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「とにかく小さい」“ちょうど良い”がヒットの予感!最新コンパクトSUV/フォルクスワーゲンTクロス 実践試乗インプレッション

2020年04月05日 11:21  AUTOSPORT web

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フォルクスワーゲン Tクロス
話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツweb的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。

 第5回は、2019年末に日本に上陸したフォルクスワーゲンTクロスです。トヨタCH-R、マツダCX-30、ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズなど国産勢でも人気モデルが揃っているコンパクトSUV市場に、最後発として登場したのが、新キャラクターのTクロス。

 エンジンもボディサイズも小さいけれど、なぜか不思議な存在感がある一台。その“不思議”を解き明かしていきましょう。
 
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■ 新商品の投入に慎重派なVWが一転、勝負に出た

 日本でもすっかりお馴染みとなった『コンパクトSUV』という表現は、世界共通の言葉である。ただ、それが指し示すイメージは国によって微妙に異なる。

 北米や中国でコンパクトSUVというと、全長4300~4400mm強くらいのそれを指す。

 日本車ならトヨタC-HRやマツダCX-30、ミツビシ・エクリプスクロスなどだ。米中という世界の二大市場がそうなので、それ以外の国でも、このあたりのクルマをコンパクトSUVと定義するケースが多い。

 いっぽう、日本ではトヨタ・ヤリスやホンダ・フィットなどのBセグメントハッチバックをコンパクトカーと呼ぶ習慣も手伝ってか、コンパクトSUVというと、それらと骨格を共有するSUVがイメージされる。

 ニッサン・ジューク(従来型)やマツダCX-3、スズキ・エスクードなどの全長4300mm未満のSUVがそれにあたる。

 こうした世界基準では“スモールSUV”とでもいうべきクルマは、日本と同じく欧州でも人気だ。考えてみれば、日本と欧州(とくに旧西欧圏)は、都市部の道も狭く、クルマに飽きて大きなクルマに幻想を抱かない人(?)が多い成熟市場……という点でよく似ている。

 それはそうと、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、新商品に対してとにかく慎重な社風である。2010年発売の初代ミニ・クロスオーバーやニッサン・ジュークが欧州でヒットして、4~5年のうちにルノー・キャプチャーやプジョー2008、フィアット500Xなど欧州主要メーカーがこぞって参戦しても、当時のVWは動かなかったのだ。

 今回のTクロスは、そんなVWが欧州で2019年春頃に、日本では2019年末に発売したクルマだ。基本骨格は同社のBセグメントハッチバック『ポロ』と共有する。

 その4115mmという全長からスモールSUVにあたるが、これはとくに小さい。欧州SUVでもほぼ最小サイズであり、日本車でもこれより全長が短いSUVは、ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ、そしてクロスビーなどのスズキしかない。

 これは小さすぎ?……とツッコミを入れる人もあろうが、話はこれで終わりではない。欧州事情に詳しい人はご承知のように、これに先立つ2017年秋、VWはTクロスの兄貴分となる『Tロック』も欧州で発売している。

■Tクロスの次はTロックも日本上陸予定? VWの矢継ぎ早の進撃

 全長およそ4250mmというTロックも世の中的にはスモールSUVにあたるが、全幅は1820mmあり、2.0リッターガソリンターボや2.0リッターディーゼル、そして4WDなど、上級メカニズムやバリエーションも豊富である。

 実際には少し大きめのコンパクトSUV群と競合する想定のようだ。そんなTロックも(今のところは)2020年中の日本発売を計画している。

 このように、VWはスモール/コンパクトSUV市場では圧倒的な最後発でありながら、似たようなセグメントに1年半で2機種を連続投入する力ワザを見せた。慎重派ではあるが、やると決めたら一気に攻めるのもVWの特徴である。

 Tロックとの棲み分けのためか、Tクロスは小さいだけでなく、中身もあえて「お手軽クロスオーバー」というべきものに割り切っている。

 エンジンも1.0リッター3気筒ターボや1.6リッターディーゼルなどの控えめなものが基本で、駆動方式は全市場でFFのみ。4WDの用意はない。

 Tクロスは細かい仕立てもお手軽感が強い。現在の日本仕様は1.0リッターターボのみで、まだ上陸間もないこともあってグレード構成も簡素。比較的装備が充実した『TSI 1st』が基準で、そこに安全装備やパドルシフト、上級シート、ルーフレールなどを追加した『TSI 1stプラス』がある。

■入門VWユーザーを取り込むための、秘策が盛り沢山

 今回の取材車は上級の『TSI 1stプラス』で、本体価格は335万9000円。額面では同じエンジンを積むポロの上級モデル(TSIハイライン)より約37万円高い。

 ただ、このクルマにはポロTSIハイラインではオプションとなっていレーンキープアシストや駐車支援システム、斜め後方警告などの先進安全装備やナビが標準装備だし、後席スライド機構も付く。実質的にはTクロスのほうが割安なくらいだ。

 ボディサイズや室内空間、タイヤサイズが大きいSUVはいろんな意味で付加価値が高く、よって同クラスのハッチバックより高価に設定されるケースが多い。

 その意味では、Tクロスは珍しいのだが、それだけ、満を持して登場させたスモールSUVへの、彼らの強い期待がうかがえる。

 もっとも、そのぶんポロより安普請だったり、割り切ったところが、Tクロスに散見されるのも事実。とくにインテリア調度品はすべて硬い樹脂部品で、ポロのようなソフトパッドは使われていないし、その樹脂部品もポロのそれより明確に安っぽい。

 地上高はポロより40mmほど拡大している。絶対的に乗り心地が悪いというほどではないが、背高グルマらしいコツコツ感は明確にある。ポロより重心が上がったぶん、サスペンション部品のグレードも上げて……みたいな感触は薄い。

 しかし、これは悪いことではないと思う。室内空間や視界性能はポロより明らかに良好だし、硬めの乗り心地からクルマ動きは必然的にキビキビしたものになっており、これはこれで「若々しくてスポーティ」と表現することもできなくはない。

 Tクロスは今後、ポロより多くの入門VWユーザーを取り込むのが役目だから、旧来的な意味での質感や乗り心地を狙いすぎない仕立ても理解できる。

■フォルクスワーゲン Tクロス TSI 1stプラス 諸元
車体全長×全幅×全高4115mm×1760mm×1580mmホイールベース2550mm車両重量1270kg乗車定員5名駆動方式FFトランスミッション7速DSGタイヤサイズ 215/45R 18エンジン種類直列3気筒DOHCターボ総排気量999cc最高出力85kW(116ps)/5000ー5500rpm最大トルク200Nm(20.4kgm)/2000ー3500rpm使用燃料/タンク容量プレミアム/40L車両本体価格335万9000円

■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り