2020年04月04日 09:21 弁護士ドットコム
10年以上営業することを条件に譲渡した温泉宿泊施設が閉鎖されたとして、鳥取県倉吉市はこのほど、運営会社(岡山県真庭市)に対して、1億5000万円と施設返還をもとめた。一方、運営会社は4月1日、民事再生法の適用を岡山地裁に申し立てた。新型コロナの感染拡大の影響を受けたとみられる。
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問題になっている温泉宿泊施設は、「グリーンスコーレせきがね」。
倉吉市によると、もともとは、1968年に国民宿舎として設置されて、関金(せきがね)温泉の振興の中心的役割をはたしてきた。
倉吉市が2017年4月、民間の「自由な発想」と「創意工夫」による地域活性化を期待して、トラベルシリウス(岡山県真庭市)に無償譲渡した。
グリーンスコーレせきがねのホームページによると、26万冊のマンガを楽しめる温泉として、リニューアルオープンして、日本一の「まんが温泉」を謳っていた。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による売上減少から、4月1日から閉鎖されることになったという。
倉吉市商工観光課によると、倉吉市が、トラベルシリウスに無償譲渡する際、いくつか条件をつけていた。その一つが「10年以上にわたって旅館・ホテル営業をすること」というものだ。
この条件に反した場合は、市が違約金を請求できるとなっていた。しかし、今回の閉鎖によって、その条件が破られたことから、倉吉市はトラベルシリウスに対して、1億5000万円と施設返還をもとめることになった。
一方、トラベルシリウスは4月1日、民事再生法の適用を申請した。東京商工リサーチによると、岡山県内で「新型コロナウイルス」の影響による倒産は初めてという。
市は違約金を支払ってもらうことはできるのだろうか。田沢剛弁護士が解説する。
「民事再生法の適用申請は、あくまでも事業継続を前提としますので、今回の『閉鎖』が違約金請求権を生じさせるものといえるのかどうか、具体的な契約内容を見てみないと判然としません。
仮に、契約上、違約金請求権が生じるとしても、民事再生法上の再生債権(同84条)に該当しますので、再生手続が開始されると、市は、個別の権利行使はできなくなり、最終的には裁判所から認可された再生計画の定めに基づいて支払われることになります(同85条1項)。
どの程度の弁済率になるかはわかりませんが、ほかの再生債権者と平等に扱われて、債権額の一部を10年以内の期間で返済する内容となります。また、再生手続が頓挫して破産手続に移行した場合には、清算により配当を受けるに止まります」
そもそも、こうした条件付きの契約は問題ないのだろうか。
「契約条件として営業期間を設けることは、特に問題ありません。ただ、法的倒産手続では、各債権者の平等が要請されますので、たとえば、『民事再生法の適用申請がなされた場合には売買契約を解除できる』といった解除権留保特約は無効とされます。この解釈との関係で、民事再生手続中に倉吉市が施設の返還を求めることにまったく問題がないといえるのかは、疑問なしとしません」
なお、倉吉市商工観光課の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に「状況をみながら判断したい」と話している。
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp