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森口将之のカーデザイン解体新書 第30回 トヨタが新型「ハリアー」発表! デザインの注目点は?

2020年04月17日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
1997年のデビュー以来、都会派SUVのパイオニアとして根強い支持を受けてきたトヨタ自動車「ハリアー」。今回の新型は、一見すると現行型とさほど変わらないように見えるが、細部を観察していくと、トヨタがこのモデルチェンジに込めたメッセージが伝わってくる。

○北米ではレクサスとして売られた初代「ハリアー」

自動車のプレミアムブランドがSUVをラインアップに用意することは、今では当たり前になっている。では、この流れを確立したのはどのクルマだったのか? それは、1997年に登場したトヨタの初代「ハリアー」だ。

トヨタはプレミアムブランドという位置付けではないが、ハリアーは初代から、北米などではレクサスブランドの「RX」として販売されてきた。

それまでのSUVは、トヨタでいえば「ランドクルーザー」がそうだったように、オフロード走行を念頭に置いた頑丈なフレームを持ち、箱型で背の高い車体を組み合わせ、エンジンは低回転での粘り強さが重視された。

ところがハリアーは、同じクラスの乗用車「カムリ」とプラットフォームを共有し、フレームをボディと一体化したモノコック構造を採用していた。エンジンやサスペンションの基本構造も、基本的にはカムリと共通。スタイリングも、それまでのSUVと比べると低く流れるようなラインだった。

今までのSUVとはまったく違う、都市が似合うクルマとして登場したハリアー/RXは大好評を博し、北米ではレクサスのベストセラー車種に成長した。2代目でいち早くハイブリッド仕様を追加したことも大きかった。その結果、BMWやアウディだけでなく、ジャガーやマセラティまでがSUVを送り出し、一大カテゴリーを形成するまでに成長したのだった。

そんな中、2005年には日本でもレクサスの展開が始まって、ハリアーの行く末がどうなるか気になったが、トヨタ自動車は2009年の3代目へのモデルチェンジに合わせてRXに移行させつつ、2代目のバリエーションを絞りながらハリアーとして継続販売した。当時は「その手があったか!」と感心したものだ。

当時のトヨタは、ハリアーの根強い人気に配慮しつつ、ゆくゆくはRXに完全移行させたいと思っていたのかもしれない。ところが、ハリアーはその後もコンスタントに売れ続けた。レクサスに匹敵するクオリティがトヨタ車の価格で手に入るというところに、多くのユーザーが価値を見出していたようだ。

結局、2代目ハリアーは2003年から実に10年間販売を続けた。この間、トヨタはこれに代わる日本市場専用の新型の開発に入り、2013年に送り出したのだった。これが今も売っている3代目だ。

3代目(現行型)ハリアーは、ボディサイズやエンジンの排気量を日本市場に合わせてややダウンサイジングしつつ、エレガントなスタイリングやインテリアは継承していた。日本自動車販売協会連合会の統計によれば、モデル末期に入った2019年も3万6,249台を売るなど、根強い支持を受けている。
○安定感がアップしたと思える理由

では、2020年6月頃に発売するという4代目(新型)はどんなクルマになるのか。実車に乗ったことはおろか、まだ実物を見たことさえない上、公開された写真点数には限りがあり、しかも「プロトタイプ」という注釈がついてはいるが、現段階のデザインを見ていきたい。まずはスタイリングだが、前後のウインドーを強く傾けたクーペのようなフォルムを継承していることが分かる。これは2代目で確立したハリアーの個性でもある。

最近のプレミアムブランドのSUVは、こうしたクーペっぽいスタイリングを持つ車種が多い。プレミアムという概念の中に、スポーティーやエレガントという意味が含まれると解釈しているのだろう。しかし、それはハリアーが20年近く前から提案してきた造形である。その意味でもハリアーは先進的だと感じるのだ。

現行型と新型の写真を見比べると、違いも発見できる。まず感じるのは、安定感が増していることだ。ボディサイズが変わったことで、印象も変わったのかもしれない。

ボディサイズは現行型が全長4,725mm×全幅1,835mm×全高1,690mmでホイールベースが2,660mmであるのに対し、新型は4,740mm×1,855mm×1,660mmでホイールベースが2,690mmとなっている。つまり、新型は現行型よりやや長く、幅広く、そして低くなっているのだ。しかもホイールベースの延長幅は、全長のそれを上回る。この変更により、新型ではタイヤがボディの四隅近くに置かれているという印象が強まっている。それが安定感につながるのだろう。

ちなみに、新型のホイールベースは「2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した「RAV4」と同じだ。新型ハリアーの発表を伝えるニュースリリースには、トヨタの新しいクルマづくり改革である「TNGAプラットフォーム」を採用したと明記してあるので、ハリアーにもRAV4と同じプラットフォームを投入したものと考えられる。

RAV4のボディサイズは4,600mm×1,855mm×1,685mmだ。新型ハリアーと幅は共通だが、長さはかなり短く、背は少し高い。RAV4は居住性や走破性も考慮して作られており、キャラクターとしてはランドクルーザーに近いので、前後のオーバーハングを短くし、キャビンが角張ったスタイリングを採用したのだろう。
○なぜ独自のエンブレムを捨てたのか

新型ハリアーは顔つきも変わった。現行型はグリルの真横にヘッドランプが並んだ水平基調の造形であるのに対し、新型はグリルを下げ、ヘッドランプを少し吊り上げるとともに、下端にシルバーのアクセントラインを入れることで、躍動感を強調している。初代から受け継いできたタカ科の鳥のエンブレムを捨て、リアと同じトヨタのエンブレムを採用していることにも気が付く。

現在日本で販売しているトヨタ車を見ると、独自のエンブレムを付けているのは「クラウン」「カローラ」「アルファード」「ノア」などで、カローラを除けば日本市場のために生まれた車種だ。ハリアーも現行型は国内向けだった。それがトヨタエンブレムに置き換えられたのは、グローバル市場に打って出ることの予告なのかもしれない。

ボディサイドはサイドウインドーの形状こそ似ているものの、平板に近かったドアパネルはリアに向けてせり上がるウエッジシェイプのキャラクターラインを強調し、リアフェンダー周辺が張り出すなど、ここでも躍動感を強調した造形になっている。

左右の横長のコンビランプを赤いラインでつないだリアの造形は現行型と同じだが、新型ではランプそのものを上下に薄くしたことで、モダンな雰囲気になっている。

インテリアも立体的なインパネ、存在感のあるセンターコンソールなど、現行型のイメージを受け継いでいる。その一方で、センターのディスプレイは大きくなってインパネから独立し、セレクターレバーはフロアに移動するなど、欧州のプレミアムブランドを思わせるような造形を取り入れてもいる。

オフィシャルフォトでは2トーンのコーディネートを紹介している。多くの色を使うことが美徳という傾向があったひと昔前の日本車とは対照的に、インパネには色を使わず、シートはステッチだけとして、センターコンソールとドアトリムの一部の色分けにとどめている。このあたりも欧州プレミアムブランドの影響かもしれない。

ここまでデザインについて綴ってきたが、筆者は新型ハリアーの走りにも期待している。理由はやはりTNGAだ。現行「プリウス」以降、ここから生まれたプラットフォームを採用した車種にハズレはないと認識しているからだ。

現行ハリアーはひと世代前のプラットフォームを使っている上、ボディに対してホイールベースが短めだったので、走りの面ではあまり褒められなかった。それがRAV4に匹敵するレベルに引き上げられる可能性がある。だからこそ、発売の時期には新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、安心して実車を確認できる状況になっていることを期待したい。

○著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)
1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。(森口将之)