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ガソリンとHV、選ぶならどっち? トヨタ「ヤリス」を比較試乗

2020年04月14日 11:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車のコンパクトモデル「ヴィッツ」がフルモデルチェンジし、「ヤリス」としてデビューした。中身とともに、名前もグローバルモデルと統一された格好だ。2月10日の販売開始から約1カ月で、受注台数は3万7,000台を突破(計画では月販7,800台)。新型コロナウイルス禍や若者のクルマ離れといったネガな要素がある中で、好調なスタートダッシュを決めたようである。今回は1.5リッターガソリンとハイブリッドの売れ筋モデルに試乗し、それぞれの魅力を探ってみた。

○時にはスポーツカーのように楽しめるガソリンモデル

最初に試乗したのは、1.5リッターガソリンエンジン搭載モデルの中で最上級となる「Z」グレードだ。ブラックルーフにシアンメタリック(鮮やかなブルー)の2トーンというエクステリアが若々しい。

フロントに横置きするエンジンは、最高出力88kW(120PS)/6,600rpm、最大トルク145Nm/4,800~5,200rpmを発生する「M15A-FKS」型直列3気筒1.5リッターダイナミックフォースエンジン。燃費と高出力を両立させるため、直噴システム、ロングストローク化、ギア駆動式バランスシャフトなどを採用した1気筒あたり500ccの最新モジュールエンジンで、発進用ギアを備えた「Direct Shift-CVT」でフロント2輪を駆動する。

低重心と高剛性を徹底するため、ボディには新プラットフォーム「TNGA」の小型車向け「GA-B」を採用。全長3,940mm、全幅1,695mm、全高1,500mm、車重1,020キロ(ガソリンZ)という成り立ちだ。

これらがもたらす恩恵は、走り出してすぐにわかった。アクセル開度にきちんと比例してスッと車速が伸びるので、とにかく出足がいいのだ。車体の軽さを感じるとともに、歯車式の発進用ギアによって、車速が高まるまでエンジン音と加速感がリンクしていて、いわゆる“ラバーバンドフィール”と呼ばれるCVT特有のネガな部分が上手に消されている点が素直に嬉しい。

巡航中は2,000rpm以下というなるべく低い回転域を保つセッティングが施されている。そこからの加速時には、3気筒らしい音と振動こそ伝わってくるものの、望んだスピードに達するとすぐに低い回転に戻る。ここでもCVTがきちんと仕事をしているようだ。

コイルスプリングを採用したヤリスの前後サスペンションは、一般道では少し硬いセッティングといえるだろう。試乗車が標準(185/60R15)より1サイズアップした185/55R16という高性能タイヤを履いていたせいもあるが、段差や荒い路面区間を通過する際は、表面の状態をストレートに伝えてくる。

ただし、この感覚は欧州製のコンパクトハッチなどによく見られるものと同じで、筆者もそうなのだが、「好ましい」と思うユーザーが多いのではないだろうか。ボディの剛性感が高く、サスペンションがきちんと動いているのでショックは一発で収まり、ドライバーの頭にまで振動が伝わってこないので、視線は一定のままに保たれる。これなら、ロングドライブでも疲れないはずだ。

一方、交差点の右左折時やコーナリング時には、鼻先がスイスイと向きを変えてくれるので、ちょっとしたスポーツカーを操っているような感覚まで味わえる。パドルシフトでも付いていれば、ワインディングも100%満喫できそうだ。そうした走りを最大限に望むユーザーには、別に6MTモデルが用意されている。

コンパクトな室内は、はっきりいって前席優先のしつらえだ。幅の狭い3気筒エンジンの搭載により広くなった足元にセットされたペダルと、37cmの小径ハンドルの配置がピタリと決まっていて、ドライバーは好みのポジションが取りやすい。目の前の双眼鏡のような形状のメーターパネルや、奥行きのあるデザインを採用したドアグリップ部分などには、広さだけを追求したコンパクトカーではないというオリジナリティーが十分感じられる。Zに標準装備される運転席イージーリターン機能や、見やすいカラーヘッドアップディスプレー(オプション)まで装備されていて、ドライバーの満足度は高い。

一方の後席は、ガラスの面積が狭くて少し閉塞感が伴うものの、座ってみると前席下に足先を滑り込ませるスペースが確保されているので、見た目ほど窮屈でなかったのは意外な発見だった。都内から首都高、東京アクアラインを経由して千葉県の富津岬を往復する150キロを走り、燃費は18.2km/L(WLTCモード燃費は21.6km/L)を記録した。
○GTカーの素質を持つハイブリッドモデル

次に試乗したのは、ハイブリッド(HV)モデルの最量販と思われる「グレードG」。ブラックルーフにコーラルクリスタルシャイン(ほんのわずかにオレンジがかった赤)の2トーンボディで、搭載するのは最高出力67kW(91PS)/5,500rpm、最大トルク120Nm/3,800~4,800rpmを発生する「M15A-FXE」型直列3気筒1.5リッターガソリンエンジンと、それぞれ59kW(80PS)、141Nmを発生するモーターを組み合わせた電気式無段変速機付きのHVシステムだ。

先代モデルに比べて3割ほど増したパワーと、バッテリーのリチウムイオン化などで約40キロ軽量化されたボディのおかげで、一般道でも高速道路でも、思っていた通りとても速い。モーターを搭載して鼻先が重くなったコーナリング性能はガソリンモデルに一歩譲るとしても、車重のおかげで動きがしっとりとし、安定感が増したサスペンション性能によって、コンパクトボディながら高速巡航も得意科目といってよいほどの走りを披露してくれた。

筆者は数年前、メルセデス・ベンツ「Eクラス」の試乗会でドイツのアウトバーンを時速200キロ以上で走行中、高齢の女性が時速150キロ前後で飛ばす先代ヤリスを追い越したことがあるのだが、そうしたシチュエーションで使われることがある欧州でも、新型モデルはさらに歓迎される性能をもっているのでは、と思わせるほどだった。

ステアリングポスト右側のツーボタンで起動する「ACC」は、レーントレーシングアシストが作動するので、車線の中央を維持しながら追従運転を続けてくれる。精度が非常に高いので、使える状況では積極的に使用してやればドライバーの負担が減るだろう。ただし、機械式パーキングブレーキを採用しているので、機能が時速30キロ以下でキャンセルされてしまう。渋滞時に使えないのはちょっと残念だった。

ガソリンモデルと同じルートを走って、メーターの平均燃費は31.5km/Lを表示(WLTPモード燃費は35.8km/L)していた。実際に給油したレギュラーガソリンは4.88Lだったので、簡単な満タン法でも30.7km/L! ハイブリッドモデルはGTカーとしての素質を持つだけでなく、燃費も相当な数字を叩き出したのである。

試乗車の価格をおさらいしておくと、ガソリンZモデルは車両本体が192万6,000円で、カラー塗装、アルミホイール、ヘッドアップディスプレー、ブラインドスポットモニターなど61万6,000円相当のオプションが追加となり、総額は254万2,000円だった。ハイブリッドGは本体213万円に、カラー塗装、コンフォートシート、3灯式ヘッドランプ、T-connectナビキットなど76万5,000円相当が付いて合計289万5,600円となる。

スポーツモデルのような走りと価格面でガソリンモデルが気に入ったという若い編集者に対し、筆者は小さな高級車然としてGTカーの素質を持つハイブリッドモデルが気に入った。試乗の途中で立ち寄った、アナゴ料理で有名な富津岬の「大定」のお母さんは、「プリウスよりカッコいい。赤い色が綺麗。でも、法事には乗って行けないわね」とのこと。また、給油で立ち寄った都内のGSでは、「2トーンのカラーは高級感があっていいですね」との感想が得られた。

編集者、私、一般の方のいずれからも高評価を受けた新型ヤリス。冒頭で紹介した好調な売れ行きにも納得できる。この新型ヤリスには、紹介しきれなかった数々の新機能があるので、そちらは別稿で紹介したい。

○著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)
1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。(原アキラ)