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IDOLiSH7 和泉三月はファンをポジティブにしてくれるアイドルだ ソロ曲「三日月のヴェール」から考察

2020年04月17日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

和泉三月「三日月のヴェール」

 アイドルがファンに与えてくれるものは様々あるが、”観ているものに対してポジティブな影響を与える“という役割は、彼らの仕事においてかなり大きなウエイトを占める使命なのではないだろうか。


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 和泉三月は、アイドルがなんたるかを良く知るアイドルだ。彼自身、長くアイドルを目指していたということもあるのだろうが、もっと本質的な部分でアイドルがファンにもたらす喜びそのものを知っている。ファンの喜びが自らの喜びとなり、和泉三月の喜びがファンの喜びとなる。アイドルは夢の存在だが、その夢によって人は現実を走って行けるということを体現できる稀有な存在なのだ。


 かわいい衣装もフレッシュな衣装も着こなしてしまうキュートなルックスながら、内面は漢気のある頼れる兄貴分。料理やお菓子作りが得意、といったギャップも魅力的だ。「ピタゴラス☆ファイター」や「男子タルモノ!~MATSURI~」といったパーソナリティを色濃く打ち出したユニット曲でもわかるとおり、司会進行から盛り上げ役、個性豊かなメンバーのツッコミと、場を巧みに盛り上げるMC術が高い評価を受けている。個性の強いメンバーの揃うIDOLiSH7を、前面に立って引っ張っていくことができている、という点だけを見てもその能力の高さがわかるだろう。


 そんな高いコミュニケーション能力は、メンバーや仕事相手のみならずファンに対しても発揮していて、アイドルらしいファンサービスには定評がある。その根底には「ファンを喜ばせたい」というまっすぐな気持ちがあるのだろう。


 観客の前では元気いっぱいに笑顔を咲かせる彼だが、その裏側にはかなりの努力や苦悩があることは想像に難くない。努力する姿を売りにしているわけではないが、様々な障壁を乗り越えてステージに立ち、何事にも全力で一生懸命な姿というのは観客にも伝わるものである。感激すれば涙ぐみ、嬉しければ満面の笑顔を見せる。そしてそんな彼の等身大で真摯な姿にメンバーのみならず、ファンやライバルたちも鼓舞される。こういうところも、和泉ならではの個性である。


 そんな彼のソロ曲「三日月のヴェール」は、普段の彼の元気で明るい印象から打って変わって、静かな名バラード。”大人の子守唄”と本人が説明するとおり、包み込むようなサウンドのワルツにやわらかく落ち着いた和泉のボーカルが乗り、聴いている者にそっと寄り添う優しい楽曲だ。


 ほかの誰が歌っても違和感があっただろう。それくらい和泉三月というシンガーにフィットしている曲だ。彼が様々な想いを経験して夢を叶えたからこそ、歌えると言えるだろう。


 夢を叶える人間はそう多くない、と言われる。だが本当にそうだろうか? 人々の日々の生活の中に確実に存在する小さな願いや希望は、ささやかに毎日叶えられている。それは平凡な私たちの日々の積み重ねによって成されている、尊いものだ。和泉は「三日月のヴェール」の中で、そんな私たちの小さながんばりをそっと認め、ひと息つくように寄り添ってくれる。その日1日精一杯生きた自分を慈しみを持って見つめることができるような、優しい子守唄である。


 努力だけで夢や願いの何もかもが叶うわけではないが、そこへ向かう努力がかけがえのないものであるということを、楽曲で、ステージで、己の姿で、和泉は気づかせてくれる。そして彼は正しく、ファンにとっての励みとなる。これはファンとアイドルという特殊な相互関係において、最も幸福な形ではないだろうか。


 等身大で親しみやすいキャラクターだからこそ、「彼ならどう思うのだろう」「彼ならどうするだろう」という想像が働きやすく、そこに誠実で一生懸命、前向きなキャラクターが加わることで彼自身がファンの行動指針となり、彼の存在によってポジティブになれる。これは和泉三月自身のアイドルとしての天賦の才というよりほかない。


 誰よりもアイドルに憧れたからこそ、アイドルとしての本質を貫いてファンに笑顔を送り、私たちをポジティブにする和泉三月。彼にとってアイドルという職業は天職なのだろう。これからもさらなる夢への道のりを、私たちは共に歩んでいける——彼の歌声は、そんな幸せな確信をさせてくれる。紛れもなく彼がアイドルというものを深く理解し、アイドルであることに喜びを感じているということに他ならない。


 そして、彼が夢の続きを邁進する道中でいかなる困難が起きようと、彼には強い絆を結んだ仲間やライバル、何より自身によく似た優しさと強さを持つファンが大勢ついている。それこそが、彼が最高のアイドルである証なのだ。(草野英絵)