2020年04月10日 17:31 弁護士ドットコム
都内を中心に展開するタクシー会社「ロイヤルリムジン」グループが、新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化のため、グループの従業員約600人を解雇すると報じられ、話題となっています。
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同社が出した「ロイヤルリムジングループ社員の皆様へ」と題した紙では、「当社は生き残りをかけ、一旦事業を停止することにしました。完全復旧した暁には、全員にもう一度集まっていただき、良い会社を作っていきたい」とあります。
今回一斉解雇という選択をした理由については、休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断したと説明しています。
ネットでは、「国が何もしてくれないための苦渋の決断が切ない」、「失業保険の仕組み上、不正受給になるのでは?」など、経営者に同情する声もあれば、本当に失業給付を受け取ることができるのか疑問の声もありました。
今回の一斉解雇について、弁護士はどう見ているのでしょうか。
労働弁護団の指宿昭一弁護士は「新型コロナにより企業が追い詰められていることの象徴だが、労働者も追い詰められている。最後の最後まで解雇を避けるのが、使用者の責任だ」と話し、解雇はあくまで最終手段であると強調します。
会社の経営上の理由による人員削減としておこなわれる「整理解雇」の場合、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)人選の合理性、(4)手続きの妥当性という4つの要件を満たさないと有効になりません。
そのため、「解雇に納得できない労働者は、労働組合を通じて交渉することもできるし、最終的には裁判や労働審判を申し立てることもできる」と話します。
また、「全員を抱えていくことが無理なら、一定の条件を付けて希望退職を募るなど、全員解雇以外の選択肢はあった。法律的にも社会的な企業の責任としても、解雇は回避すべきだ」といい、全員解雇以外の方法を模索すべきだと指摘します。
使用者側の労働紛争を専門とする倉重公太朗弁護士は「個別の企業でカバーできる限界を超えてきた。これまでとはフェーズが違う」と今回の一斉解雇をみています。
ロイヤル社は休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断したと言います。これには、それぞれの手当や給付の計算方法に理由がありそうです。
休業手当がさかのぼって3ヶ月間に支払われた賃金の総額を期間の総日数で割ったものであるのに対し、雇用保険の失業給付は、退職前6カ月の賃金合計を180日で割った数の5~8割が給付されます。
実際にどの程度売り上げに変動があったかは分かりませんが、倉重弁護士は「新型コロナウイルスにより、タクシー業界はこの数カ月売り上げが減っているでしょうから、半年で計算する失業給付の方が良いと考えたのではないでしょうか」とみています。
ただ、再雇用が前提とされている場合、失業給付を受け取れるのでしょうか。
厚生労働省の雇用保険課は、「あくまで一般論」とした上で、「元の会社に戻るということで、別の仕事を探すつもりがない場合、失業状態にあると言えないため失業手当の給付は受けられない。ハローワークでは原則として、4週間に1度、失業状態にあることの確認をおこなっている」と話します。
こうしたロイヤル社の対応は、「アメリカで一般的におこなわれているレイオフ(一時解雇)の日本版」(倉重弁護士)とも言えそうですが、日本で失業給付を受け取るには、次の仕事を探していることが前提となるということです。
では、一体どうすればいいのでしょうか。
倉重弁護士は、今回の新型コロナ問題は世界的な天災と捉えるべきであり、台風などの災害時に法律にもとづいて適用される「雇用保険の特例措置」のような対応を国が早期に取るべきだと話します。
これは災害によって事業が休止・廃止となり、一時的に離職した人が、事業再開後の再雇用が予定されていても、失業給付を受給できるものです。
ただ、日本中多くの事業所が失業保険を利用することにした場合、大量の離職が発生し、財源が確保できるかが課題となります。
倉重弁護士は「その意味では東日本大震災における復興特別税のような形で、失業保険を利用することとなった事業所には特別の課税を今後することも検討すべきではないか」と話します。
厚生労働省の雇用保険課は、「雇用保険に関連して、どのような措置が取れるかは広く考えている」と言い、現時点で決まっていることはないと話しました。
国は、休業手当などの一部を助成する「雇用調整助成金」の特例措置を拡充しましたが、中小企業に時間の猶予はありません。次の「一斉解雇」を出さないためにも、国の柔軟な対応が求められています。