2020年04月11日 12:01 リアルサウンド
新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るっている。外出を自粛せざるを得ない状況が続くなか、これまでと同じような生活を送ることのできている人はまずいないだろう。
(関連:【動画】#WASH (1))
音楽業界もその影響を受けていて、現在はほとんどのライブが中止・延期になっている状況。そんななか「家から出られない」という状況を逆手に取り、アーティストたちは新たな表現に乗り出している。ライブハウスでの活動ができない分、SNSやウェブでできることを模索しているのだ。星野源「うちで踊ろう」のように、オンライン上でセッションを行う動きがそれにあたるだろう。また、コロナ以前よりも、無観客でのライブ配信が増えているし、Instagramのストーリー機能などを使用したトーク配信も増えた印象だ。
例えば「#うたつなぎ」は、LOCAL CONNECT・ISATO (Vo)のツイートから始まった動きだ。ボーカリストがアカペラもしくは弾き語りの歌唱動画を投稿し、他のボーカリストを指名。指名された人がまた歌唱を投稿し、さらに他の人を指名……とリレー形式で続いており、今日に至るまで多数のボーカリストが参加している。その顔ぶれは、崎山蒼志、高野寛、オーイシマサヨシなど多岐にわたる。
それぞれが家の中にいて、つながりを感じづらい状況だからこそ、歌のリレーと彼らの歌に込められたメッセージは、多くのリスナーの支えになっている。また、ISATOからの指名を受けた(つまり、この企画に参加した2番目の人物である)HEADLAMP・平井 一雅(Vo/Gt)のツイートも興味深い(参照:https://twitter.com/kazumasalamp319/status/1247382787402825736)。この企画をきっかけに、これまで繋がりのなかったミュージシャン同士が繋がり、今の状況が落ち着いた頃に、対バンをすることだってありえるかもしれない。そんな未来が想像できるのも嬉しいところだ。
ちなみに、「#うたつなぎ」が始まった3日後には、I-RabBits・猪野進一(Ba/Cho)がハッシュタグ「#ピアノつなぎ」、そして「歌に、ボーカリストに負けてられない!」というコメントとともにピアノの演奏動画を投稿。ピアニストによるリレー企画「#ピアノつなぎ」も始まった。このように、「#うたつなぎ」における数々の歌は、ボーカリスト以外のミュージシャンの創作欲をも刺激し、連鎖を生み出しているようだ。
一方で困窮するライブハウスやクラブの声を発信する動きもでてきている。次に紹介する「#WASH」は、GEZANの主宰するレーベル・十三月が投稿した動画のことだ。4月5日に公開された動画「#WASH (1)」では、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo/Gt)がライブハウス関係者へのインタビューを実施。ライブの延期や中止が相次ぐ状態がいつ終わるのかさえ分からない状態のなか、現場の人たちが何を思っているのか、そのリアルな声が収められている。30分程度の動画なのでぜひ全編見てみてほしい。
動画では、ライブハウスシーンの非常に厳しい現状が語られている。また、苦境のなかでも素晴らしい曲を作っているであろうアーティストのことを信じたうえで、彼らの表現の場(=ライブハウス)を守りたいという思いを抱きつつも、自分がそういう思いを抱くことさえ不謹慎にあたるのではないか、と葛藤するライブハウス店長と、不謹慎ではないと断言するマヒトゥ・ザ・ピーポーがいる。
この動画の2日後、4月7日には翌8日からの緊急事態宣言が発令された。小池百合子都知事の記者会見によると、ライブハウスをはじめとした「集会や展示に関する施設」は基本的に休業を要請する方針で、今後の対応については国と協議して決定するとのことだ。とはいえ、そこで働く人がいる以上、補償なしの自粛には限界があり、このままでは厳しいと、連帯して声を上げることがますます必要になっていくだろう。
動画「#WASH (1)」は宇川直宏(DOMMUNE)のこんな言葉で締め括られている。
「体験軸が2つになったというか。だから3週間でだよ。すごくない?」
ライブシーンでは、これまで、現地に足を運び、生の音を浴びることこそが素晴らしいものだと語られてきた。しかし今回、そういった体験が叶わない状況になった結果、ライブ配信文化はこれまでにない盛り上がりを見せている。これを機に、ライブ配信周りのシステム・環境は整っていくだろうし、配信の母数自体が増えれば、市場競争原理が働くため、コンテンツのクオリティも底上げされていくだろう。それにより、ライブハウスに足を運ぶことの価値が下がるのかと言うと、そういうことではない。生には生の良さがあるし、配信には配信の良さがある。そのことは、今現在ライブ配信を楽しんでいるユーザー自身が一番理解しているのではないだろうか。
未知の疫病は我々の生活を大きく変えてしまった。しかし、アーティストや業界で働く人たちの自発的なアクションにより、将来的に音楽シーンがもっと楽しくなる、面白くなるためのヒントもあるはずだ。(蜂須賀ちなみ)