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『VIRTUAFREAK』仕掛け人が語る、バーチャルタレントにとっての“場所”と“丁寧さ”の重要性

2020年03月28日 18:51  リアルサウンド

リアルサウンド

撮影=稲垣謙一

 バーチャルYouTuber(VTuber)をはじめとする、“バーチャルタレント”シーンを様々な視点から見ているクリエイター・文化人に話を聞く連載『Talk About Virtual Talent』。好評だったkz(livetune)による第一回に続き、第二回に登場したのは、クリエイティブユニオン・CAMBRを率いる飯寄雄麻氏。


(参考:kz(livetune)が考える、VTuber文化ならではの魅力「僕らが10年かけたことを、わずか2年でやってる」


 広告代理店を経て、Loftworkや2.5D、THINKRなどでDAOKOやORESAMAらとのイベント・番組制作を経験し、独立以降は数々のバーチャルタレントに関するイベント・ライブをサポートし、イベント『VIRTUAFREAK』を立ち上げるなど、バーチャル文化を陰ながら支える彼に、その経歴やシーンへの提言を聞いた(編集部)。


「Vの世界にも人の営みのようなものが生まれている」


――飯寄さんがVTuberの文化に触れたきっかけはどんなものだったんですか?


飯寄雄麻(以下、飯寄):以前からキズナアイさんのような人たちのことは知っていたんですけど、ちゃんと意識して観はじめたのは、2018年4月ぐらいにヨメミさんの動画を観たのがきっかけです。僕はもともと、旧渋谷パルコにあった2.5Dというインターネット配信スタジオで番組の配信やイベントを企画したりしていたんですけど、2018年からフリーランスになったので、自分の時間も自由に作れるようになって。そこで、『ゼルダの伝説』や『スプラトゥーン』『フォートナイト』など、ゲームで遊ぶようになったんです。そのときに、たまたまYouTubeのサジェストで出てきたヨメミさんの『フォートナイト』のゲーム実況動画を観て「この女の子、めちゃくちゃ上手いな……!」と思ったのが最初でした。


――そもそものきっかけはゲーム実況動画だったんですね。


飯寄:意外だとよく言われます(笑)。ヨメミさんはゲームも上手いんですが、同時に声やリアクションも特徴的で。そこから、エイレーンファミリーの動画を観るようになりました。ちょうどその頃、VTuberの話題を耳にすることも増えてきて、自分自身もずっと気になっていたので、他にも輝夜 月さんの動画を観たり、猫宮ひなたさんとGYARI(ココアシガレットP)さんの「何でも言うことを聞いてくれるヒナタチャン」(歌動画とゲーム実況動画がひとつになった動画)を観て「VTuberって音楽クリエイターともコラボするんだ」と思ったりもして。そこからヨメミさんや月さん、ひなたさんのアーカイブを全部観ていたら、そのうち動画更新の方が僕の視聴するスピードに追いつかなくなってしまったんです(笑)。そこで、他の人たちの動画もどんどん観るようになっていきました。


――飯寄さんが働いていた2.5Dは、ポップカルチャー全般を取り扱っていたかと思うのですが、そこで働いていた飯寄さんがVTuberの人たちに感じた魅力とは、どんなものだったんでしょう?


飯寄:最初に思ったのは、アニメのように「キャラクターがあって、声を当てる声優さんがいる」というものではないんだな、ということでした。2.5Dではアイドル以外にも、インディーズ時代のDAOKOさんやORESAMAと一緒にイベントや番組も作っていて、その中で、アーティストたちがどんどん変化していく様子を近くで見ていたんです。それは僕がVの人たちに感じる魅力とも繋がっていて、最初は緊張していた人が上手く喋れるようになったり、企画を試行錯誤していったりと、どのVTuberも常に新しいことを考えていて進化していく過程を目の当たりにしているというか。


――つまり、ゲーム/アニメ作品の場合、キャラクターの成長は脚本にそって表現されますが、VTuberの方々の場合は、むしろ「人」としての魅力を感じる、と。


飯寄:そうなんです。実際、Vの世界にも人の営みのようなものが生まれていて、「誰と誰は仲いいよね」とか、社会のようなものもできていて。キャラクター性を持ちつつも、脚本家や構成作家が作る枠から外れたところでその人たちの物語が生まれていくというのが、オリジナリティのある文化だな、と思います。2019年の1月にTVアニメ『バーチャルさんはみている』がはじまった頃、ひなたちゃんが電脳少女シロさんにいじられる様子を観ても、3次元のタレントと変わらない魅力を感じました。


――それ以降、印象に残っている動画/配信やVTuberの方がいれば教えてもらえますか?


飯寄:まずは、バーチャルタレント本人ではなく、かかわっているクリエイターなんですけど、(花譜の楽曲を担当している)カンザキイオリさんは、このシーンにかかわることで、さらに覚醒した人なのかなと思います。カンザキさんは、僕の中では2000年代以降の社会がつくった若者像を全部インストールして生まれたすごい才能というイメージで、その雰囲気はボカロ曲「命に嫌われている。」の頃からあったかと思います。でも、その後花譜という才能に出会ったことで化学反応がおきて、そのカンザキさんの潜在的な才能が二乗にも三乗にも引き出されているというか。ここから世の中がどんなふうに彼を認めていくのか、すごく楽しみにしています。


 配信者の人たちだと、最近一番観ているのは、本間ひまわりさんや夢月ロアさんの動画や、湊あくあさんの視聴者参加型『大乱闘スマッシュブラザーズ』の、めちゃくちゃ煽るドンキーコング(おじいちゃん)の動画ですかね(笑)。あとは、宝鐘マリンさんの配信も面白いなぁと思って観ています。僕の場合、切り抜き文化があることも大きいですね。仕事が忙しいと、なかなかリアルタイムでは配信を見られないんですけど、そういうときでも切り抜き動画を観て、そこから本編のアーカイブを観る、ということができて。そんなふうに、多面的に楽しむ方法が揃っているので、リスナーとしても親しみやすいと思います。これってニコニコ動画のn次創作カルチャーのように、運営側がその切り抜き動画を容認することで、ファンの人たちの熱量がそこに表われて、さらに新しいファンが増えていって――その結果、ニコニコ動画の黎明期以上のことが、急速に起こっているように感じています。


「VTuberのファンは、カルチャーに寄り添って考えてくれる」


――そんな飯寄さんは様々な形でバーチャル文化をサポートする活動をしています。まずは2018年末以降運営している、VTuberの楽曲をテーマにしたクラブイベント『VIRTUAFREAK(バーチャフリーク)』をはじめたきっかけについて教えてもらえますか?


飯寄:前職から関係のあった、バルス株式会社の創業者でもあった木戸文洋さん(現在は顧問)から、2018年の初頭に「VTuberをマネジメントしようと思っているんです」と相談を受けて、映像の編集ができる人がいないか聞かれて紹介したのが、以前から一緒に働いていた、今はMonsterZ MATEの映像を担当している深山詠美さんでした。そんな経緯もあって、その後も木戸さんとVについて話す機会が増えていって。その中で、ある日2人で飲んでいるときに「VTuberのシーン自体は盛り上がってるけど、リアルイベントがまだ少ないので、一緒にやりませんか?」という話をもらったのがきっかけでした。それが2018年の10月ですね。その時点で、すぐに12月に第一回を開催することを決めたんです。


 当時は、キズナアイさんがNorくんプロデュースの「Hello, Morning」をリリースして、Yunomiさんなど錚々たる面々のプロデュースで9週連続リリースをはじめた頃で、もともと自分が面識のあった音楽プロデューサーが、Vのシーンにかかわりはじめていたのも大きかったと思います。イベント名は何案か候補はあったんですが、「VTuber好き=VTuberのフリーク」が集まる場所として、『VIRTUAFREAK』という名前に決めました。


――『VIRTUAFREAK』は、まさに熱意ではじめたものだったんですね。


飯寄:木戸さんと「どんなに失敗しても、会場費ぐらいは割り勘で払えるぐらいには大人になったよね」という話をしたのを覚えています(笑)。当時からVのカルチャーは進むスピードがものすごく速くて、企業の意思決定の速度ではなかなか追いつけない状態だったかと思います。でも僕たちは「2018年の内に第一回を開催する」という強い意志で、れおえんさん(イラストレーター)や、ウチボリシンペさん(デザイナー)に声をかけました。そのときに、ちょうど福岡のSelectaというクラブをやっていたTAKUYAさんが、秋葉原エンタスの立ち上げに関わることを知って連絡し、場所にも恵まれた形です。出演者は、僕がもともと運営していたネットレーベル(ゆざめレーベル)にもかかわってもらったYunomiさんやバーチャルねこさん、nyankobrqくんに声をかけました。当時はじーえふ名義だったエハラミオリさんや、高坂はしやんさんとワニのヤカさんのユニットは木戸さんがブッキングしてくれました。


――実際に開催してみて、お客さんの熱量についてはどんなことを感じていますか?


飯寄:これまで6回やって感じるのは、とにかく、お客さんが「優しい」ということです。たとえばニコニコ文化だと、匿名であるがゆえに否定的なコメントも多いじゃないですか。でも、VTuberのファンって、カルチャーに寄り添って考えてくれる人たちが多いな、という印象です。これはアイドル文化でも見られるのですが、その中でも「ドヤりたい」的な人が少なくて、ちゃんとシーンにコミットしようとする意識が強いように思います。VTuberの方からも、「ファンが優しくて、精神的な負担が少ない」という話もよく聞くんですよ。熱量はものすごいんですけど、同時にどこか温かい、青い炎のような雰囲気というか。その優しさは、ある一定のVのファンに共通するものなのかな、と思います。


――普段のライブ配信中にも、コメントが荒れたりした瞬間に、コメント欄のリスナーの人たちの中で自浄作用が働いていく瞬間がありますよね。


飯寄:そうですよね。でも、だからこそファンの人たちにどこまで寄り添うのかは、難しいところだと思います。VTuberにとっても、「ファンの人たちに支えられてる」という意識が強いので、その意見を尊重したいという気持ちが強かったり、イベントでもアンケートを取って結果を実際に反映させることもすごく多くて。でも、ファンの人たちの「こうしたほうがいいよ」「こうしてほしい」という要望をすべて聞いてしまうと、そのVTuberのアーティスト性が失われて、もともとファンが感じていた魅力も損なわれてしまうかもしれません。なので、その距離感を上手くはかって、お互いにいい関係性を築いていってほしいと思います。『VIRTUAFREAK』の場合は、自分たちやりたいことや想いを自由に決められる一種の表現方法なので、キャスティングなども含めて、「自分が思う良いもの」を重視している感覚です。


「HMDの中で完結するのではなく、リアルなところに“場”が必要」


――同時に、飯寄さんは、VTuberのみなさんのリアルライブにもかかわっていますね。


飯寄:これも木戸さんとの繋がりがきっかけで、バルスが『SPWN(スポーン)』というVTuberのリアルイベントを実施していくサービスを立ち上げるタイミングでお誘いをいただいたんです。最初に担当したのが、そのSPWNのこけら落とし公演だったYuNiさんの『UNiON WAVE – 花は幻 -』で。当時、YUC’eさんがYuNiさんの「透明声彩」を制作していたり、アルバムに向けてヒゲドライバーさんも新曲を制作していたりと、YuNiさんの楽曲にかかわるこの2人にも出演してもらうという企画を提案しました。YuNiさんとYUC’eさんには楽曲制作の裏話を語るクロストークのコーナーも取り入れて、リアルとバーチャルのアーティストを混ぜたイベントにしたんですが……。


――お客さんの反応があまり良くなかったんですか?


飯寄:そんなことはないです。ただそのとき、「VTuberのファンの人たちは、まだリアルイベントに行ったことのない人も多いのかな」と思ったんです。というのも、最初にヒゲドライバーさんがDJをはじめたときに、「あれ、YuNiちゃんはまだなの?」とTwitterに投稿している人が結構いたんですよ。そこから、ライブやイベントに行く機会がなかった人もいるのなら、そのファンの人たちとも向き合ったイベントを企画しよう、と思ったのを覚えていて。僕自身VTuberを見始めた入口がいち視聴者だったので、仕事でかかわる際にも、視聴者目線であることを大切にしています。


――今でこそバーチャルタレントによるリアルライブは多数開催されていますが、確かに、その頃はまだお客さんもリアルライブに慣れていなかったのかもしれないですね。


飯寄:僕もそうですし、出演するVの方たちや、観に来てくれる方たちも、みんなで学びながらやっていく感覚で。もともと、セットリストやMCパートをどこに入れるかといったライブイベントの構成を考えるのは慣れていましたが、誰もがVTuberのリアルイベントを実施するという点では経験値がなかったので、何に気をつければいいのかも分かっていなかったと思います。それをひとつひとつ形にしていったのが2019年でした。バーチャルであってもリアルであっても、一度ライブイベントに来て「こんなもんか」と思われてしまうとクリエイティブの水準を下げてしまうので、「イベントってこんなに面白いんだ!」と感じてもらうために、ライブじゃないと体験できない企画を取り入れていきました。


 『UNiON WAVE – 花は幻 -』以降は、『TUBEOUT! Vol.2』(Alt!!、まりなす、銀河アリスが出演)やMonsterZ MATEの一周年ライブ『MonsterZ MATE 1st Anniversary Live~俺らがやらねば誰がやる~』、富士葵さんの『富士葵生誕祭令和元年』、ルキロキさんの『ルキロキお誕生日会2019~リアルだよ♡サスガー集合♥~』、東京・名古屋・大阪で同時開催したハニーストラップの『Honey Feast』などを担当したんですけど、技術的なことも理解したうえでイベント全体を構成しなければいけないという意味では、リアルアーティストよりも複雑で、普段のライブよりも気を張らないといけないことが多い、全く異なるものだと実感しました。


――出演者のみなさんのすごさを間近で感じることも多いんじゃないですか?


飯寄:それは本当に、めちゃくちゃ多いですよ。たとえば、ときのそらさんがとても印象的ですね。2018年12月に開催された『TUBEOUT! Vol.1』から何度かイベントに立ち会っていたこともあって、2019年10月に開催されたときのそら1stワンマン「Dream!」ではまだ1年も経っていないのにその成長ぶりというか、普段は絶対に無いんですが感動して本番中に泣きそうになりました(笑)。


 Vの方とかかわっていく中で、人として成長していく機会をみられることが本当にたくさんあります。そういった点では、ホロライブやKAMITSUBAKI STUDIOがアーティストとしっかりと向き合って上手くいってるのかな、と思います。一方で、「もっとこうすれば良くなるのに」と思うような可能性をもったアーティストもいます。これは、マネジメントとアーティストとの関係としてリアルでもよく言われていることで、僕としてはイベントやライブでいかにそのアーティストの魅力を最大限に引き出せれるか、というところにやりがいを感じている部分ですね。


――話を聞いていても感じるのですが、飯寄さんの場合は、バーチャルタレントのファンの方々や、そのカルチャーが集まる「場所」をつくることに魅力を感じている雰囲気ですね。


飯寄:そうですね。「場所」は、すごく大事だと思っています。2.5Dではインターネット配信という当時では珍しい技術で番組制作をしていたのに加えて、イベントスペースとしてもスタジオを運営していたんですけど、どんな技術を詰め込んでも人と人とのコミュニケーションが生まれないとコミュニティができなくて、その結果カルチャーは生まれない。もちろん今の時代ネットの中で補完できることもありますけど、やっぱり共通の趣味を持つ人たちがみんなで集まって、そこで知り合った人たちと好きなものについて語りあうのって必要なんですよ。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の中で完結するのではなく、リアルなところにも「場」が必要だと思うんですよ。


――どちらか一つだけではなく、両方が必要だということですね。


飯寄:その通りです。VRライブはVRライブではないと、表現できないイベントの形がありますけど、たとえばVRライブの会場に集まった人たちがみんなで拍手のモーションをしていても、そこから「この後、好きなVの音楽について話そうよ」とはならない。もちろん、将来的に状況は変わっていくと思いますが、時代に寄り添って自分ができることをやっていきたいです。


「VTuberはバーチャルではあるけど、やっぱり『人』」


――バーチャルタレントの方々のこれからについては、どんなことを期待していますか?


飯寄:2019年を通して、リアルイベントはすごく増えましたよね。ときには失敗もありましたけど、色々な人たちが頑張ったからこそあれだけリアルライブが増えたんだろうな、と僕は考えていて。でも、バーチャルアーティストのリアルライブは予算もかかるので、大規模なライブができる人は限られますし、体力勝負だとも思うんです。なので今後は、オムニバス系の企画イベントが増えると良いんじゃないかと思っています。ワンマンライブをするだけではなく、誰か別にオーガナイザーがいるブッキング系のイベントに、Vの人たちがもっと出られるようになればいいな、と。


――確かに、そういったイベントが増えると、個人勢の方々の活躍の場も広がるでしょうし、大規模なライブを目指す人たちが、ステップを踏みながら経験を積めるかもしれません。


飯寄:あとは長期的に期待することだと、VTuberはバーチャルではあるんですけど、やっぱり「人」です。周りでサポートするマネジメントが、そこを理解し大切にして活動を続けてほしいですね。というのも、マネジメントがしっかりして、アーティストとの関係値を築き上げないと、どんなにアーティスト自体が注目されても上手く続かないと思うんですよ。企業によるVTuberを起用した広告案件も増えていますが、そんなときでもアーティスト自身への理解も含めて、意味のあるものをアウトプットしていかないとV業界自体すぐに廃れると思います。


――クリエイティブコントロールをして、丁寧に活動を続けてほしい、ということですね。


飯寄:もちろん、スピード感も大事ですし、時には焦ってしまうこともあるかと思います。kzさんも、この連載の前回のインタビューで「10年でやっていたことを2年でやってる」と言っていましたけど、それだけ目まぐるしいスピードで物事が進む状況の中で、「丁寧にやる」というのは、なかなかできることではありません。でも、そのスピードを一度緩めてでも、ひとつひとつ丁寧に、意義のある面白いクリエイティブをつくっていくというのは、今後のカルチャーにとって最も大切なことなんじゃないかと思います。消費されるだけのコンテンツって、結局誰も幸せにしないじゃないですか。いちバーチャルシーンのファンとしても、「未来に繋がる価値のあることをやってほしい」と感じるので。人が持つ純粋な創造性や想いをひとつひとつ丁寧に込めた作品は、動画でも音楽でも広告でも、人を魅了する力が宿ると信じています。そのために僕も頑張り続けたいですし、業界全体がそういう意識になれば世界も変わるかな、と思っています。


(杉山仁)