トップへ

自粛要請を出して、あとは「丸投げ」で十分なのか K-1騒動で考える「自治体」の役割

2020年03月29日 10:41  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

3月22日に「K-1 WORLD GP 2020 JAPAN ~K'FESTA.3~」がさいたまスーパーアリーナで開催されました。K-1WORLD GPという大一番ということもありますが、前日の21日に西村康稔新型コロナ対策担当大臣がさいたまスーパーアリーナの管理者である埼玉県にK-1への自粛要請をするよう求めたことから、事態が大きくなりました。


【関連記事:「チリンチリンじゃねぇよ」歩道でベルを鳴らす自転車に怒りの声、違法じゃないの?】



ただ、国や自治体は「自粛要請」をするばかりで、その後のケアもなく、「丸投げ」になっている感があります。今回の騒動を振り返りながら、主に自治体の役割を考えます。(ライター・オダサダオ)



●自粛要請は会場経由で、直接のやり取りはなかったとの報道

まず今回の騒動を振り返ってみましょう。3月22日に「K-1 WORLD GP 2020 JAPAN ~K'FESTA.3~」が開催されることは、コロナの感染が拡大する前から決まっていました。



コロナの感染が拡大する中、2月22日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が「これからの1~2週間が急速な拡大に進むか収束かの瀬戸際」という声明を出し、24日に安倍首相は大規模イベントの自粛要請を出しました。



ここから多くのイベントが開催を中止するか、無観客での開催を余儀なくされました。しかし、K-1はホームページで予防策を講じる以外のことは伝えず、結果的に中止にしませんでした。



この間、毎日新聞の報道によると、埼玉県はK-1に自粛を求めていたそうです。しかし、3月22日に行われた中村拓己プロデューサーの会見によると、要請は会場(さいたまスーパーアリーナ)を通じて行われていたとのことで、直接のやり取りはなかったと言っています。



大会前日の3月21日に前日計量と記者会見が行われました。同日に共同通信と毎日新聞が、西村コロナ対策担当大臣が大野埼玉県知事にK-1への自粛要請を出すよう求めたと報じて、今回の事態となりました。



K-1の強硬開催は各方面に波紋を起こしました。3月19日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議と翌日の安倍首相の会見では、大規模イベントについては、「自粛」から「慎重な対応」というようにややトーンが緩くなっています。また、国民の中には長引く自粛への疲労もたまっており、気持ちが緩んでいるとも指摘されています。



そうした中で起こった今回の騒動は、緩んだ糸を引き締める効果を生みました。強行開催したK-1に対して、メディアは一斉に批判を浴びせました。東京都内での感染者拡大を受け、東京都は週末の外出自粛を促し、コロナに対する緊張を取り戻すよう訴えています。



●特措法では「地方公共団体」が責任を持つことになっている

K-1の問題は、各方面で議論となっています。今回、国や地方自治体、そしてイベント事業者は何が出来たのでしょうか。



今回の騒動は、埼玉県がK-1に対して行った自粛要請から始まっています。国ではなく、何故埼玉県が自粛要請を出したのか、国がK-1に自粛要請をする法的根拠を持っていない、かつ、埼玉県はさいたまスーパーアリーナの所有者であり、管理者という立場から監督する義務を負うからです。



こういうと、国が責任逃れをしているように見えるかもしれませんが、こうした事態においては、一義的には地方自治体が責任を持っています。3月14日に改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法第3条第4項に定められている通り、地方公共団体がその区域の事態には責任を持つことになっています。



この条文を見て、国が地方に丸投げしていると批判している議員たちも居ます。K-1の問題がクローズアップされ、「あの時、ちゃんと中止命令を出せるようにすればよかった」と批判する人たちもいます。



感染症対策は、場所によって違います。例えば、北海道では感染者が急増したので、緊急事態宣言を出し、外出自粛を促しました。しかし、同じことを感染者の居ない県でやったらどうなるでしょうか。経済活動を自粛させ、国民生活はボロボロになってしまいます。



また、自粛要請は、拘束力を持ちませんが、実質的には効果があると理解することも出来ます。多くの事業者は要請に従っており、破った事業者は今回のK-1のように社会的な制裁を受けることが予想されます。



今回で言えば、共同通信と毎日新聞の報道をきっかけにこの騒動は始まりました。この報道をきっかけに、K-1の強行開催を批判する意見がSNSを中心として出され、大きな騒動となっていきました。中には、「さいたまスーパーアリーナの会場使用料などから、中止にすればK-1に多大な損失が出てしまう」、「中止しても金銭的に補償されないのであれば開催するしかない」として、K-1を擁護する意見も見られました。しかし、全国的に自粛ムードが漂っており、それに従う事業者が多い中、K-1が強行開催することに対して、理解を得られるかは疑問です。



また、強行開催に至るK-1の対応や会場での感染症予防対策についても疑問を投げかけられています。強行開催に至る事情があったことはたしかですし、そこを否定することは出来ません。しかし、今回の騒動でK-1の評判に傷がついたことも確かです。



エンターテイメントを提供する事業者として、評判に傷をつけても強行開催すべきだったのか、それとも多額の損失を出しても中止すべきだったのか、判断は難しいところです。しかし、今回の騒動を見て、他の格闘技団体やイベント事業者は、無観客や開催中止を相次いで表明しました。3月25日に東京都が外出自粛を求めたということもありますが、今回のK-1騒動が自粛ムードを強めたとも言えます。



今回の騒動を見ると、要請を破ることは事業者にとって大きなリスクを伴っていることが分かります。そのため、命令ではありませんが、実質的な効果を持っていると言えるでしょう。



●埼玉県は感染症対策の助言や安全確保のチェックを十分にできたのか

コロナウイルスなどの感染症による自粛や緊急事態における対応は地方自治体に委ねられていると書きましたが、具体的に地方自治体は何が出来るのでしょうか。今回の問題の当事者埼玉県の状況から見てみましょう。



厚生労働省のホームページによると、埼玉県のコロナ感染者は3月20日時点(数字は3月19日)で36人となっています。多いか少ないかは人によってとらえ方がそれぞれでしょうが、近隣の東京都や神奈川県より少なく、千葉県よりやや多い。茨城県や栃木県よりは格段に多いという位置づけになります。ただ、この数字で埼玉県が感染拡大地ですというのは難しい。



しかし、3月19日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が出した提言にもある通り、屋内の大規模イベントは感染を拡大させる恐れがあることから、自粛を求めるのはもっともな状況です。



その一方、K-1との連絡はさいたまスーパーアリーナを通じて行っており、地方自治体としての主体性があったのかというと疑問です。今回の対応を見ても、言い方は悪いですが、自粛要請を出すだけで、K-1に丸投げしているという印象を与えかねません。これは推測なので、今後新たな報道があるかもしれませんが、さいたまスーパーアリーナだけでなく、大規模施設を多く抱える自治体として、何をしたのかを訴えることが重要でしょう。 



自粛要請を出すだけでなく、自治体として、感染症対策での助言や安全確保のチェックなどを行ったのかどうかが重要です。自粛要請を出して、県知事が「約束が守られているのか」をチェックするというのはパフォーマンス以外の何ものでもありません。感染拡大を防ぐ取り組みが求められているのです。



今回のK-1の問題では、埼玉県の対応が妥当だったのか、検証する必要があるでしょう。



●感染拡大には地域差があり、地域ごとに対策を立てる必要がある

今回のコロナウイルスの感染拡大において、もっとも重要なのは地方自治体です。たしかに、安倍首相は全国への一斉休校を呼びかけ、国が対応をしているように見えます。しかし、3月14日に改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法から分かるように、主役は地方自治体です。



この法案に対しては、国が責任を負っていないことを批判する人もいます。しかし、地方自治体は頼りにならない存在なのでしょうか。東京都よりも先に感染が拡大した北海道では、2月28日に緊急事態宣言を出し、3月19日には宣言を解除しています。



感染症対策は、国が統一的に方針を打ち出すことも重要ですが、感染拡大には地域差もあり、地域ごとに対策を立てる必要もあります。また、感染症蔓延を防ぐことも重要ですが、風評被害など、経済的な打撃を和らげることも重要です。そのため、今回の問題では地方自治体の役割が重要となってきます。地方自治体がその存在感を示すことが出来るのか、それとも単なる国の「出先機関」のような存在になってしまうのか、自治体自体が試されているというべきでしょう。