2020年04月03日 10:11 弁護士ドットコム
身体的暴力、経済的暴力を繰り返した夫が「義母を付きっ切りで4年も介護した私に、夫は感謝するどころか、離婚を切り出してきました」。そんな女性(50代)が、弁護士ドットコムのLINEに自身の体験を寄せてくれました。
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なんと薄情な夫なのでしょうか。以下、女性に詳しく聞きました。
約30年前に結婚し、2人の子にも恵まれました。プロフィールは絵に描いたような幸せな女性です。しかしその実態はといえば、「結婚後も仕事を続けてよい、親の面倒はみなくて良い、子どももいらない、という約束で結婚したのに、結婚した途端に夫は豹変しました」と話します。
結婚後、夫と義母から仕事を辞めるように言われ、女性は専業主婦にならざるを得ませんでした。妊娠中に女性が切迫流産で入院した時には「身体が弱い。約束違反だ」などと冷たい態度をとり、退院直後から義父母を含めた家族の世話をさせられました。
転勤族の夫とは、子どもが小学生になるまでは転勤先に家族で同行していましたが、その後は「子どもの環境がころころ変わるのはよくない」という夫婦の判断により、単身赴任となったそうです。
家のこと、子どもの教育は女性が担ってきました。ところが、大黒柱であるはずの夫には、経済的にも苦しめられるようになったのです。
「渡される生活費が0円ということも続きました。夫の収入は1000万程度で、これとは別に会社からは扶養手当、単身赴任手当も出ていました。ところが生活費を要求しても、暴言を吐き話し合いにならなかったのです」
結婚前の「結婚後も働く」という約束が反故にされたことは先ほども紹介しました。もう1つの約束「親の面倒はみない」も嘘だったのです。
義母に介護が必要になると、当然のように女性が面倒をみることに。義母は実の息子である夫ではなく、県外からわざわざ女性の自宅近くの老人ホームに入居しました。
「朝の8時半から夜の8時まで付き添っていました。義母からの呼び出しは毎日で、大小さまざまな頼まれごとがありました」。
子育ても家事にも支障が出る状況でした。ところが「夫は私に任せきり。経済的援助を頼んでもスルーされ、お金にも困りました」と振り返ります。
たまに帰ってくる夫からは、女性や子どもに対するDVもありました。子どもを守るため、女性は意を決して、離婚を何度か切り出したそうです。
「離婚したいと話しても、真面目に聞いてはくれませんでした。包丁を持って恫喝され、警察を呼んだこともあります。それ以来、離婚の話をしても、絶対に嫌だ。生活費はゼロ。一緒に暮らせばいいだろう。いつまでも根にもつお前が悪いと言い続ける状況でした」
女性は夫から子供を守ろうとびくつく毎日で、パニック障害になり、戦う気力もなくしていきます。
「当時は、モラハラ、パワハラという言葉も知りませんでした。今は子どもたちも成人し、自分の置かれていた立場など、少しずつ整理が出来るようになり、私がされてきたことはそうした暴力だったのだと思えるようになりました。でも当時は怖くて恐ろしくて戦う勇気も気力もなかったのです」
そんな夫から「性格の不一致」を理由に、離婚したいと伝えられたのは昨年のこと。夫は「転勤族のため同居期間が短い。今は単身赴任ではなく、不仲による別居」などと申し立てているそうです。女性は戸惑いと絶望を感じています。
さらに、調停では調停委員から「私はあなたの人生相談役ではない」「一億円もらえば離婚するの?」などと心ない言葉をかけられるのも女性にとっては苦痛です。
「私だけでなく、子どもに対する暴力もありました。その憎しみを抑え、夫の母を介護したんです。夫は『あなたの親の介護はする』と言っていました。なのに、私の親の介護をすることもなく、突然の離婚宣告です。離婚に応じなければいけないのか。せめて慰謝料はもらえないのか」と話しました。
法的には、どうなのか。離婚問題に詳しい理崎智英弁護士は、「単身赴任は、夫婦双方が納得したうえで別々に暮らしているという状態で、夫婦関係が悪化したことを理由とする別居ではない」と指摘します。
単身赴任の期間がいくら長くても、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)の有無を判断する際の考慮要素の一つである長期間の別居にはあたらないそうです。夫婦仲が悪化してからの別居が長引けば、離婚が成立する可能性はありますが、今すぐに離婚が認められる事情はなさそうです。
また、女性は慰謝料を請求したいと考えています。
「身体的暴力に対する慰謝料請求をすることができるのは当然です。身体的暴力あるいは経済的暴力が原因で婚姻関係が破綻した場合には、そのことを理由とする慰謝料請求も可能です。身体的暴力に対する慰謝料の金額は、暴行の態様や被害の程度等により異なりますが、婚姻関係を破綻させたことに基づく慰謝料は250万円~300万円程度です」(理崎弁護士)
女性は貯蓄もありません。夫には結婚後に購入したマンションが2つあるそうです。これらは「基本的には財産分与の対象になります」(同)とのこと。
「婚姻中に夫婦共同で築いた財産は、離婚時に財産分与の対象になります。単身赴任は夫婦関係の悪化を理由とする別居ではなく、マンションは夫婦共同で築いた財産といえるからです」(同)
離婚しても、女性は慰謝料や住まいは確保できるようです。苦労した結婚生活を思えば、わずかすぎる財産ですが、これからの人生がよりよいものになって欲しいと心から願います。
【取材協力弁護士】
理崎 智英(りざき・ともひで)弁護士
一橋大学法学部卒。平成22年弁護士登録。東京弁護士会所属。弁護士登録時から離婚・男女問題の案件を数多く手掛ける。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com