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『野ブタ。』で開花した“絶対的ヒロイン” 堀北真希のキャリアを振り返る

2020年04月18日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『野ブタ。をプロデュース』特別編(c)日本テレビ

 堀北真希が芸能界を電撃引退してから早3年。奇しくもそんなタイミングで、彼女の出世作となったドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)が、新型コロナウイルスの影響で放送が延期になった『未満警察 ミッドナイトランナー』(日本テレビ系)の代替として放送されることになるとは思ってもみなかった。堀北といえば、新垣結衣や戸田恵梨香と同じく、あまりにも豪華な「88年世代」を牽引してきた女優のひとり。この機会に改めて、“女優・堀北真希”について振り返ってみたい。


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 彼女の存在が大きく知られることとなったのは、間違いなく『野ブタ。をプロデュース』の放送と『ALWAYS 三丁目の夕日』の公開が重なった2005年の下半期であろう。しかし、その以前から確かなブレイクの兆しを見せていた。2003年には宮崎あおいから引き継ぎ“2代目ケータイ刑事”を務めた『ケータイ刑事 銭形舞』(BS-i)、その翌年にはオムニバス作品『東京少女』(BS-i)に出演。とりわけ後者は、『ケータイ刑事』シリーズを経験した堀北や宮崎、夏帆、黒川芽以や大政絢に加え、多部未華子や桐谷美玲、さらには賀来賢人や仲野太賀など男女問わず若手俳優を次々と発掘した作品として知られている。そしてこれらと同時期には、『渋谷怪談』や『怪談新耳袋』、『予言』といったホラー作品に出演。Jホラーブームが過渡期となっていた当時は、このようなホラー作品が若手女優の登竜門として機能していたのである。


 2005年に入ると、のちの堀北のパブリックイメージとなるといっても過言ではない“絶対的ヒロイン感”が定着していくことになる。コメディ漫画を大胆に実写化した『逆境ナイン』での紅一点でどこか抜けた雰囲気のマネージャー役に、『HINOKIO』でのクラスのマドンナ的存在。その流れで出演した『野ブタ。』では暗いオーラを漂わせた少女から、亀梨和也演じる修二の“プロデュース”によって一気に垢抜ける小谷信子を演じる。ドラマの前半と後半でガラリと異なる雰囲気を見せると同時に、内面に秘め続けていた芯の強さが周囲に影響を与えていくその姿は、あたかも同作で女優として華麗に開花した堀北のその後の活躍を示唆しているかのようにも映る。そして『野ブタ。』放送中の11月に公開された『ALWAYS 三丁目の夕日』で東北の田舎から集団就職で上京してくる少女を演じたことも相まって、幅広い世代から愛される女優へと一気に上り詰めるわけだ。


 とはいえブレイク後の彼女の出演作を見直してみると、『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(フジテレビ系)や『アタシんちの男子』(フジテレビ系)などテレビドラマではハマり役と呼べるだけの充実した作品が並ぶ一方で、映画ではそれほど印象に残る役に恵まれていなかったというのが正直なところだ。それでも消去法ではない“テレビ女優”としてコンスタントにキャリアを積み上げていき、2012年にNHKの連続テレビ小説『梅ちゃん先生』でヒロインを務めると、2013年についに堀北のキャリアベストと呼べる演技を堪能できる映画が登場する。


 それは吉田恵輔監督がメガホンを取った『麦子さんと』。母親の遺骨を納めるために、母の故郷である町を訪れた主人公の麦子が、かつて母がアイドル的な人気を集めていたことを知るという物語だ。同作で堀北が演じたのはアニメオタクで自分を捨てた母親に反発する麦子と、若き日の母親のひとり二役。劇中で松田聖子の「赤いスイートピー」を歌うなど、堀北という女優が築き上げてきたアイドル的な魅力をフル稼働させる一方で、これまで演じてきた“少女役”というイメージからの脱却を図るかのように、少女から大人へと成長していくモラトリアムの過程を活き活きと演じる姿からは、今後の女優としての限りない可能性を予感せずにはいられなかったほどだ。


 前述した通り、男女問わず現在の日本の演技界をリードする逸材が勢ぞろいした「88年世代」。堀北の引退によって空いた“女優スリートップ”の一角には、2010年代に入って急激にその演技力に磨きをかけて人気実力ともに確かなものにした吉高百合子が入ったと考えても良いだろう。そしてそこに堀北同様『東京少女』出身である多部未華子が迫るといった感じだ。先日、日本テレビ系のバラエティ番組に、堀北の実妹であるモデルのNANAMIが出演し大きな話題を集めた。そこで堀北が女優として復帰する可能性はないという話が出たが、もし仮に、いずれ彼女が映画やドラマの世界に帰ってくることがあるならば、数年前よりも強力になった「88年世代」を再び牽引する即戦力として輝くに違いない。この“引退期間”は、堀北真希という天性のヒロインの価値を再認識させてくれる絶好の機会だったと言える日が訪れてくれると願いたい。 (文=久保田和馬)