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コロナにおびえて出勤「いっそ閉めてほしい…」もし感染したら労災になる?

2020年04月18日 09:31  弁護士ドットコム

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新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅勤務が広がっています。一方、医療系やインフラ、小売店など在宅勤務ができない職種の人は、感染リスクに怯えながら働いています。


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ツイッターでは、仕事に出ざるを得ない人から「感染リスクがある中で出勤したくない」、「いつ感染するか分からない恐怖と戦って疲れて来ました」と休業を求める声が複数みられます。会社や店に対して「いっそ閉めてほしい」と一時休業を求める声もありました。



仕事により新型コロナウイルスに感染した場合、労災の給付は受けられるのでしょうか。労働問題に詳しい太田伸二弁護士に聞きました。



●新型コロナ、労災認められる可能性は?

ーーどのような場合に、労災の給付が受けられるのでしょうか



労災保険の給付が受けられるのは「業務災害」と「通勤災害」に当たる場合です。



このうち、「業務災害」は「業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」とされています(労災保険法7条1項1号)。そして、「業務上」に当たるといえるのは、ケガや病気が業務によって発生した場合(業務起因性がある場合)です。



一方、「通勤災害」に当たるのは「通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」です(労災保険法7条1項2号)。「通勤による」といえるのは、ケガや病気が通勤に通常伴う危険が発生したといえる場合(通勤起因性がある場合)です。



ーー新型コロナウイルスに感染したことが業務や通勤によるものかは、どう判断されるのでしょうか



厚労省は「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」という通知を出しました。



ここでは、 (1)業務または通勤における感染機会や感染経路が明確に特定されているか、 (2)感染から発症までの潜伏期間や症状などに医学的な矛盾がないか、 (3)業務以外の感染源や感染機会が認められない場合に該当するか否か、 などについて、個別の事案ごとに業務の実情を調査した上で、業務または通勤に起因して発症したものと認められる場合には、労災保険給付の対象となるとしています。



このような3つの観点から考えるのだとすると、いわゆるクラスターが発生した状況で勤務していた場合など、感染経路が特定されたケースでは労災と認定されそうです。



一方で、感染経路不明とされるような事案では、簡単には認定されないようにも読めます。



ただ、病気が業務によるものかどうかは相当因果関係があるかどうかの問題です。そして、相当因果関係があるというためには、100%明確であることまでは要求されておらず「高度の蓋然性」(≒高い可能性)があれば良いと考えられています。



そうだとすると、感染経路が完全に特定されなくとも、人と接する機会の多い業務に従事し、業務以外では外出を控えていたような事例では、業務によって感染した高度の蓋然性が認められる場合もあるのではないかと考えます。



なお、医師や看護師などは診察や看護の機会にウイルスに接することが多いため、感染した場合に業務起因性が推定されることになっています。



●今できることは「業務に関する記録を残す」

ーー今仕事に出ざるを得ない人からは、感染リスクに怯える声も出ています。万が一の労災申請に備えてできることはありますか



緊急事態宣言が出ていても、業務に出ざるを得ない方が新型コロナウイルスに感染してしまう可能性を考えて備えておくこととしては、業務に関する記録を残すことが考えられます。



例えば、



・どこで、誰と、どのような仕事をしたのか(特に、社外の人間と面談する場合)
・通勤の手段・経路(どの電車のどこに乗っていたのかなど)
・業務以外のプライベートでは、どんな過ごし方をしていたのか(いつ、どんな用件で、どこに出かけたのか)
・仮に発熱等の症状が出た場合、いつからどんな症状が出たのか



などを記録することが考えられます。



「いつ・どこで」の記録には、スマートフォンなどで移動履歴が細かく記録されるGoogleマップのタイムライン機能などが使えると思います。



これらは、業務起因性の判断に重要な情報ですし、感染してしまった場合の保健所からの聞き取りにも役立つものになるはずです。



●労災認定のケース「言い切りは難しい」

ーー現在の状況を記録しておくことが大事だということですね



コロナウイルスに感染した方が労災認定を申請した場合、どのような場合に認定され、どのような場合に認定されないかについては、これまで例が無いこともあって現時点で言い切ることが難しい面があります。



そのため他の類型の労災での業務起因性の判断を参考にして、業務上といえるかどうかを考えるほかありません。



そして、実際に労災申請を行う場合には、事前に事実関係を調査し、十分に証拠を揃えた上で臨むことが非常に重要だと考えます。こういったことは他の労災事件とも通じるものですから、労災の問題に日頃から取り組んでいる弁護士に相談した上で、申請をしていただきたいと思います。



そして、ここまでは業務に行かざるを得ないことを前提に話をしてきましたが、最も良いのは在宅で仕事をして、感染リスクを下げることです。



事業主は安全配慮義務を負っています。労働者の健康と生命を守るために、可能な限りテレワークへの移行を進め、感染リスクを下げていくことが望ましいと、最後に述べたいと思います。




【取材協力弁護士】
太田 伸二(おおた・しんじ)弁護士
2009年弁護士登録(仙台弁護士会所属)。ブラック企業対策仙台弁護団事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、日本労働弁護団全国常任幹事。Twitter:@shin2_ota
事務所名:新里・鈴木法律事務所