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朝ドラ『エール』のモデル古関裕而とは? 故郷・福島の縁の地を訪ねて

2020年03月29日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

古関裕而生誕100年記念モニュメント

 連続テレビ小説『エール』(NHK総合)が、3月30日にスタートする。


参考:窪田正孝×二階堂ふみは“理想の夫婦”に? 『エール』放送を前に朝ドラ“男性主人公”作品を振り返る


 主演は古山裕一を演じる窪田正孝、ヒロインは裕一の妻・関内音役を務める二階堂ふみ。裕一は福島県、そして音は愛知県に生まれ、遠い距離を乗り超えて愛を育んでいく物語だ。


 裕一のモデルとなったのは、福島県福島市に生まれ、後に昭和を代表する作曲家となる古関裕而。昭和54年に福島市名誉市民第一号となり、その功績と栄誉を称えられている、福島を代表する人物だ。福島市には、古関裕而記念館をはじめとした、彼に所縁のある地が多く点在している。筆者は、オンエアを前に街全体で盛り上がりを見せている福島市を訪れ、古関のルーツを探った。


 新幹線から福島駅ホームに降り、まず聞こえてくるのは、夏の全国高校野球選手権大会でもお馴染みの「栄冠は君に輝く」だ。1948年に古関が作曲したこの曲は、福島市民アンケートの結果を受け、2009年より新幹線ホームの発車メロディーに採用、在来線には「高原列車は行く」が流れている。ほかにも古関による作品は「長崎の鐘」「君の名は」など5000曲以上にもおよび、日本の音楽文化の普及、向上に広く貢献してきた人物である。


 福島駅東口を出てすぐの駅前広場に見えてくるのは、発車メロディーと同年の2009年に建てられた古関の生誕100年記念モニュメント。柔和な笑みを浮かべ古関が弾くハモンド・オルガンは、彼を特徴づけるトレードマークのようなものだ。古関がオルガンと出会うのは、川俣銀行に勤務しながらも、ますます音楽にのめり込んでいく頃だが、幼少期にはすでに母親から卓上ピアノを、父親からは蓄音機を買い与えられ、それらが彼の音楽の才能を開花させるきっかけとなる。


 古関は市内有数の呉服店・喜多三の長男として生まれた。福島市大町のレンガ通りには、古関裕而生誕の地・記念碑があり、そこは古関の生家で呉服店の跡地でもある。現在も東邦銀行本店や老舗の中国飯店「精華苑」が入ったビルが建ち並ぶ一等地であることからも、古関がいかに裕福な家系の元で育ったのかが窺い知れる。


 古関が生まれ育った大町から車で10分ほど、福島市のシンボル・信夫山の麓、福島市音楽堂の隣に古関裕而記念館はある。1988年に建てられ、外観はラジオドラマ『鐘の鳴る丘』(NHKラジオ)の主題歌「とんがり帽子」をイメージしているとのこと。建物に入り、1階のサロンに見えてきたのは、実際に古関が使用していたハモンド・オルガン。ドラマ内の音楽を担当した『鐘の鳴る丘』や、「さくらんぼ大将」にもこのオルガンのサウンドが使われており、二億数千万種の音色が出せると言われている。


 2階に上がる途中の階段には、「風景の調べ」と題された直筆の色紙が飾られており、古関は画筆にも親しみ、「絵も私にとっては音楽なのである」と述べていたようだ。信夫山や安達太良山といったふるさとだけでなく、三重県鈴鹿の山々、イギリス・ロンドン市ヒルトンホテルからの街並みのスケッチも確認できた。


 2階は、小気味よい古関メロディーが流れる資料展示室。ベレー帽や8ミリ撮影機、メトロノーム、ストップウォッチ、指揮棒といった古関が愛用していた品々が並ぶ。ドラマ内でも描かれるであろう、永井隆から古関に贈られたロザリオなど、名曲「長崎の鐘」に関する資料も展示されていた。記念室には、古関が作曲をする際に使っていた書斎がそのまま再現されている。中央には3つの座卓が置かれ、忙しい時にはそれぞれの座卓に五線譜を置き、一度に数曲を作曲したという。さらに、壁一面には幼少期から晩年までの写真パネルと略年譜。目を見張ったのは、「スポーツ行進曲」「阪神タイガースの歌」など、コロムビアから出された数々のレコードと楽譜だ。


 古関の作曲は、大きく分けて「スポーツ音楽」「放送劇場映画音楽」「校歌社歌」の3つに分けられる。展示されていた中でも印象的だったのは、「オリンピック・マーチ」の総譜。古関は、1964年東京オリンピック「オリンピック・マーチ」、札幌冬季オリンピック「純白の大地」を作曲しているのだ。残念ながら、今年開催される予定だった東京オリンピックは延期が決定した。昨年放送されていた大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)がオリンピック開催への苦労、選手の栄光と影を描いた“最高”の作品だっただけに、『エール』も今後の開催への架け橋になればいいと切に願うばかりだ。


 ほかにも福島市には、古関所縁の地が多く存在している。生誕の地のほど近くには、「福島小夜曲」「さくらんぼ大将」「高原列車は行く」3曲のメロディーを楽しむことができる記念時計塔、吾妻山を背に鎮座する福島駅西口駅前広場モニュメントからも、定時に鐘の音と共に古関メロディーが流れている。また、福島駅前通りからレンガ通りを、古関裕而ストリートとした看板やフラッグの設置、古関夫妻らの写真をあしらったラッピングバス運行など、オンエアを前に古関を通した街の活性化が進められている。


 筆者は先行試写で第1週を観賞したのだが、窪田をはじめとした出演者のナチュラルな福島弁や福島をロケ地とした撮影風景、実際に登場する信夫小学校、川俣の地名など、随所に福島への愛が感じ取られた。半年間にわたるこの朝ドラが、全国の視聴者、そして福島へのエールとなることを祈っている。(渡辺彰浩)