2020年04月16日 09:52 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、インターネット上では、地域の感染者に対する誹謗中傷も広がっている。
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新潟県上越市によると、市内で初めて感染者が確認された4月7日以降、ネットの掲示板で、感染者や勤務先、滞在先などを特定しようとしたり、誹謗中傷するような書き込みが相次いだという。
上越市は「新型コロナを理由とした不当な差別、偏見、いじめがあってはなりません」「情報の中には、不確かな情報や事実とは異なる情報もあります」として、むやみに拡散することなく、冷静な行動をとるよう、市民に呼びかけている。
感染者を特定するような書き込みをしたり、誹謗中傷するような行為は法的にどんな問題があるのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。
「『誹謗中傷』というのは、法的な概念ではなく、その中に名誉毀損やプライバシー侵害、名誉感情侵害といったものが含まれると思われますが、誹謗中傷の中身によっては名誉毀損罪になりうるものもあるでしょう。
名誉毀損罪は、社会的評価を低下させる内容であれば成立する可能性があります。名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金とされています。
なお、感染者がどこの誰か、ということがわかるようにした時点で、その人のプライバシー権を侵害することになります。
病気に罹患したということは通常、他人に知られたくない『機微な個人情報』として扱われるものです。みだりに公開することは許されません。たとえば、氏名や住所を晒すことはもとより、感染者とされた人の写真を晒したりすることなども含まれます。
プライバシー権侵害が成立すれば、被害者はその投稿をした人に対して損害賠償請求をすることができます」
「一方、感染者がどこの誰かということが特定されないかたちであれば、感染者一般に対するものということができます。何らかの法的な請求をしていくためには、具体的な被害者がいることが必要です。
そのため、この場合は、名誉毀損やプライバシー権侵害の問題が生じないことになります。
しかし、これは匿名にしていれば何でも許されるということではなく、たとえば伏せ字にしていても、その前後の内容や文脈から誰のことを指しているのか理解できるものであれば、特定の人に対する侵害が生じるため、具体的な被害者が発生することになります。
この場合、被害者は、その投稿をした人に対して、責任追及をしていくことができることになります」
「また、勤務先などには『出て行け』といった内容の電話がかかってきたりしているようですが、これによって本来すべき業務への支障が生じている(本来必要がなかった業務を強いられた)と言えるため、業務妨害罪が成立する余地があります。
また、どのようなデマなのかにもよりますが、たとえばデマを流して、本来必要がなかった消毒作業をする必要が生じたり、休業に追い込んだといったことになれば、業務妨害罪が成立します。業務妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています」
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitter、Facebookに対する開示請求でともに日本第1号事案を担当し、2018年3月、Instagramに対する開示請求の日本第1号事案も担当。2020年1月14日には、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版(弘文堂)」が出版されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp