2020年04月17日 14:11 弁護士ドットコム
新型コロナに関する緊急事態宣言を受けて、東京都は4月11日、インターネットカフェに休業要請をおこなった。これによって、都内に約4000人いるとされるネットカフェで寝泊まりしている人たちが居場所を追われることになった。
【関連記事:お通し代「キャベツ1皿」3000円に驚き・・・お店に「説明義務」はないの?】
これに先立って、都は4月6日、補正予算223億円のうち12億円を、住まいを失った人への一時住宅にあてると表明した。また、ネットカフェを追われた人への一時宿泊施設として、ビジネスホテルを無料提供するとしていた。
SNS上では「行政がんばった」といった評価も見受けられたが、ネットカフェで寝泊まりする人全員がビジネスホテルに入れるわけではない。実は、ネットカフェよりもさらに劣悪な環境に追いやられることが少なくないのだ。(ライター・碓氷連太郎)
「東京都は半分はいいことをしたと思います。しかし半分はふざけるなと思います」
こう語るのは足立区議の小椋修平さんだ。
4月11日、小椋さんのもとに、足立区のネットカフェで生活していた20代の青年から連絡があった。彼は、都が確保したビジネスホテルに身を寄せていた。
小椋さんは13日、彼と一緒に足立区役所の福祉事務所を訪れて、生活保護の申請を手伝った。すると、職員から「生活保護受給者は無料低額宿泊所に入所してもらう」と言われたという。
そのとき、緊急事態宣言の期限である5月6日(4月17日現在)までビジネスホテルに滞在できるのは、貯蓄があるなど、生活保護を受給していない人に絞られていたことがわかった。
無料低額宿泊所とは、無料もしくは低額で住まいと食事を与える施設のことで、NPO法人などの団体が運営している。
入居者を適正にあつかっている宿泊所も多いが、中には「生活保護者の自立支援」をうたいながら、生活保護費のほとんどを食費や滞在費と称して巻き上げるところも存在している。
複数人を相部屋に押し込めているのに、仕切りはカーテン1枚しかなかったり、個室でも壁が薄く、プライバシーが守られていないなど、劣悪な環境のところもある。
小椋さんが以前、視察に訪れた無料低額宿泊所では、6畳間に2段ベッドが2台も置かれ、そこで4人が生活していた。風呂も3日に1度しか入れない「典型的な貧困ビジネス」だったそうだ。
まさに究極の「三密空間」だが、パーテーションで仕切られている分、まだネットカフェのほうがマシと言えるかもしれない。
「生活保護者であっても、5月6日までは、東京都が確保したビジネスホテルに滞在しながら、仕事や部屋探しができるものだと思っていました。
しかし、生活保護者は、無料低額宿泊所や保護施設に収容するのが原則で、そこが定員オーバーになってようやくビジネスホテルに宿泊できることがわかったんです。
ネットカフェを追われた人のために、ビジネスホテルを借り上げたことは評価します。しかし、こんなカラクリになっていたとは・・・。『ふざけるな!』と言いたいです」(小椋さん)
「ネットカフェで生活していた20代青年の相談対応していて、週末は東京都が確保した緊急一時宿泊施設(ビジネスホテル)で宿泊。週明けに、足立区の福祉事務所に生活保護申請に同行すると、『(無料低額宿泊所)施設に入所してもらうことになります』という対応」
4月14日に小椋さんがツイッターでつぶやくと、「ネカフェのほうが安全」「これ酷い、人間扱いしてないよね」などの声があがった。
そんな中で「怒りに体が震えている」という感情をあらわにしていたのは、貧困問題に取り組む稲葉剛さん(『つくろい東京ファンド』代表)だ。
「感染リスクを下げるためにネットカフェを休業したのに、これでは命のリスクがあがってしまうと危惧しました。緊急事態が起きているのに、東京都はあまりにも官僚的な対応ではないかと言いたいです」(稲葉さん)
4月14日、稲葉さんが都の福祉保健局に問い合わせたところ、「(生活保護受給者には無料低額宿泊所をあっせんするという)既存の制度・運用を変更するつもりはない」と言われたそうだ。
生活保護者を救護施設や更生施設、日常生活支援住居施設などに入所させることを記した生活保護法30条は、その2項で「被保護者の意に反して、入所又は養護を強制することができるものと解釈してはならない」と触れているにもかかわらずだ。
同団体をはじめ支援者たちが都に抗議すると、「一義的には保護施設や無料低額宿泊所を活用すること」自体は撤回されなかったものの、「本人の心身の状況を見て無料低額宿泊所に入ることが困難と認められれば、ビジネスホテルの活用を認める」ということが、4月15日夕方になって各区市町村に通達された。
また、無料低額宿泊所に入居させる場合でも「可能な限り個室で」といった感染予防対策を取ることも併せて連絡しているという。
「中途半端ではありますが、声をあげて抗議したことで状況が改善されました」(稲葉さん)
ただ、稲葉さんによると、生活保護を受給していなかったとしても、都内在住歴が6カ月以上ないと、都が借り上げたビジネスホテルに入れないことがあるという。
都は、ネットカフェなどで寝泊まりしながら、不安定な就労をしている人をサポートする『TOKYOチャレンジネット』を設置している。
都内在住6カ月以上の人がビジネスホテルに入居するには、この『TOKYOチャレンジネット』や都内各自治体の福祉事務所を介して申し込む必要がある。しかし、申し込んだところで、入居できる保証はないという。
「都内に6カ月滞在していた場合でも『その証明としてネットカフェの領収書や、Suicaなど、電子マネーの履歴を見せてください』と聞いているそうです。しかし、レシートを捨ててしまったり、電子マネーを使っていないことから証明できない人もいます。そして都内に6カ月滞在していない人たちが相談に行くと、『ネットカフェがある自治体で、生活困窮者自立支援窓口に相談してください』と追い返されることがあります」(稲葉さん)
また、別の区の窓口に相談すると「もといた区の役所に行ってください」と言われ、対応されないこともあると稲葉さんは言う。
「『つくろい東京ファンド』のシェルターで一時的に保護した人が、もともと滞在していたのとは別の区に相談に行ったら対応してもらえなかっただけではなく、『もっと大変な人はいるし、民間団体が支援してるのだから』と追い返されてしまいました」(稲葉さん)
小池百合子知事は4月10日の会見で「先日、約12億円で東京都は、そのネットカフェ難民と言われる方々をまず収容する施設、そしてその後、アパートを借りていただくような環境整備ということで、すでに予算をつけております。大体500人ということを想定してつくった予算でございます」と言っていた。
しかし、ネットカフェ生活者は約4000人とされていて、それでは8人に1人しか滞在できない。
その後、都は2000室を確保したとも言われているが、稲葉さんによると、「部屋数について東京都は正式に発表していない。順次増やすと言っているものの、4月17日時点では正確な数字はわからない」そうだ。
また、これまでも生活保護受給者や生活困窮者へ福祉事務所の対応が、自治体によっても違ったことから、今回の都の通達が守られるかは、未知数だという。
窓口の対応次第で劣悪な無料低額宿泊所に押し込められたら、新型コロナに感染するおそれもある。逃げ出して結果的に、路上生活者となってしまう人があらわれる可能性もある。
新型コロナウィルスに感染するリスクは、誰にでもある。また長期間の自宅待機により収入が尽き住まいを失うリスクも、決して他人事ではない。ネットカフェを追われた人たちが直面している今日は、私たちの明日なのかもしれないのだ。