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コロナ禍の今、アイドルにできることは? アプガ、吉川友ら所属事務所代表に聞く、危機的状況を突破する“秘策”

2020年04月19日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

YU-Mエンターテインメント所属アーティスト

 アイドル業界が新型コロナウイルスの猛威に晒されている。大手事務所のメジャーグループからライブハウスを主戦場とするインディペンデント系アイドルまで、いずれもコンサートやイベントが開催できない状態に陥っているのだ。


(関連:【写真】アップアップガールズ(2)「おうちライブ」


 この危機的な状況に対し、経営サイドはどのように突破口を見出そうとしているのか? YU-Mエンターテインメント代表取締役社長・山田昌治氏に話を伺った。同社はアップアップガールズ(仮)(以下、「アプガ」と略)、アップアップガールズ(2)、アップアップガールズ(プロレス)、吉川友、仙石みなみ、和田彩花が所属する新興プロダクションである。


「コロナのせいで中止になった仕事の数は膨大で、もはや数えられません。その中でも自主開催のイベント……つまりワンマンライブやツアーのほうが会社としてはダメージが大きいわけですけど、これも発表していたものや未発表のものを合わせて30公演以上は中止になっている。ざっと見積もっても、全体の損失は3千万円を超える状況です」


 フットワークの軽さに定評がある山田氏は、3月13日の時点で『25時間半テレビ ~アイドルと未来へ向かう場所~ #愛で山田を救ってくれ』なる番組をニコニコ生放送で配信する。YU-Mエンターテインメント所属のタレントが総出演したのだが、ここで山田氏は「この企画が成功しないと、来月よりタレントへの支払いができません!」と唐突にクラウドファンティング企画の立ち上げを宣言。これにはファンだけでなく、所属タレントたちも唖然とするしかなかった。


 これだけライブがキャンセルになっているのだから、経営的にダメージを被ったのは間違いない。しかしバラエティ色が強い番組構成や、飄々とした山田氏の語り口調から、「どこまでが本気で、どこまでがジョークなのか?」と真意を測りかねた者が多かったのも事実である。


「いや、もちろんリアルに被害は大きいですよ。でも僕が本当に心配しているのは、実は目の前の話だけでもなくて……。そもそもコロナに関しては、かなり初期の1月後半頃から各種報道を注視していました。そしてニュースを見ながら感じていたのは『これは報道されているような小さい問題ではない。もっともっと長引くだろう』ということ。中長期的にヤバい話になると思っていました」


 この「ヤバさ」には2つの意味が込められている。ひとつは以前のようなライブ活動をできる日がすぐにはやって来ないだろうという焦燥感。もうひとつは……こちらのほうがより重要なのだが、コロナショックを通じてアイドルのビジネススキームが一変するという予想である。「経営者は常に最悪な事態を想定するもの」と前置きしつつ、山田氏は説明を続ける。


「どう考えても、このコロナ騒動は1~2カ月で結論が出る話ではない。それどころか、収束まで1~2年かかっても全然おかしくはない。万が一、GW明けに緊急事態宣言が解除されたとしても、そこで“3密”のライブハウスに行こうと考えられますか? そうなるとライブエンターテインメントの枠組み自体も変わらざるをえないし、マネタイズの方法論も今まで通りというわけにはいかない。そこに自分が、あるいはうちのタレントがアジャストしていけるのか? そういう不安というか、ドキドキした気持ちがありました」


 もちろん山田氏とて、いたずらに不安がっているだけではない。この非常時のなかでも何か有意義なことはできないかと模索している最中だ。幸いにしてYU-Mエンターテインメントは一部の大手事務所のように株主の顔色を伺ったりすることなく、小回りがきく企業風土。悩んだり愚痴ったりする時間があるなら、今できる最大限のことを仕掛けていきたいと考えている。


「こういうときだからこそ、スピード感が重要だと思いました。25時間半テレビも、思いついた10日後には配信しましたし。何かを思いつくだけではダメで、実行しないといけないと思ってます。それはタレントやスタッフにも伝えていますね。あとはタイミングも大切にしてます。アプガ(仮)とアプガ(2)は有料配信ライブ(無観客ライブ)を3月28日にやりましたが、おかげさまで評判もよく、メディアの方にも取り上げていただきました。でも今のタイミング(※編注:4月17日取材)では、なかなかそれも難しいですよね。『集まって密の空間でライブなんかしている場合じゃない。家にいるべきだ」という話になる。今はタレントも完全にリモートワーク。みんなが自宅からできる働き方、発信の仕方を考えております」


 山田氏が振り返るように、アプガ(2)は「おうちライブ」と銘打った無観客生配信ライブを敢行した。本来の公演が延期になったことを受けての緊急代替ライブである。ここでリーダーの高萩千夏が「私たちはライブアイドル。ライブをすることを諦めません!」と宣言すると、コメント欄には彼女たちを応援する書き込みが溢れかえった。


 また、先輩格のアプガ(仮)も同日にスペシャル配信ライブを行う。興味深いのはライブの内容自体も通常から大きな変化が見られたことだ。無観客配信であることを逆手に取り、メンバー5人はステージから降りて会場中を縦横無尽に走り回ったのである。演者は客席に向かってパフォーマンスをするのが当然とされてきた。ところが無観客となると、客席に向き合う必要がなくなってくる。それよりもカメラの向こう側にいるファンにアピールすることが求められるのである。


「おうちライブでは、配信ライブのシステム部分でTHECOOさんとご一緒させていただきました。THECOOさんはファンコミュニティアプリ『fanicon』で普段からお世話になっているのですが、新しい配信システムを構築する話を以前から聞いていたんです。そして『ここしかないだろう』というタイミングでタッグを組むことができた。そのへんは本当に繋がりに感謝しております。またアプガ(仮)ライブの中身に関しては、すべてメンバー主導で行いました。セットリストはアップアップガールズ(fanicon)の中でファンの方とメンバーで話し合って決めてもらいましたし、「パーリーピーポーエイリアン」でのカメラを使った演出もメンバーからの提案です」


 うれしい誤算もあった。ライブがなくなり暇を持て余した吉川友がイチゴやパパイヤ、トウモロコシなどの種や粒の数を数える画像をアップしたところ、ファンが「ライブができなくなったアイドルが、どれだけやることがないか世間に知って欲しい」と拡散。これがうっかりバズって「時の人」となったのだ。


「ありがたいことに取材依頼も殺到していますし、イギリスの新聞(電子版)や9GAG(ピコ太郎を世界に紹介した超有名サイト)でも取り上げていただきました。このビッグウエーブに乗れるかどうかは、僕らの魅せ方、プロモーション、運……そして本人の頑張り次第ですが(笑)。でも吉川以外のタレントも、この自粛期間で変わったなと感じることは多いですよ。アプガ(2)のメンバーはYouTubeにアップするための動画を自発的にどんどん送ってくるようになりました」


 人々の心が弱ったとき、アイドルはすがるべき対象となると言われている。3.11の東日本大震災で国民感情が沈んだ際、底抜けに明るいももいろクローバーZが一気にスターダムに上り詰めた。またAKB48は東北地方を何度も訪問し、ファンのみならず多くの被災者たちの支えとなった。震災と違ってコロナ禍は目に見えるかたちでの復興支援がしづらいが、アイドルだからこそできることがあるのではないか。


「いつの時代もアイドルの本質は、みなさんを明るくする、元気にする、笑顔を届けること。そこはとても大事なファクターだと思うんです。”STAY HOME!”で自粛を徹底する今のタイミングだったら、家にいることの重要さを啓蒙しつつ、家にいながら笑顔を届ける方法はないのか? そこを考えていくしかない。たとえばリモートでの発信はアプガもそうだけど、でんぱ組.incさんやlyrical schoolさんも取り組んでいますよね。僕自身も今の状況でやれることはまだまだあると思ってます。こんなときだからこそ、今までに考えつかなかった方法で笑顔を届けるエンターテインメントを作っていきたいです」


 長引くかもしれないが、いつかはこのコロナ騒動にも終わりがくる。そのとき、おそらく世界にはコロナ前と違う光景が広がっていることだろう。そこでアイドルに果たされた使命は「新しい日常で笑顔を伝えていく」ということ。今以上にアイドルが世の中に光を照らす存在になっているはずだ。(小野田衛)