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『映像研には手を出すな!』英勉は監督に適任だった? “最強の世界”を実現した3つのポイント

2020年04月21日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『映像研には手を出すな!』(c)2020 「映像研」実写ドラマ化作戦会議 (c)2016 大童澄瞳/小学館

「行こう、最強の世界」


 『映像研には手を出すな!』(以下『映像研』)の物語を基に、キャッチコピー通りの実写作品を生み出すならば、英勉監督の起用は最適なのではないだろうか。漫画・アニメ原作の実写作品は後を絶たないが、その評価は賛否が生まれやすい。映画公式サイトでも『「絶対に手を出してはいけない原作」の実写映像化に挑む。』とあるが、『映像研』はアニメ制作に携わる3人の想像の世界や、主人公の浅草みどりの独特な口調など、実写で描くには難しい要素もある作品だ。それでも英勉監督ならば、実写とアニメの垣根を超えた映像作品を生み出してくれると期待している。今回は、英勉作品の特徴から『映像研』のドラマ作品について、3つのポイントから考えていきたい。


参考:齋藤飛鳥×山下美月×梅澤美波が三者三様の魅力を発揮 『映像研』でのチームワークの良さ


 1つ目のポイントは映像の表現だ。近年、実写とアニメが逆転しているという声もある。アメリカの大作などでは、役者以外の多くの映像にCGを用いることで、アニメのような派手なアクションや世界観を売りとする作品も増えている。一方で日本のアニメは、京都アニメーションの作品など、日常的な動きや物語を追求し、SFやファンタジー要素の少ない作品も多く生まれている。ストーリーだけを見た場合、どちらがアニメ作品でどちらが実写作品なのか、判断が難しくなっているほどだ。


 その中で日本のCGを用いた実写作品の場合は、予算、公開規模、技術の違いもあるアメリカの大作映画と比較されてしまいがちだ。CGのクオリティの違いが、漫画・アニメ原作作品が非難される要因の1つとなっている。しかし、英作品はCGなどの映像技術を実写に取り入れていき、魅力的な映像を作り上げてきた。その一例が『3D彼女 リアルガール』だ。主人公・筒井光が愛好する作中内のアニメキャラクター、魔法少女えぞみちはテレビ画面から飛び出し、イマジナリーフレンドとして話しかける。特に後半では、アニメーションと実写が融合した圧巻の映像を生み出している。CGをリアルで迫力のある映像として見せる方向性だけではなく、アニメーションとしても活用し、実写と融合させる技が光る監督だ。  


 『映像研』でもその手腕は発揮されている。浅草みどりたちが作り出す、”最強の世界”と呼ばれる想像の世界のCG表現を駆使するほか、線画のようなアニメーション、文字演出などを活用することにより、アニメーションやCGと、実写の融合による映像の面白さを追求している。また、齋藤飛鳥などの役者の可愛らしさや、背景の美しさなどの実写作品の魅力も兼ね備えている。


 2つ目のポイントは創作への意気込み、情熱の描き方だ。第2話において金森さやかが、生徒会に映像研の目的や概要を説明する場面がある。「全ての映像媒体に最適化された、オールマイティな映像コンテンツを作る可能性を見出した」、「(他の類似するアニメ部などの部活と)同じといえば同じだが、映像という概念を研究する部活動はなかった。原点にして頂点、王が誕生したと思ってください」と語る。これは大仰なハッタリ込みの交渉術という物語の娯楽性を兼ね備えながらも、部活動をコンテンツに読み替えると、本作がなぜアニメ・ドラマ・映画として制作される必要があったのか、端的に説明しているように感じられ、今作にかける意気込みが伝わる。


 また、漫画・アニメオタクが登場する実写作品では、そのイメージに偏りがあるように感じられることも多い。太った容姿にメガネ姿、チェックのTシャツか萌えキャラクターが大きく印刷されたインナーシャツを着て、目を合わせずにキョロキョロと、早口で吃りながらネットスラングを交えて話す。今ではアイドルや人気俳優がアニメ・漫画ファンを自称することも珍しくないのにも関わらず、2005年頃のオタクブーム以前のイメージで、そのまま演出してしまう作品も多く見受けられる。


 英勉作品は、オタクのイメージを描くのではなく、情熱を描き出す。それが発揮されたのが『前田建設ファンタジー営業部』だ。名作アニメ『マジンガーZ』の格納庫を現実に作る試算を行うという物語であるが、アニメや漫画を愛する人たちの熱さを中心に描くことで、時にはバカバカしいと思いながらも、いつしか観客もその動向を固唾を飲んで見守り、応援している。また情熱を中心に描くことで『マジンガーZ』が内包していた熱さを再現し、熱血系アニメ作品の魅力を再確認させてくれる作品だった。原稿執筆時のドラマの『映像研』では、作品制作が本格的には行われていないものの、今後も原作ゆずりのアニメ作りに対する熱い思いが伝わる作品に仕上げてくれるのではないだろうか。


 3つ目のポイントが、漫画・アニメと実写を差別化することなく描く視点だ。2次元の漫画・アニメと実写を対比させた作品の場合、現実を見るべきだ、現実に戻りなさいというメッセージを発するものもある。その結果、観客が生きるリアルな世界への回帰を促すことで、創作世界を愛する人たちが寂しい思いをすることもある。英作品は上記の『3D彼女 リアルガール』や『前田建設ファンタジー営業部』のどちらも、現実と創作物をテーマにしながらも、愛する創作物があるからこそ、現実の生活に活力を得る人々の姿を描き出してきた。


 『映像研』のキャラクターたちは、創作活動やアニメ作品を愛している。しかしそれは、現実からの逃避ではなく、むしろ現実に立ち向かうための活力となるからだ。その思いを受け止め、映像として表現してきた英勉監督こそ、本作を手がけるのに適任の人材なのではないだろうか。


 アニメ版の監督を務めた湯浅政明は、誰もが認めるトップクリエイターであり、日本を代表する存在だ。大絶賛のうちに幕を閉じたアニメ版と、どうしても比較されてしまうこともあるだろう。それを承知の上であえて実写化に挑戦することや、放送されているドラマ版からも、公式サイトにある『「映像研」と日本映画界の全面対決』が単なるハッタリではないと感じさせてくれる。その挑戦の先にある“最強の世界”が、日本映画界に一石を投じるかもしれない。


■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。