2020年04月22日 16:32 弁護士ドットコム
広島県の湯崎英彦知事が4月21日、国が給付する現金10万円の県職員分について、県の財源として活用する考えを示した。
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湯崎知事は4月22日、発言を事実上撤回。ただ「場合によっては、県職員に協力をお願いするというのも選択肢の一つとして検討しなければならない」ともしている。
ネットでは、「こんなこと許されるの?」、「美談でもなんでもない」と反発する声が相次いだが、法的な問題はないのだろうか。
日本経済新聞(4月21日)によると、当初知事は、休業要請に応じる事業者向けの協力金についての会見で、「圧倒的に財源が足りない。どう捻出するかについて、給付される10万円を含めて聖域なく活用したい」と話していた。
中国新聞によると、翌4月22日には、県として直接職員の10万円を活用する考えはないと表明した。ただ、財政上、県職員への協力要請は選択肢の一つだとしている。
広島県職員連合労働組合の大瀬戸啓介中央執行委員長は「マスコミの報道を聞いて、事実を知った。労使合意ないままに記者発表すること自体、非常に問題がある」とこぼす。
職員からは「驚いた」という意見が相次いでいるといい、「県民で困っている事業者がいることは十分承知しているが、休業要請は広島県の問題だけではない。提案があった時点でゼロベースで検討したい」と語る。
広島県総務局ブランド・コミュニケーション戦略チームは「担当部署も決まっておらず、詳しいことをお伝えできない」と回答した。
給付金を強制的に寄付させる行為の問題点について、憲法にくわしい作花知志弁護士に聞いた。
憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と規定しています。
国が給付する現金10万円の県職員分も、当然個々の県職員の方々の財産ですので、それを同意もなく県が取得して財源とすることは、憲法29条1項に違反して許されないと思います。
もちろん、個々の県職員が自らに給付された10万円を県に寄付することに同意すればいいのですが、そこに強制的な側面がないかが、後に法律問題となる可能性があると思います。
国が給付する現金10万円は、コロナウイルスの影響で経営が悪化したり給与が削減されたりした人のためのものです。
「県職員は給与が減らないのだから」という意味があるのではないかと推測しますが、給付を受けた人がそれを店で使い、その結果経営が悪化した店が利益を得る面も同時に持つ給付金のはずです。
いずれにせよ、財産権が基本的人権である以上、それを制限するためには法律の根拠が必要であり(憲法29条2項)、県職員だけ例外という扱いには合理的な根拠がないと考えます。
【取材協力弁護士】
作花 知志(さっか・ともし)弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
事務所URL:http://sakka-law-office.jp/