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アニメ化不可能と謳われたダークファンタジー 『ドロヘドロ』成功のカギを探る

2020年03月29日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ドロヘドロ』(c)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会 (c)TOHO CO.,LTD.

 昨年末に行われた「TOHO animation RECORDS the LIVE 2019 Winter」。同レーベルとしては初のフェス開催であったが、関係者から2020年に向けての抱負として語られたのが、「新春スタートの『ドロヘドロ』に全力投球」というものだった。


 寡聞にして知らなかった『ドロヘドロ』とは果たしてどういった作品か、興味本位で迎えた1月12日の第1話放送を観て驚かされた。


 主人公は、魔法によって頭をトカゲに変えられたカイマンと、およそヒロインらしからぬマッチョなニカイドウ。2人は冒頭からいきなり大立ち回りを演じ、「魔法使い」と呼ばれ、姿形は人間である相手をいきなりバラバラに切り刻み、血しぶきが画面に舞い散ったからである。


 深夜帯とはいえ地上波のテレビで放送されたことが脅威とさえ思える『ドロヘドロ』。本稿執筆時点で10話を放送し終え、ますます混沌に拍車がかかっているダークファンタジーがいかなる作品かを紐解いていきたい。


 原作は林田球による同タイトルの漫画で、小学館『スピリッツ増刊IKKI』で2001年に連載を開始。掲載誌は2003年創刊の『月刊IKKI』、2015年創刊の『ヒバナ』と移り、2017年から終了までは『ゲッサン』で連載された。


 紙媒体では掲載誌の休刊と共に終了する連載も珍しくないが、2作目の長編で新人といっていいキャリアで連載を始め、4誌を渡り歩き全23巻の長期連載を可能にしたのは、それだけ本作の中毒性の高さを物語っている。


 人気漫画となれば当然のこととして、過去にアニメ化の話が持ち上がったこともあったが頓挫している。かつて『北斗の拳』のゴア描写がアニメ化に際しかなり抑揚の効いたものとなったが、本作のハードなスプラッター描写を見れば、アニメ化、ましてテレビで……となれば躊躇することは想像に難くない。恐らくは、検討段階で断念した企画もかなりの本数に登るであろう。


 その、端から見ても映像化は困難と思われた原作を、TOHO animationと、『この世界の片隅に』『ゾンビランドサガ』と振り幅の広い作品を手掛けるMAPPAがいかにTVアニメ化してみせたか。


 原作の林田球は東京芸大卒のイラストレーターの顔も持ち、人間が住む都市である「ホール」と「魔法使いの国」という架空の舞台を、細部にわたるまで緻密に、かつ破綻のないデッサン力で描いている。その描写は、アニメの背景として再構成する場合に嘘がないということでもあるが、線や色彩など省力化、置き換えに求められるセンスのレベルの高さは計りしれない。


 そこで世界観設計・美術監督を『スチームボーイ』『ムタフカズ』など、サイバーパンク作品で定評ある木村真二が担当しているだけに、原作ファンも納得の世界観を映像化している。原作でもこだわられ、随所に登場する餃子やラーメンなどの食べ物も、深夜の飯テロといえるほど美味しそうに描写されている。一方で、魔法で表れるキノコのサイケな色彩のまがまがしさが対象的に画面を彩っている。


 個性的で魅力溢れるキャラクターは、原作においては、カイマンなど人外であれば写実的に書き込まれる一方で、ニカイドウなどの人間は、眼が比較的大きめでコミカルに、少ない線で描かれている。


 アニメ化にあたっては、線の省力化を計りつつ、いかに原作の個性を映像に昇華させるかがポイントとなるが、2012年『となりの怪物くん』で、アニメ化すると魅力が失われることも多い少女漫画のタッチを繊細に表現してみせた岸友洋がキャラクターデザインを担当。2017年『牙狼<GARO>』でもみせたのと同様、独自の世界感を巧みにアニメの線に移し換えることに成功している。特にニカイドウ、能井という破天荒なまでに強い女性キャラの、説得力溢れるナチュラルな筋肉の描写は、新たなアニメヒロイン像を創出させたといえるかもしれない。


 また、ゴア描写同様にテレビアニメにおける表現の問題としては、本作の独特の倫理観も見逃せない。冒頭で、カイマンとニカイドウは魔法使いを躊躇なく切り刻むのは、魔法使いが人間に対して敵対的な存在であるという背景があるが、物語が進むうちに人間の側が「町内会」という自警団を組織し「魔法使い狩り」行っていたことが明かされ、人間側の一方的な「正義」が揺らぐ。


 ここ最近は児童向けSFアニメに対して、倫理観を持ち合わせるべきではないかといった主張がバズるなど、作品に過剰な倫理観を求める風潮が一部にある。当然、主人公の暴力に対しあらぬ方向から倫理を問われる可能性がある時代となっており、創作物の世界観をしっかりとした理論武装で裏付ける必要がある。


 本作でシリーズ構成を担当するのは、『亜人』『進撃の巨人』といった、人間の様態でありながら異なる価値観を持つ存在と、人類の関わりを描いた作品で脚本を手掛けた瀬古浩司。監督の林祐一郎とは『賭ケグルイ』でもコンビを組んでおり、独特の倫理観に支配された作品の映像化には長けていることが実証済み。


 また、本作では、人間側と魔法使い側双方が、入り組んだ謎を解き明かしていく様子が平行して描かれるという、観る側が混乱しがちならせん構造となっているが、原作を大きく改編することなく、かつ解りやすい物語となっていることも、評価を高める要素となっている。総じて、かつて独特の世界観をアニメにしてきた制作陣が、本作でも巧みな仕事をみせていると言えよう。


 さらに、個性的ゆえに演じるとなれば難しいキャラクターが多いが、カイマンは、NHK大河ドラマや朝ドラへの出演も話題となったベテラン高木渉を、原作者の希望通りにキャスティング。ヒロインと言うには余りに強いニカイドウは、若き実力者、近藤玲奈が見事に演じている。


 筆者が注目するキッカケとなった音楽面では、『アイドルマスターシンデレラガールズ』『ハナヤマタ』などアイドル作品を手掛ける一方で、『刻刻』『賭ケグルイ』と独自の世界観にも対応する藤田亜紀子が音響監督に座る。また、音楽プロデュースは(K)NoW_NAMEが担当し、ヘヴィメタルやパンクの影響を受けた世界に合わせ、疾走感溢れるBGMとOP・複数のED楽曲を提供、世界感の構築に大きく関わっている。


 現在は原作での6巻頃。結末とこの先が気になる作品といえるのだ……それが『ドロヘドロ』。


■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。