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『エール』ヒロイン・音の物語をじっくり描いた第2週 前向きな姿勢と強さの裏にあった出会い

2020年04月11日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』(写真提供=NHK)

 裕一(窪田正孝)の未来の伴侶となる音(二階堂ふみ)の幼少期が描かれた第2週目の連続テレビ小説『エール』(NHK総合)。「運命のかぐや姫」と題された今週は、音(清水香帆)が歌手を目指すきっかけや父との死別を、学校の学芸会で『かぐや姫』を公演することを通して描かれる。瑞々しい少女たちの芝居や葛藤、家族が力を合わせて苦しみを乗り越える力強さが描かれた。


 音は教会で世界的オペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)と出会うことで歌手を目指し始める。環と話したい音であったが、なかなか勇気が出ずにいると、父の安隆(光石研)が「やらずに後悔するよりやって後悔した方がいい」と音の背中を押し、環と話すきっかけを作った。しかし、そんな父がある日、事故で他界してしまう。そのことをきっかけに、音の家庭はいわゆる女こどもだけになってしまい、光子(薬師丸ひろ子)は安隆の仕事を引き継ぐものの、取引相手や職人に認めてもらえない。しかし、3姉妹と母の力で、なんとか危機を回避する。音は小学校の学芸会で『かぐや姫』のかぐや姫役を演じ、天国の父に届けと言わんばかりの、堂々とした歌声を披露するのであった。


【写真】大人になった音


 第2週は、タイトルの通り、音が立ち向かう『かぐや姫』の演劇にスポットが当たる。音は大正デモクラシーの時代に育ち、母の光子も自由主義的な考えを持つ女性であった。そんな家庭に育った音は、自分の意見をはっきりと人に伝えることができ、小学校での学芸会の演目も男性教師が決めた『浦島太郎』を跳ね除け、音の発案で女性が主人公の『かぐや姫』に決まる。音のこうした凛とした魅力は、多くの人を惹きつけることになる。始めこそ、同級生の良子(田中里念)からは煙たがられていたが、良子も次第に自分の意思をハッキリ持つ音に惹かれていった。良子は、劇を大切にしたい気持ちと母親からのプレッシャーで苦しんでいたのである。そうした自分の心に従うことにした良子は、音にかぐや姫役を譲るのであった。音に惹かれていたのは良子だけではない。小学校生活を描くシーンでは、音には常に味方になってくれる友人がいた。前向きに突き進む音の強さに惹かれていた同級生は多かっただろう。幼少期、内気で友人を作ることに苦労した裕一とは正反対の音であったが、裕一が作曲の才能で多くの人を魅了したように、音もまた、誰かを惹きつける存分な魅力のある人物であった。


 さらに、この2人の共通点は“個々を大切にする”という考えの人々に恵まれたところにもある。大正デモクラシーの掲げる自由主義的な思想はまだまだ世の中に浸透しているとは言えないが、そんな中でも裕一に作曲の道を勧めた藤堂(森山直太朗)の「違いを気にするな」という言葉や、それを受け入れ家業とは関係のない“作曲”を応援した裕一の家庭、音に「自分で行きなさい」と声掛けをする安隆の育て方が、2人の基盤を作っている。こうした時代にいち早く馴染んでいった家庭に生まれ、経済的にも恵まれていた2人は、自身の才能や興味関心に心を委ねる余裕があった。このような環境に身を置いたことが、彼らの後の人生の中でプラスに影響したことは言うまでもないだろう。


 そして音と環の出会いも忘れてはならない。環の存在は、音に強さを授け、音が歌手を目指すきっかけにもなる。音は環から「目の前のことに全力を尽くしなさい」という言葉をもらい、不服であった『かぐや姫』の“おじいさん2”の配役を演じることに前向きになることができた。環との出会いは音を大きく成長させ、このおかげで音は父亡き後も夢を持って自分の足で強く歩みを進めることのできる女性になる。音の前向きな姿勢と強さの裏には、こうした大切な人との出会いがあるのだ。


 第2週のラストには、商業高校に通うことになった裕一の姿が描かれる。いよいよ窪田正孝が登場し、ドラマは裕一の青年期にフォーカスされる。子役たちの輝きに溢れた第1週、第2週を終え、『エール』はいよいよ本格的に羽ばたき始める。


(Nana Numoto)