2020年04月21日 12:02 リアルサウンド
東京では現在、新作旧作含めて1本も映画が上映されていない。先の大戦末期では、空襲のさなかにも映画は上映されていたというから、空前の事態を迎えていることになる。初夏にかけて上映予定だった新作も、続々と公開延期が発表されている。
一例をあげれば、5月22日公開予定だった原田眞人監督の『燃えよ剣』は、新たな公開日が決まりしだい告知されることになっているが、それはいつ頃になるのか。原田監督の個人サイトには、もう少し具体的な公開の目処が次のように記されている。
「東宝は最長で一年と言っている。私は感染の行方を見据えつつ、年内に公開できるよう働きかけるつもりです。最悪でも、日本よりも早くに終息宣言を出す海外のどこかの映画祭で、年内のワールド・プレミアを開きたい、と思っています」(引用:Web『HARADA FREAKS』)
映画との接点を見失いそうになる日々が続く中で、Webで自作の無料公開を始めた映画監督たちがいる。その一部を紹介したい。いずれも未ソフト化の秀作ばかりである。
参考:ミニシアターが日本映画界に与えてきた影響を考える “世界の多様さ”を教えてくれる存在を失わないために
●濱口竜介監督『天国はまだ遠い』
『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』で世界的にも注目を集める濱口竜介監督は、短編の『天国はまだ遠い』(2016年)を公開中。地縛霊となった女子高生の三月(小川あん)と同棲中の雄三(岡部尚)は、三月に関するドキュメンタリーを撮っているという彼女の妹・(玄里)からインタビュー撮影の依頼が来る。
濱口作品は少女漫画や月9みたいなシチュエーションを、角度を少しばかり変えることで全く異質の映画を生み出してしまう。本作も、ハチャメチャなラブコメで通用しそうな話を、淡々と描きながら静かに感動させてしまう手腕が冴えわたっている。
今はあまり騒ぎたくない、静かに部屋の片隅で映画を眺めたいという気分のときに観たい1本だ。劇中、雄三がインタビューの途中で三月に憑依されて入れ替わる過程を1カットで見せるが、特別なVFXも派手な映像処理を行わなくても、カメラと俳優がいれば、映画でしか不可能な〈夢〉を映し出すことが可能になることを実感するだろう。
●岩切一空監督『花に嵐』
日本映画監督協会新人賞を受賞した岩切一空監督の『花に嵐』(2017年)は、PFF(ぴあフィルム・フェスティバル)準グランプリならびに観客賞、カナザワ映画祭観客賞など、大型新人登場と話題を呼んだ傑作。
大学生になり、映画研究会に入った“僕”(岩切一空)は自らにカメラを向けて日常を撮影する。これだけなら、個人映画にありがちな日記映画やセルフドキュメンタリーから一歩も出ないが、そこからあらゆる映画のジャンルへと飛躍を見せる。何もない退屈な日常が、波乱万丈の映画的な世界へと次々に塗り替えられてゆく快楽がどれだけ圧倒的かは、その類まれなセンスに満ちた映像を実際に体感してもらうしかない。ミニマムな世界から想像だにしなかった世界へと広がりを見せる本作は、今後の映画のプロトタイプになるのではないかと思わせる。
●瀬田なつき監督『あとのまつり』
未来の映画といえば、瀬田なつき監督の『あとのまつり』(2009年)は突然全ての記憶を失う現象が流行した街を、数十年後の2095年から見つめる。現代の日本に重ね合わせることも可能な予感の映画とも言えるが、それよりもヌーヴェルヴァーグを軽やかに引用して街を駆け抜け、時には踊りながら、時間も空間も飛び越えていく演出の心地よさは、いつまでもひたっていたくなる。
●小川紗良監督『最期の星』
それ以外にも、岩切監督の長編第2作『聖なるもの』に主演した小川紗良が監督した『最期の星』(2018年)が、同監督の短篇『あさつゆ』(2016年)と共に公開されている。『最期の星』は早稲田大学在学中に是枝裕和らが監修した実習作品ながら「PFFアワード」にも選出されており、今秋公開予定の長編初監督作『海辺の金魚』の前に、予習の意味もこめて観ておきたい。
こうした作品は、監督たち自身が権利を所有する作品が多いこともあってスムーズにインターネット上での公開が可能になったようだが、上記の作品はいずれもソフト化されておらず、映画館、それもミニシアターがなければ観る機会はなかったものばかりだ。これらの作品を観れば、若き才能を発見し、惚れ込み、リスクを背負って上映を続けてきた映画館の存在にも思いをはせてもらえるのではないかと思う。
今、全国のミニシアターは存続の危機に瀕している。「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」をはじめ、映画館を応援するプロジェクトが幾つか立ちあがっている。それ以外にも劇場の会員になったり、回数券を買ったり、映画館を応援する方法は無数にあるので、自分なりの形で身近な映画館を応援してもらえると嬉しい。
そしてアフター・コロナの世界で、再び映画館が再開されたときには、ここで見つけた監督や出演者たちによる新たな映画たちを、ぜひ観に駆けつけてもらいたい。ーーつまりこの無料公開は、“あとのまつり”に向けての前夜祭でもある。(モルモット吉田)