2020年04月17日 10:12 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言を受けて、都市部の警察がパトロールを強化している。
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繁華街では、警察官が必要に応じて、街ゆく人々に声をかけて、「外出自粛」を伝えているようだ。ネット上には、そんな様子を映した動画も投稿されている。
一方で、刑事事件にくわしい戸舘圭之弁護士は「一般市民の権利が不当に侵害されるおそれがある」と危惧している。
はたして、こうした声かけは、どんな問題をはらんでいるのだろうか。戸舘弁護士が解説する。
「警察官は、外出しているという理由だけで、警察官職務執行法が定める『職務質問』をすることはできません。したがって、警察官は、外出している人を『外出している』という理由だけで、立ち止まらせて、名前を聞いたり、外出の理由をたずねることはできません」
報道によると、警察庁は、具体的な外出目的をたずねないように指示しているということだ。
そもそも、職務質問は、法律によって、異常な挙動があったり、犯罪をしているおそれがあるなどの不審事由のある人だけにすることができる。しかも、その場合でも、警察官は、必要最小限の有形力しか行使できないことになっているのだ。(警察官職務執行法)
戸舘弁護士によると、今回のような声かけは、あくまで新型コロナ対策に伴う一般的意味での「警察への協力要請」という位置づけになるという。つまり、職務質問とはちがうということなのかもしれない。
しかし、ネット上で拡散された動画では、伸ばした警棒を片手に持った警察官が声がけをしており、かなり威圧的な印象も受ける。
「警視庁の内部規則でも、警棒の使用は『必要最小限の使用』に限られています。動画にあったような警棒の使用法は、建前以上に萎縮効果があります。不適切だったのではないかと思います」(戸舘弁護士)
あまり知られていないかもしれないが、そもそも職務質問に答える義務はない。警察官に呼び止められても立ち止まる義務もない。しかし、こうした状況では、否応なく、声かけや職務質問されるようなことがあるかもしれない。拒否してよいものだろうか。
「法律論としていえば、拒否してもなんの問題もありません。任意なのですから、当然に断ってもよいはずです。ただ、現実は違います。実際上、職務質問を拒否しようとしたら、そのまま帰してくれることはないでしょう。
『やましいことがないなら、答えられるはずだ』と言われて、拒否できない対応に追い込まれてしまいます。このような警察官の対応は、本来、違法ですが、現実には、これがまかり通っています。
それでも拒否した場合、公務執行妨害で逮捕されることもままあります。警察官に手が触れただけで公務執行妨害罪とされたり、もっとひどい場合は、警察官が勝手に倒れ込んで公務執行妨害罪だといわれて現行犯逮捕される危険もあります。
私たち市民の立場からは、警察官が、質問をしてきたら答えざるを得ない状況にさらされているのが現実です。その意味でも、今回の警察への協力要請は文字通りの『協力』以上の意味合いがあると考えます」(戸舘弁護士)
いくら新型コロナ対策だからといっても、そんなふうに警察がやりすぎることは、あまりに弊害が大きすぎるだろう。
「こうした状況なので『どんどんやれ』という意見があるかもしれませんが、政府による協力要請の名を借りて、警察の監視が強まるということは、非常に危険です。一般市民の権利を侵害する口実をあたえかねないからです。
歴史的にも、戦争などの非常時(有事)には、非常時であることを理由に国家権力による人権侵害が横行し、それに対する十分な批判もできない状況にありました。
たしかに、新型コロナ対策として外出を控え、感染を拡大させないための措置をとることは私たちの命に関わるとても大事なことです。
しかし、だからといって新型コロナ対策であれば、どこまでも市民の自由を侵害してもよいのか。やはり、目的と手段が見合っているか、権利を制限する場合も必要最小限の制約なのかという観点から考える必要があります。そのためにも、こういうときだからこそ政府の動きを監視する必要があるでしょう」(戸舘弁護士)
(警察官職務執行法)
1条2項:この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。
2条1項:警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
(新型インフルエンザ等対策特別措置法)
5条:国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み、新型インフルエンザ等対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない。
24条7項:都道府県対策本部長は、当該都道府県警察及び当該都道府県の教育委員会に対し、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を実施するため必要な限度において、必要な措置を講ずるよう求めることができる。
(警視庁警察官警棒等使用及び取扱規程)
4条:警棒等の使用に当たっては、次の各号に留意しなければならない。
(1)必要とされる限度を超えないよう心掛けること。
【取材協力弁護士】
戸舘 圭之(とだて・よしゆき)弁護士
民事事件、刑事事件、労働事件等に取り組みながら、ホームレス、生活保護などの貧困問題や追い出し屋対策などの住まいの問題にも取り組んできた。第二東京弁護士会、ブラック企業被害対策弁護団事務局長、首都圏追い出し屋対策会議事務局長、ホームレス総合相談ネットワーク、青年法律家協会弁護士学者合同部会副議長、首都圏青年ユニオン顧問弁護団
事務所名:戸舘圭之法律事務所
事務所URL:http://www.todatelaw.jp/