2020年04月07日 17:41 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの人が減収や雇い止め、休業による生活苦にあえいでいる。全国の労働組合や支援団体が結集し、現場で実際に起きている状況を報告、共有した。
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「新型コロナウイルスに関する働く者の問題についての連絡会議」が4月7日、開催され、全国30の労働支援団体が参加した。感染リスクを考慮し、計80人の参加者やメディア関係者は一部をのぞき、ビデオ会議ツール「Zoom」での参加となった。
連絡会議の目的は2つ。新型コロナ関連の労働問題について(1)現状把握と問題点の認識を団体間で報告・共有。(2)各団体で必要となる対策、連携、支援体制の確立の必要性の検討。
会議も(1)と(2)の二部制となったが、約2時間の中で報告にほとんどの時間が割かれた。
連絡会議の開催を呼びかけた「日本労働弁護団」(労弁)では、4月5日に全国34カ所の新型コロナに関する一斉労働相談を実施した。東京だけで121件、全国では数百件を受け付けた。
「東京では電話の受話器を置くとすぐに鳴るような状態。実際に相談してくれたかたはもっといたはず」(幹事長の水野英樹弁護士)と反響のすさまじさを振り返る。
ほとんどがパートなど非正規雇用者からの相談で、内容は「賃金不払い」「休業・休暇に関するもの」が上位1・2位を占めた。
「日本語学校でコロナの影響で数百人の留学生が来日にできず、給料を払ってもらえない」(非常勤の60代女性講師)、「介護施設で見学に来た人が感染しているので、自宅待機にでも給料払われない」などの声があるという。
水野弁護士は、「相談の内容は想定範囲内だが、緊急事態宣言も出るので被害は拡大するかもしれない」と危惧した。
3月4日・6日と3月30日・31日の日程で集中労働相談を実施した「連合」では、非正規雇用者からの相談が多かった3月初旬と比較し、3月末には正社員からの相談も増えた。今後は正規雇用への影響もますます進むことを懸念している。3月初旬は休業補償の相談がメインだが、今はすでに雇用打ち切りの相談が寄せられる段階に突入し始めているという。
「コンビニ加盟店ユニオン」の酒井孝典執行委員長からは、加盟店オーナーからの売り上げ低下や、スタッフの感染への不安が報告された。
外出自粛によって客足が落ちたことは売り上げの数字に如実に現れた。「(新型コロナの問題が起きてから)私の店でも、前年比72.9%まで落ちている。地域によっては半分近くまで減った店もある」。
報道によれば、3月6日~4月5日までに7軒の加盟店で感染を確認。「感染した場合でも、閉店や再開の基準、解除の自粛が(本部では)明確になっていない。その補償もない。死活問題だ」
また、自身の発言が終わったあとでも、酒井執行委員長はZoomのチャット機能で参加者に向けてメッセージを発信。
「本日にも『緊急事態宣言』が出されるようですが、各本部は『原則通常営業』としか発表していません。原則ですか、例外もあるのでしょうが、今現在、ガイドラインすら出ていません! この様な事態に、平時の契約と有事の際の契約の違いを明確にしてもらう様に本部にアプローチが必要であると考えます。コンビニ加盟店のような零細商店には、時間がありません(!)」(※コメントまま)
ウーバーイーツの配達員たちも感染リスクにおびえながら働いている。しかし、配達員たちに対する会社の感染対策は不十分だという。
「ウーバーイーツユニオン」の土屋俊明執行委員は「配達員にウーバーはマスクや消毒液の配布を行なっていない」「同業の大阪のDiDiでは配布を行なっている」と指摘した。
配達員の新規登録窓口であるパートナーセンターも閉鎖。電話サポートも閉じていた時期があり、最近はつながったり、つながらなかったりする。事故対応について助言が得られない状況が発生しているそうだ。
大手配送会社では届け物を玄関先に置く「置き配」で感染リスクを軽減させている。しかし、ウーバーイーツの配達員は配達先で現金払いを継続中だ。このような「危険」な状況で配達員は働く実態がある。
ユニオンは同社に対して、マスク、手袋、消毒液の配布と、1件配達あたり300円の危険手当の導入を求めた。一方、在宅する人の増加にともなって配達軒数も増加するという状況は「ない」という。
政府のイベント自粛要請によって、大打撃を受けたのは俳優・アーティストたちだ。「3週間で5600回以上のバレエ、音楽コンサート、歌舞伎など公演中止で少なくとも522億円の損失が認められています」(俳優らが加盟する「日本俳優連合」の森崎めぐみ国際事業部長)
日俳連が集計したアンケート(回答者数599人)では、「劇場公演やライブパフォーマンスの仕事がキャンセルになった」と回答した俳優は341人(56.9%)にもなった。「アルバイトをしたくても求人がそもそもない。あっても飲食、肉体労働しかなく、感染覚悟で外で働くしかない」「5月以降、生きている気がしない」などの声も紹介。
森崎氏はアメリカで83億円、ドイツで6兆円、フランスで6億円など海外で実施された文化活動への補償を引き合いに、日本でも俳優らへの補償が必要と訴えた。
オンライン会議はどこからでも参加できるメリットがある。「ユニオンみえ」(三重県津市)の神部紅書記長は「愛知県では100人弱の日系ブラジル人労働者が新型コロナで切られたという相談が届いている」として、今後は「コロナ切り」が増加していくと予想した。
三重県内にいくつかあるシャープの工場では、マスクの生産・出荷を始めている。「シャープには雇い止め、派遣切りされた労働者がたくさんいる。彼らを労働現場に戻してマスクの生産をさせていない」。労働者の再雇用も求めていきたいとしている。
各団体は電話相談などを実施しているが、労働相談だけでなく、住宅提供や求職などの支援団体と連携して、シームレスにつなぐ相談窓口(ワンストップ・サービス)が必要だとする提案も随所で上がった。
「生活保護の運動体と協力」(全国ユニオン)、「電話相談だけでは立ち行かない。住居の確保など具体的な行動に人が付き添わないといけない場面が出てくる」(全労連)。
「いくつかの職場ではZoomとスカイプで団体交渉をやろうとしている。断られることもあるが、できるだけオンラインでやろうとしている」(東京ゼネラルユニオンのルイス・カーレット執行委員)との報告もあった。対面での交渉を拒否されやすい環境に変わっていく中、オンライン団交の試みは検討されるべきものだ。
労働者との相談も対面では難しいとされる状況が当たり前になってくる。オンラインで相談できるシステムの構築も課題となる。
連絡会議で報告された現場のリアルな状況を受けて、司会を務めた労弁の棗一郎弁護士は、直近の対応だけではなく、状況の長期化を見据えて1年後に向けた対応も考えていく体制を求めた。
「雇用や労働の問題では単純に済まない。住居など生活基盤との連携。ワンストップサービスも必要になってくると予測される」として、ニーズに応じた相談体制と支援の連携をひとつの課題とした。
会議終了後、労弁が報告と意見を集約し、具体的に必要となる取り組みを検討したうえで、参加団体に発信する予定だ。