2020年03月29日 09:11 弁護士ドットコム
残業代の考え方をめぐって注目の判決が3月30日、最高裁第一小法廷(深山卓也裁判長)で言い渡される。問題となっているのは、タクシー大手・国際自動車(kmタクシー)でかつて採用されていた残業代の計算方法だ。
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原告である同社のドライバーらは、どれだけ残業しても金額が一緒だとして、「実質残業代ゼロ」の制度だと主張してきた。
というのも、同社で支払われる「歩合給」は、タクシーの売上(揚高)をもとに算出した金額(裁判では「対象額A」と呼ばれている)から、残業代相当額と交通費を引いたものだったからだ。
形式上、残業代の項目はあるものの、同額が引かれているのだから、確かにいくら働いても残業代がゼロという見方もできそうだ。
しかし、もとになった高裁判決(原判決)は、制度を適法と判断していた。今回、最高裁が弁論を開いているため、結論が見直される可能性がある。
3月30日の最高裁では、国際自動車の残業代をめぐる3つの裁判の判決が出る。いずれも論点は同じだが、原告や代理人が異なる。そのため、各原判決にも代理人や判断した裁判官によっていくらかの違いがある。
ただし、各原判決の大まかなポイントは、法令違反などがない限り、賃金をどのように定めるかは自由として、労使の自治を重視している点だと言えるだろう。
たとえば、労働基準法37条は、時間外労働や深夜労働、休日労働についての割増率を定めている。
問題となった制度をみてみると、歩合給から事実上控除されているとしても、勤務時間に応じた残業代は支給されていた。
また、売上がどんなに少なくても、歩合給はゼロを下回らないという決まりだったため、法定よりも残業代が少なくなることはなかった。つまり、形式面はクリアしている。
そもそも、この制度が残業代の支払いを避けるためのものではなく、ドライバーに短時間で効率よく稼ぐことを動機づけ、労働時間の抑止などを目的としたものだと認定した原判決もある。
そして、この仕組みはドライバーの95%が加盟する最大組合が了承したうえで導入されている(原告らは少数組合に所属している)。
以上のような事情も踏まえて、各原判決は制度を適法と判断していた。
最高裁では、こうした制度が労基法37条に違反していないかが判断されそうだ。
残業代相当額を引くことが、労働者への補償と企業へのペナルティーという残業代の趣旨に反しないか。
また、同条では残業代計算のベースとなる「通常の賃金」と「割増賃金(残業代)」が判別できることが求められているところ、「通常の賃金」に当たる歩合給が残業代によって変動する仕組みは認められるのか。
3つの事件のうち、もっとも古いものの提訴は2012年。どんな決着が待っているだろうか。