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「#Challenge」企画、プロデューサー同士のオンラインバトル……自宅でも楽しめるUSのR&Bムーブメント

2020年04月18日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “おうち時間”が長くなってから、R&Bに関する話題を耳にする機会が俄然増えたように思う。普段からR&Bが常にそばにある身としては、今なぜ? とも一瞬思ったが、たしかに夜遊びが常なタイプでも、家でひとり夜通しクラブバンガーばかり聴くのは辛いのでは、と考えれば納得。パーティーチューンでもちょっと切なかったり、なんとなく口ずさめるロマンチックな曲もたくさんあるし、恋人と一緒でもそうじゃなくても、心の平穏を取り戻すのにR&Bは最適な音楽なのかもしれない。


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 Instagramでは「#90sRnBChallenge」なるハッシュタグの投稿が溢れ、自分の思い入れのある90年代R&Bの動画や画像を投稿して、次に回す人をメンションで指名するというリレー形式の遊びがブームとなった。「Stay at home」=家でいることをSNSで呼びかけることが増えるにつれ、国内外問わずこういったリレー形式のチャレンジが流行となり、ほかのジャンルでも似たようなチャレンジが行われているが、少なくとも自分の周りでは「#90sRnB」のハッシュタグ使用率が圧倒的だ。


 DJやダンサー、クラブ好きなリスナーたちがこぞって投稿する1曲はどれも大名曲の嵐(そもそも1曲なんて選べるわけがない)で、「知ってはいたけれど最高だよね、やっぱり」と再確認しているようで嬉しい。10代や20代からの投稿も多く、たとえリアルタイムで聴いていなくても、なんだか青春の香りがするのが90年代音楽のマジック。投稿のほとんどが、24時間で消えるストーリー上で行われているので後追いはしづらいが、これも一種の立派なR&Bムーブメントだ。


■スーパースターが歌で祈りを繋げるゴスペル・チャレンジ
 ではR&Bの本拠地アメリカではどうかというと、まず話題に上がったのが、ブラックコミュニティで絶大な支持を得ている映画監督のタイラー・ペリーが発起人となった「#HesGotTheWholeWorldChallenge」だ。マヘリア・ジャクソンやニーナ・シモンの歌唱でも知られるゴスペルのスタンダード曲「He’s Got The Whole World In His Hands」の一節を歌う、いたってシンプルなチャレンジだが、最初に回したバトンの先がすごかった。ゴスペル界の名門クラーク一家やヨランダ・アダムスに、ジェニファー・ハドソンやファンテイジアといった歌自慢の大物たちが勢揃い。さらにはオプラ・ウィンフリーといったセレブリティも巻き込んだ巨大バトンとなり、ひとつの歌を通して祈りを捧げた。


 こういった「おうちで歌唱」系のプロジェクトの楽しさは、マイクを介さない歌声が聴けるところにもある。ステージさながらの歌い上げっぷりもいいけれど、パフォーマンスモードではない脱力シンギングに、その人本来の実力を感じることも多い。のっけからホイッスル全開のマライア・キャリーに、喋っているくらいラフな歌唱でも歌がうまいのがわかるアッシャー。YouTubeにまとめられているだけでも計80人以上が参加したチャレンジは、それぞれのキャラクターを楽しみながら観るのがオススメ。ちなみに個人的なお気に入りは、見事にニューオリンズバウンスへと落とし込んだビッグ・フリーダと、どうしてもセクシーなR&Bソングに聴こえてしまうタンクです。


■名だたるプロデューサーたちによるバトルシリーズが勃発
 また、ひとつの投稿としてではなく、ライブ機能を使った音楽の生配信を試みるアーティストたちも多い。「Club Quarantine」と題し年代を超えた選曲で踊らせてくれるD・ナイスのDJ中継や、エリカ・バドゥのベッドルームコンサート(こちらは自身のサイトから配信)などが注目を集めているが、いま最もホットといえる企画が、スウィズ・ビーツとティンバランドが事の発端となったプロデューサーバトルだろう。


 自らがプロデュースを手がけた楽曲を交互にかけ合う、レゲエで言うところの“Tune Fi Tune”形式が用いられたこの企画は、即座に大盛り上がり。なにしろスウィズもティンバランドも20年以上にわたり第一線で活躍しているアーティスト同士だ。かかる曲すべてがヒットチューンで、自宅でも思わずカラダを揺らさずにはいられない。バトルという名目ではあるが「グッドミュージックを創り上げたクリエイターたちへの賞賛なんだ」とスウィズが語る通りのパーティー仕様となっている。


 「カルチャーのために」をキーワードにしたこの企画は『VERZUZ』と名付けられ、スコット・ストーチVSマニー・フレッシュや、T・ペインVSリル・ジョンといったビッグマッチが立て続けにオンエア。その熱はR&B界にも飛び火し、3月末に行われたジョンテイ・オースティンVSニーヨの“ソングライターバトル”は、最高8万人ほどのオーディエンスが同時にその模様を見届けた。


 R&Bにあかるい人なら馴染み深いジョンテイ・オースティンは、マライア・キャリーの「We Belong Together」やメアリー・J. ブライジ「Be Without You」などのグラミー受賞作品を手がけた、超がつくほどのヒットメイカー。90年代から裏方として活躍していて、ほかにもタイリース「Sweet Lady」や故アリーヤの「Miss You」といった、アーティストにとっての代表曲を数えきれないほど書いている。(昨年には15年越しのデビュー作『Love, Sex, & Religion』をリリースした。)一方のニーヨも、シンガーとしての功績は言うまでもないが、元々はソングライターとして脚光を浴びていた。そのきっかけとなったマリオ「Let Me Love You」や、ビヨンセ「Irreplaceable」、リアーナ「Take A Bow」など他アーティストへの提供曲でもチャートを席巻した名曲だらけだ。ベストマッチとの意見も多く上がったこの一戦は、実にジェントルなやり取りで互いの音楽を讃えることに成功した。これぞ、R&Bマナー。動画でアーカイブを見るときには、曲がかかるたびに反応するオーディエンスのコメントも一緒に読むと臨場感があって面白く、各対戦の選曲をまとめたプレイリストをストリーミング再生するだけでも気持ちがいい。


 そしてこのシリーズ、なんと次に予定されている一戦はベイビーフェイスVSテディ・ライリー。この先誰も出てこれなくなるよ……というツッコミはさておき、R&Bファン垂涎モノのスーパープロデューサー対決だ。2人のカタログを掘り起こしたら規定ルールの20曲はもちろん、100曲ターンがあっても足りやしないだろう。(なお当初発表されていた日程はベイビーフェイスの体調不良を理由に一度延期されたが、現地時間の4月18日に再度行われるとのこと)。なお、この世紀の一戦はベイビーフェイスのインスタグラムにてライブ配信されるろいう。


 自粛期間が長く続き、経済的・精神的・肉体的に辛い日々だが、みんながそれでも音楽を欲していて、一緒に共有すればさらに楽しくなることを普段以上に噛み締めている。オンラインの繋がりに感謝しつつも、やはり目の前でライブを観たり音楽の流れる場所で誰かと踊れる喜びを手放しで味わえる日々が待ち遠しいばかりだ。(Yacheemi)