2020年04月21日 10:41 弁護士ドットコム
「今重要なのは、生き残ることです」
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新型コロナウイルスの影響は、飲食店に深刻なダメージを与えています。こうした状況の下、自身も飲食店を経営する弁護士が積極的に発信をつづけています。
もともと飲食店ビジネス専門の弁護士として活動していた石崎冬貴弁護士が、自身で焼肉店をオープンしたのは、昨年12月のことです。それからすぐに新型コロナの影響を受けることになりました。
「営業努力ではどうにもならない事態を体感しています。このような非常事態に必要なのは、根性ではなく、今を乗り切るための知識です」と石崎弁護士は強調します。
石崎弁護士が取り組みをまとめたレポートは、資金繰りなど、飲食店の経営者以外でも参考になりそうです。今回、石崎弁護士の許可を得て、その内容(4月17日現在の情報)を紹介したいと思います。
●石崎弁護士のワンポイント
圧倒的に優先順位が高いです。ほとんど売上げがない現状(休業なら純粋にゼロ)であれば、人件費と家賃で3カ月も持ちません。今はとにかく借りられるだけ借りましょう。無借金経営にこだわる経営者も多いですが、無利息の融資なら、使わなければ返せばいいだけです。
●制度・方法
緊急事態のため、融資制度はたくさんあります。
(ⅰ)政策金融公庫(商工中金もほぼ同じ)
メリット:無担保、3年間3000万円まで実質無利子、既存借入の借換可能
デメリット:混んでいる(「新規」は数カ月?)、融資不可の場合あり
※インターネットで受付開始:https://www.m.jfc.go.jp/sysped/ped010
(ⅱ)セーフティネット保証を受けて民間融資
メリット:ほぼ借りられる、取引のある金融機関を選べるので比較的早い
デメリット:手続少しが面倒(事前相談→自治体の認定→信用保証協会→各金融機関)。事業規模によっては、保証料や利子がかかる場合もある
(ⅲ)その他
小規模共済の貸付、定期預金の解約、生命保険の貸付など、とにかく使える制度はすべて使う。ただし、サラ金・闇金はダメ。
●専門家
・税理士、融資コンサルタント
今は窓口はとにかく混んでいて、相談もできません。どの融資を受けられるのか、受けるべきかは、専門家に相談しましょう。書式は相当少なくなっているので、手続自体は自分で可能です。
●石崎弁護士のワンポイント
全国的に休業要請が出たため、ほぼすべての飲食店は自粛を迫られています。休業する場合は、雇用調整助成金により、休業手当(給与の60%)のうち90%が国から支給されます。ただ、基本的に助成金や補助金は時間がかかります。雇用調整助成金でも1、2カ月はかかると思われます。
まずは、足元の1、2カ月をクリアできるように資金繰りをおこない、連休明けに見込まれる各種給付金や、雇用調整助成金などの支給を待ちましょう。
まったく余裕がなければ、従業員を解雇して、失業給付を受けてもらうことも考えるべきです。国や自治体の補償は、日々アップデートされますので、情報収集に努めるようにしましょう。
●雇用調整助成金
休業した場合(時短営業や、一部の従業員でも可能)、休業手当(給与の6割以上)のうち、最大9割が支給されます。ただし、1日8330円の上限があります。
手続きはかなり簡潔になりましたが、それでも複雑です。一時的な賃金も支払えないなら、整理解雇や失業給付のほうが従業員は安心する場合もあります。なお、再雇用の約束は違法です。
●その他の補助金・助成金
・持続化補助金、IT導入補助金、ものづくり補助金
・時間外労働等改善助成金(テレワークコース、職場意識改善コース)
・人材開発支援助成金(キャリアアップ)→補助金・助成金は基本的に後で支給されるもの(半年~1年)
・小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度)
休業中の学校などに通う子供の世話をするために休んだ従業員に対し、給与の全額を払った場合、1日8330円を上限として全額支給されます。例外で早いですが、それでも1、2カ月くらいかかりそうです。労力や費用などを考えると、複数の正社員を1カ月以上休業させるイメージです。
●石﨑弁護士のワンポイント
今のところ、わからないことや未定なことが多く、新しい保証制度も日々増えていますので、とにかく情報のアップデートを続けましょう。フェイスブック、業界団体のHP、飲食系ポータルサイト、自治体・経産省HPなどが有用です。助成金・補助金と違って、手続自体は、難しくないはずですので、自力でもできると思われますが、どうしてもわからなければ専門家に相談してください。
●持続化給付金
支給対象:新型コロナにより、売上が前年同月比で50%以上減少している者
※今年1年のうちどの月でもよい
※大企業(資本金10億円)以外、個人法人問わず(おそらく)すべての事業者
給付額:法人200万円、個人事業者100万円。
ただし、昨年1年間の売上からの減少分を上限とする。
※前年の総売上(事業収入)-(前年同月比▲50%月の売上×12カ月)
=昨年比で50%以上落ちた月を12倍して、昨年より下がった分が上限
必要書類:法人番号or本人確認書類、去年の申告書類、今年の対象月の帳簿等
手続・受付:詳細未定⇒4月最終週を目途に確定・公表予定
※補正予算の成立(4月22日?24日?)後、1週間程度で申請受付開始
電子申請の場合、申請後、2週間程度で銀行口座に給付を想定
●都道府県、市区町村の支援
東京都:感染拡大防止協力金:一律50万円(2店舗以上は100万円)
4月22日から専用サイトで受付、早ければGW明けから支給
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/attention/2020/0415_13288.html
宅配・テイクアウト助成金:最大100万円
宅配・テイクアウトの初期費用(容器購入費・改装費用等)
神奈川県:事業者が複数の事業所を賃貸している場合は30万円
1事業所を借りている場合は20万円、家賃負担がない事業者は10万円
5月7日から5月末まで受付、郵送
静岡県:御殿場市:ナイトスポットへの休業補償(上限100万円)
西伊豆町:宿泊施設や飲食店への給付金(50万円or20万円)
大阪府:個人事業者に50万、中小零細企業に100万円の支援金(ただし、自治体との協議未了)
神戸市:UberEatsが5月10日まで実施している割引(100~500円)を7月12日まで延長。「持ち帰り」対象地域を市内全域に拡大、「持ち帰り」手数料を4割減免
福岡市:休業した中小企業・小規模事業者の店舗の賃料の80%を支給(上限50万円)。1回1000円以上のデリバリー利用で500円分のポイントもしくはクーポンを還元
●石崎弁護士のワンポイント
大家側も非常事態だと理解しています。まずは遠慮せず頼んでみましょう。頼むのはタダです。ただ、現在、家賃交渉の嵐で、大家さんも困っている場合があります。お互いに話し合いの姿勢を持つようにしましょう。
●交渉先 ・デベロッパー(財閥系・鉄道など)
規模にもよりますが、基本的に個別対応はしていません。緊急事態宣言以降、商業施設自体を閉鎖している場合、一律で猶予や減額の可能性もあります。(※支払い済みのものについては、営業調整金など)
・個人大家
個々の大家次第=交渉次第
●交渉の方法
まずは、管理会社に対して、減額・猶予の要請します。書式は何でもいい(インターネット上にも落ちているものでかまいません)。管理会社を入れていない大家には、直接連絡しましょう。その場合は、具体的な提案をします。たとえば、減額幅について「1カ月分免除」or「3カ月間半額」あたりから始めます。
もし拒否されたら、(ⅰ)国交省の要請書や(ⅱ)固都税の減免を伝えます。
※2~10月までの任意の3カ月間の売上高の前年同期比減少率が30%以上50%未満の場合2分の1、50%以上減少の場合は全額免除となります。2月以降、前年同月比20%以上収入が減少した全事業者に対し納税猶予となります。理論上、大家としては、賃料減額したほうが得な場合があります。ただし、「退去」カードはチキンレースになるのであまりオススメできません。
●専門家
弁護士、賃料削減コンサルタント(ただし、交渉不可)。正直、今なら自分でできます!
●石崎弁護士のワンポイント
猶予してもらえるものはすべて猶予にしましょう。そして、今の支出をとことん減らしましょう。特に、税金・保険料などは、1年も猶予が可能です。公共料金は、金額が大きければ猶予にします。ただ、やることがたくさんあるので、面倒なら払ってしまうのもありです。また、この際、減らせる経費はないか、洗い出してみましょう。
●猶予を受けられるもの
税金(ほぼすべての国税、地方税):前年同月比で20%以下⇒最長1年猶予
社会保険料(厚生年金、健康保険の会社負担分):著しい損失⇒最長1年猶予
社会保険料(自身の国保、年金):著しい損失、相当な損失→6カ月~1年猶予、減免もあり
電気・ガス・携帯料金:5月まで猶予
水道料金:自治体による(東京都、横浜市は最長4カ月猶予)
生命保険料:最長6カ月猶予
損害保険料:5月末まで猶予
●削減できる可能性があるもの
宣伝費:ポータルサイト、口コミサイト→期間途中でもプラン変更可能の情報
電気・ガス:自由化しているので相見積もり
水道・電気:設備や器具の変更で省エネ化
印刷代、通信費、運送費、消耗品費:相見積もり
交際費:我慢!
人件費の削減は、最後の最後です!
●専門家
税金は税理士、保険料は社労士。ただし、猶予は自分でも調べればできます。そのほかは自分で窓口を調べておこないます、。忙しくて一つひとつ手が回らなければ、経費削減コンサルタントなどに相談しましょう。
●石崎弁護士のワンポイント
街に人がいない以上、今やれる販促は、デリバリーとテイクアウトくらいしかありません。期限付き酒販免許により、コース丸ごとデリバリーなど、単価アップも考えられます。Uber、出前館、Menuなど、さまざまなサービスがあります。どこも大変混んでいますし、対応地域も異なるので、とりあえず問い合わせてみましょう。
ただし、衛生管理や許認可については注意が必要です。
そのほか、定食系であればチケット制の導入、バー・ナイトクラブなどでは課金制動画配信サイトの利用なども考えられます。
●デリバリー・テイクアウト ・誰に運ばせるか
業者
UberEats:エリアが狭い、キャンペーン中、新規受付まで1カ月
出前館:エリアが広い、若干高い
Menu:エリアはかなり狭い、スタッフの教育〇
※地域単位では、個別のサービスあり
渋谷・福岡エリアで「タイミー」、札幌エリアで「食べタク」
自社
商圏が狭い、常連多め、競合少ないなら、思い切って自社スタッフで
→スタッフにも仕事を与えられる。ただし、ある程度の設備投資とノウハウ必要。何社か集まってグループでも可能
●期限付き酒販免許について
飲食店が、テイクアウトやデリバリー(同一都道府県内)と合わせて、お酒を販売することができる(「料飲店等期限付酒類小売業免許」)
・期限付き酒販免許について
申請の方法
1.まずは、(1)申請書(本体)、(2)申請書を記入、(3)個人は住民票 or 法人は登記事項証明書を取得
(1)から(3)を管轄の税務署に提出(郵送でも可能)・無料
※申請は店舗単位なので、それにより管轄の税務署も異なる
→不備がなければ約1~2週間で免許が送られてくる
届けば販売開始可能
2.免許付与後、(1)申請書、(2)免許要件誓約書申請書、(3)法人なら定款、(4)物件の賃貸借契約書、(5)地方税の納税証明書
書式:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/kansensho/0020004-077.htm
●注意点
・テイクアウト・デリバリーのメニュー
基本的に、店で普段出しているメニューに限る
普段出しているものを持ち帰るだけなら営業許可でOK
そうでない場合、個別の製造業許可が必要となる場合もある
(自家製のハム・チャーシュー、鮮魚の刺身、菓子、乳製品、冷凍食品など)
農産物の販売(仕入れた野菜をそのまま転売)はOK→とにかく線引きが難しい
メニューを絞って、必ず保健所に相談
・販売形式 店外に出して販売するのはNG
飲食店は、あくまで店内でしか販売、提供する許可がない
・食品表示
基本的にはなし。ただ、「本日中にお召し上がりください」とアレルギー表示はしたほうがベター
・衛生管理
暖かいものと冷たいもの混在、仕分けのない容器(バランなどもなし)
→非常に難しいので、専門家に聞く。これから暖かくなる・万が一があれば終わり
●専門家
デリバリー、テイクアウトは代理店、酒販免許は税理士。いずれも自力でできます。ただし、衛生管理だけは必ず相談すること。損害保険(製造物責任保険)にも注意。(テイクアウト・デリバリーにも対応しているか)
●石﨑弁護士のワンポイント
「飲食店はまとまりがない」。私が自治体議員に陳情に行った際に、言われた言葉です。他の事業者は、必ず団体で来るのに、飲食店はまったくない。来るのは事業者個人としてなので、個人の言葉。業界の言葉ではないので、検討しにくいということです。
三ツ星シェフの米田肇さんが、飲食店倒産防止対策を求める署名を「change.org」で開始して、10万人以上が署名しています(当然私も)。難しい話ではなく、近隣の飲食店同士で、署名し、その地域の議員に陳情に行ってください。必ず声は届きます。