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2歳児の父「息子は大麻に救われた」…海外では合法化「医療用大麻」使用求め、患者らの模索続く

2020年04月05日 09:41  弁護士ドットコム

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「この子の発作が止まるならば、たとえ逮捕されても構わない。『医療大麻』のことを知ったときは、このように考えたほどです」。


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こう語るのは、「難治性小児てんかん」と診断されたソウタくん(仮名・2歳)の父親ヨシノブさん(=仮名・40代、大阪府在住)だ。



医療目的のために大麻を使うことは「大麻取締法」で禁じられている。最終的に、ソウタくんの両親がたどり着いたのは、大麻の成分である「CBD(カンナビジオール)」が含まれる「合法」の「CBDオイル」だった。



両親は追い詰められていた日々のことを語ってくれた。(編集部・吉田緑)



●多いときは80回の発作…両親ともに疲弊

ソウタくんは生後すぐに突然意識を失い、口を固く食いしばり、呼吸が止まる強直(きょうちょく)発作を起こし、NICUに4カ月間入院。両親は毎日病院に足を運んだ。発作の影響でミルクを飲むこともできず、ソウタくんは鼻からチューブを入れてミルクを摂取した。



抗てんかん薬の効果はなく、ソウタくんは発作がおさまらないまま退院となった。



発作は1日に20から30回、多いときは80回もあった。ソウタくんは泣くことも笑うこともなく、ミルクを飲むこともできなかった。生後から半年間、発作がない日は1日たりともなかった。外出もままならず、両親は心身ともに疲弊し、追い詰められていた。



●情報収集の末、たどり着いた「大麻」「CBD」

「なんとかこの子を救いたい。抗てんかん薬以外の治療法はないだろうか」。その一心で、父親のヨシノブさんは貪るようにインターネットで情報を集めた。



目に飛びこんできたのは、海外で医療大麻が難治性小児てんかんに効果があるというネットニュース。そして、大麻の成分であるCBDを使って発作がおさまった少女のドキュメンタリー番組『WEED』(CNNで放送)だった。



大麻には100種類以上の固有の薬効成分が含まれており、この成分を総称して「カンナビノイド」という。主成分のカンナビノイドは「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と「CBD」だ。



「THC」は多幸感や鎮痛作用をもたらす成分。一方、「CBD」は「ハイ」になるなどの精神活性作用はなく、研究によって「難治性小児てんかん」などの病気に効果があることが明らかにされている。



●「大麻を使えば逮捕されるのでは」

ヨシノブさんは意を決して「CBDを使ってみないか」とソウタくんの母親エリカさん(仮名・30代)に提案した。



しかし、CBDが大麻の成分だと知ったエリカさんは「大麻を使えば逮捕されるのでは」「本当に大丈夫なのか」と動揺した。



大麻は「違法な薬物」として知られている。使用の罪はないが、所持していれば逮捕されることになる。「危険」「有害」などのイメージを抱く人も少なくないだろう。実際に、厚生労働省のポスターには「ストップ大麻!大麻の使用は有害です!」などと書かれている。ワイドショーなどでも大麻は「悪」として報じられている。



ヨシノブさんはもともと何事にも慎重な性格。そのため、あらゆることについて徹底的に調べないと気が済まないタイプだった。そのヨシノブさんが「大麻」と言っている。それでも、エリカさんはすぐに受け入れることはできず、「考えさせて」と返事を保留した。



●医師に相談し、「CBDオイル」のモニターに

ヨシノブさんがみつけた医療大麻やCBDに関する情報の多くは海外のものだった。エリカさんは日本国内で使っている症例がないかを調べ始めた。しかし、情報は少なく、途方に暮れた。



そんなとき、医療大麻の情報を発信し続けている団体「GREEN ZONE JAPAN」の正高佑志医師(代表理事)が「日本臨床カンナビノイド学会」の学術大会でおこなった講演の動画(「カンナビノイド医療の可能性」)をみつけた。



これを見たエリカさんは「(CBDは)いいかもしれない」と考えるようになった。そこで、ヨシノブさんと話し合い、ソウタくんの治療のためにペースト状の「CBDペースト」を使うことを決意。日本の通販サイトで購入した。



ところが、効果はまったくなかった。そこで、藁をも掴む思いで正高医師に相談。これまで使っていた「CBDペースト」よりもCBDの濃度が高い「CBDオイル」があることが分かり、モニターとして使うことになった。



●症状は劇的に回復…懸念されるのは「経済的な負担」



効果を実感したのは、使い始めてから3週間が過ぎたころだ。ソウタくんの発作の回数は劇的に減り、ついに発作が止まった。今も発作が起きることは滅多にないという。



主治医と相談しながら抗てんかん薬を減らし、ソウタくんはミルクを飲むようになった。また、発作が減ったことで、口から食事をとることもできるようになった。ソウタくんは表情豊かになり、家族に平穏が訪れた。昨年は海外旅行にも出かけたという。



「まさか息子が大麻に救われるなんて」とエリカさんは話す。しかし、これですべてが「解決」したわけではない。ヨシノブさんはつぎのように語る。



「CBDオイルを使うことで発作の症状をおさえられていますが、治ったわけではなく、一生付き合っていかなければなりません。



体重が増えれば、必要となるCBDの量も多くなります。心配なのは経済的な負担です。今はモニターを続けられていますが、自己負担となれば経済的に苦しくなります。



お金のことで子どもを苦しい状況に置かなければならなくなるのはやるせないです。CBDが薬として保険適用され、安心して子どもに飲ませてあげられる環境が早くできてほしいと切に願っています」。



●WHOも効果と安全性を認める「CBD」

「CBDオイル」は医薬品ではなく、健康サプリメントだ。そのため、病院で処方されるわけではない。含まれているCBDの濃度もさまざまだ。



記者も神奈川県内にあるオーガニックコスメを取り扱う店でCBDオイルをみつけた。しかし、多くのCBD製品は医療で使われるCBDよりも濃度が低いのだという。



CBDの濃度が高い製品は、1万円をこえるものも少なくない。ヨシノブさんが懸念する経済的な負担にも納得する。



実際に記者もCBDオイルを購入し、試してみた。説明書きによれば、リラックス効果があるようだ。





付属のスポイトを使って、口の中に垂らす。オイルのため油っぽさが気にはなるが、飲むことはできた。味はほのかに「草」を感じたが、シナモンミント風味にしたこともあり、気にならなかった。



大麻と聞けば「違法」というイメージが先行するが、ソウタくんが使った「CBDペースト」や「CBDオイル」は「違法」ではない。



大麻取締法1条は、つぎのように規定している。



【大麻取締法1条】
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。


つまり、成熟した茎から抽出したCBDが使われている製品であれば、合法ということだ。



また、大麻の成分が使われているならば、エリカさんのように「危険」なのではないかと考える人もいるかもしれない。



しかし、WHO(世界保健機関)は、CBDの安全性と効果を認める報告書(2017年11月)を公表している。報告書によると、CBDは「乱用あるいは依存可能性を示唆する作用を示さない」「CBD が多くの他の健康状態のために有用な治療であるかもしれないという初期的なエビデンス(科学的証拠)もある」などとされている。



●立ちはだかる法の壁

海外の医療大麻事情に詳しい三木直子さん(GREEN ZONE JAPAN理事)は「CBDは茎からだけではなく、葉や花穂からの方がたっぷり取れます。茎からしか抽出できないのは効率が悪い」と話す。また、正高医師は「THCが入っていないときかない病気や症状の人もいます。CBDやTHCのみを抽出すればよいのではなく、両方が必要な場合がある」。



しかし、大麻取締法は、葉や花穂からCBDを抽出することを禁止している。また、都道府県知事の免許を受けた「大麻取扱者」でなければ、大麻の所持、栽培、譲受、譲渡、研究のための使用をしてはならないとされている。しかし、誰もが容易に「大麻取扱者」になれるわけではなく、医師が「大麻取扱者」というわけではない。



さらに、大麻から製造された医薬品の施用等も禁止されている。ソウタくんの両親が望んでいるように、医薬品としてCBDを処方してもらうことはできない。



「世の中には、大麻で助けられる人がたくさんいると思います。まだ研究は始まったばかりですが、大麻は予防医学でも注目されています。大麻で防ぐことができる病気もあるかもしれません。大麻取締法が制定された1948年から科学は進歩し、さまざまなことが明らかになってきています。今ここで法を見直すべきなのではないでしょうか」(三木さん)





このような厳しい規制は、大麻が人に危害を加える可能性があり、「有害」であるためだといわれることもある。



しかし、正高医師は「一般的に、大麻は『ダウナー系』に分類され、ゆっくり、まったりするものです。他方、覚せい剤は『アッパー系』に分類され、目がさめて元気が出て、テンションが高くなるタイプのものです。大麻の作用は人や状況によって変化しますが、大麻が原因で殴り合いをしたり、人を刺したりすることは考えにくい」。



●大麻は本当に「悪」でよいのか?

わが国における大麻の生涯経験率は1.4%だ(厚生労働省「薬物使用に関する全国住民調査(2017年)」による)。



アルコールやタバコと異なり、大麻は身近なものではない。そのため、大麻が実際にどのようなものなのかを知る人は少ないだろう。大麻に対する「危険」「有害」などの「悪」のイメージは、メディアによる報道などを通じて形成されているともいえる。



科学が進歩した今、大麻は本当に「悪」といえるのか。アメリカでは大麻の合法化が進み、33州が医療目的の大麻を合法化。50州がCBDを合法化している。嗜好用大麻を合法化する州もある。



正高医師は、大麻を合法化するメリットについて、つぎのように語る。





「大麻は標準治療では対応が困難な病気や症状に対して有用な可能性があります。実際にさまざまな病気や症状に役立つことが分かり、難治性てんかんの痙攣がぴたりと止まったり、食欲を出したりするなどの効果があります。



また、高齢者の医療費を引き上げることについて議論がなされていますが、大麻を使うことにより、医療費の抑制も期待できます。何種類も薬を飲まなければならない人たちが大麻の処方のみで済むこともあります。そうなれば、薬代を抑えることができます。



さらに、大麻が作れるようになれば、農業で収入を得ることもでき、過疎化している地域の活性化にもつながるでしょう」(正高医師)



かつて、抗がん剤が効かず、苦痛を緩和させるために大麻を使った末期がん患者がいる。2015年12月、大麻を所持したとして逮捕・起訴された山本正光さんだ。



山本さんは裁判で「苦しんでいる患者がいる。大麻を(治療に)使えるようにしてほしい」と語り、判決を迎える前の2016年7月に肝臓がんで還らぬ人となった。



はたして、山本さんは法で裁かれるべきだったのだろうか。そして、ソウタくんのような幼い子どもたちが保険適用で安心して治療できる日はいつ訪れるのだろうか。



医療大麻の使用をめぐる議論が高まっていくことを当事者たちは強く望んでいる。



【プロフィール】
正高 佑志 (まさたか・ゆうじ) 医師。熊本大学医学部医学科卒。2016年にカリフォルニア州にてカンナビノイド専門医、Jeffrey Hergenrather氏と出会い、カンナビノイド医療を専門とする事を決意。2017 年に熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、医療大麻に関する情報発信を行う一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事を務めている。



三木 直子 (みき・なおこ) 国際基督教大学教養学部語学科卒業。 翻訳家。2010年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』(原題:Marijuana Is Safer)を翻訳したのをきっかけに医療大麻に興味を持ち、欧米での医療大麻研究や臨床利用状況についての情報の発信を始める。一般社団法人Green Zone Japanの共同創設者、理事。最新の翻訳書は『CBDのすべて:健康とウェルビーイングのための医療大麻ガイド』。