トップへ

フラワーデモの1年間、性暴力への抗議「まだ終われない」 これまでの軌跡、1冊の本に

2020年04月11日 09:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

花を身につけ、性暴力に抗議する「フラワーデモ」。2019年3月に相次いだ4件の性犯罪事件の無罪判決をきっかけに始まった社会運動だ。2019年4月11日に東京と大阪で開催されたのを皮切りに、この1年間で全国すべての都道府県に広がり、参加者はのべ1万人を超えた。


【関連記事:「流産しろ」川崎希さん、ネット中傷に「発信者情報開示請求」 追い詰められる投稿主】



最初の「フラワーデモ」開催から1年となる2020年4月11日、これまでの軌跡をまとめた『フラワーデモを記録する』(エトセトラブックス)が出版される。



「フラワーデモ」の呼びかけ人のひとりで、エトセトラブックスの松尾亜紀子さんは「何が起きたか知りたくて、この本を作りました」と話す。本では、ジャーナリストや弁護士の寄稿のほか、47都道府県の主催者のふり返りやスピーチの再録が収録されている。





集まった人々は、自らの性被害経験と思いを語り出した。松尾さんはこの現象に驚きつつ、「被害者が声をあげた運動であると同時に、被害者の声を聞くという社会運動だったと思う」とこの1年を振り返る。



松尾さん、そしてフラワーデモ名古屋の主催者である具ゆりさんに話を聞いた。



●「何かせずにはいられないので、集まろう」

フラワーデモのきっかけのひとつとなったのは、福岡地裁久留米支部が3月12日、サークルと称した飲み会で酩酊した女性への準強姦の罪に問われた男性に無罪判決を言い渡したという報道だった(控訴審で懲役4年の判決、被告側が上告中)。



無罪判決を報じる毎日新聞の記事が流れると、ネットでは女性たちから「なぜこれが無罪なのか」と疑問の声があふれた。



一方、法曹界の一部からは、報道は断片的な情報であり、判決全文を読まずに批判するのは慎重になるべきだという指摘も上がった。松尾さんは「揶揄するような口調がほとんどで、騒いでいる私たちを牽制するようだった」と話す。



「やっぱり批判を口にしてはいけないのかな、と怒りの気持ちや声が潰されると感じました。でも『怒っていいんだ』と声を上げないと、なかったことにされてしまう。個人的には、伊藤詩織さんが最初に訴え出た時に、一緒に声を上げられなかったことへの悔やみもずっとあったんです」



「何かせずにはいられないので、集まろう」。作家の北原みのりさんと松尾さんは3月末に会い、性暴力、そして被害者を救わない不当な判決に抗議するとして、4月11日のデモ開催を決めた。



デモ当日、事前に声をかけた10人ほどがスピーチをした。その中で、最後に話した女性が、自分の性被害経験を明かし、こんな社会を変えなければいけないと訴えた。その影響もあってか、その後、参加者が次々と自らの性被害を語りはじめた。



「フラワーデモは『性被害を語る場所』という報道がよくなされてきましたが、私たちは最初から一貫して性暴力に抗議するという目的でやっています。みなさん自分の性被害を語ることで、現状に対して社会に抗議しているんだと思います」



●皆が聞いてくれるという空気があった

松尾さんが驚いたのは、4月11日の開催後、5月に福岡、6月にはさらに9都市と、全国に「フラワーデモ」が広がっていったことだ。



運動が広がったその根底には何があるのか。松尾さんは「『今、この現状を変えないと』という思いがあるのではないか」とみる。



「もともと地元で女性運動をしてきた人たちが始めるケースもあれば、デモや運動はしたことがないけど一人でも始めたいという人までいました。SNSによって日本の怒りの声は可視化されましたが、SNSの外で抗議の声をあげるタイミングだったと思います」



参加者の中には「初めて自分の被害について話せました」と話す人もいる。これまで被害者が沈黙を強いられてきたということなのか。そう尋ねると、松尾さんは「話しても信じてもらえなかったことが多かったのではないでしょうか」と話す。



「皆が被害者の話を聞いてこなかった。被害者を信じ、被害者側でものを見てこなかった。それが『フラワーデモ』では、皆が聞いてくれるという空気があった。だからこそ、語れたんだと思います」



こうした流れには、名古屋の主催者で、カウンセラー歴20年あまりになる具さんも驚いたという。



「カウンセリングルームの中ですら、性被害について語り出すことは容易ではありません。なので、私の中でも、被害者はなかなか語り出せないものと思っていました。でも、フラワーデモを通じて、#withyouの気持ちがある場所では、誰も黙る必要がないんだと感じました」



●「フラワーデモ」のこれから

2019年4月11日から「ひとまず1年間」と始まった「フラワーデモ」。2020年3月8日の「国際女性デー」にあわせた3月の東京開催は、新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインデモとなったが、ニコニコ動画での総視聴者数は約6000人にのぼった。



今後はどうするのだろうか。松尾さんに尋ねると、「全然終われないですね」と力強い言葉が返ってきた。



「この場所がなくなるのは辛いと言ってくれる参加者もいる。私たちがここでやめるわけにはいかない。2020年3月までに全国で立ち上げるという目標は達成し、性暴力に抗議をしなければいけない時には、いつでも開催できるという体制になった」。毎月11日はどこかでフラワーデモを開催する形にしていくという。



全国に散らばる主催者はLINEやZoomでつながり、頻繁に連絡を取り合ってきた。具さんも「metooは広がらないとか言われてきたけど、伊藤詩織さんの訴えから地殻変動は起こっていた。フラワーデモによって、一つのネットワークを生み出した一年だったと思う」と振り返る。



3月31日には、性犯罪に関する刑法の要件を議論する検討会が設置され、フラワーデモとも連帯してきた、刑法改正を求める被害当事者団体・一般社団法人Spring代表理事の山本潤さんがメンバーに入った。松尾さんは言う。



「声をあげることをやめたら、またなかったことにされてしまう。社会に聞く力はついたかもしれないけど、性暴力はそこにあるまま。被害者が救われる社会までは、まだまだです」





(本の利益はすベて、今後のフラワーデモおよび、一般社団法人Springの活動費に充てられる)