止することができると解すべきである』(福岡高判平成29年10月13日訟務月報64巻7号991頁)



つまり、国は所有権があって管理権限があるのだから、事務遂行に支障があればそういった行為を禁止できる、としています。



法務省も収容する上で問題があるから面会を制限できる、と考えているのでしょう」



●根拠となる「国有財産法」に疑問

面会の制限について「国有財産法」を根拠とした法務省の見解について、神尾弁護士は「無理があると考えています」と話す。



「刑事収容施設法は被収容者の処遇を定めた法律であり、そこに面会できない場合が限定的に記載されています。いかに国に管理権限があろうとも、法律に規定されていないような禁止事項を追加していいはずがありません。



上記裁判例も『特に法令によって制限されていない限り』という限定がついています。まさに刑事収容施設法が規定しているのであり、法律を超えるようなものは管理権限によっても正当化されないとみるべきと考えます」



しかし、新型コロナウイルス感染拡大を防止するためには、なんらかの方策は必要だ。



「たしかに、方策を講じる必要があるのは受刑者や未決拘禁者も例外ではありません。感染防止に必要な範囲で制限を課すことを検討すべきでしょう。刑事収容施設法上も以下のような規定があります」



【刑事収容施設法114条】
1項 刑事施設の長は、受刑者の面会に関し、法務省令で定めるところにより、面会の相手方の人数、面会の場所、日及び時間帯、面会の時間及び回数その他面会の態様について、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上必要な制限をすることができる。

2項 前項の規定により面会の回数について制限をするときは、その回数は、1月につき2回を下回ってはならない(受刑者の場合。未決拘禁者の場合は1日に1回)。


「この規定にしたがえば、法務省令(刑事収容施設規則)を改正するなどして、一時的に制限を厳格化することはあり得る方策でしょう。



ただ、少なくとも国有財産法を根拠とするのは、刑事収容施設法に抵触するものであって許されない制限です。また、刑事収容施設法の規定を超えるような制限には、法改正が必要と考えます」




【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com