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放し飼いの大型犬、孫を噛んで死なせる 責任を問われるのはだれ?

2020年03月28日 09:21  弁護士ドットコム

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なんとも痛ましい事件が起きた。生後1年に満たない男の子が、祖父の飼い犬に噛まれて死亡した。過去にも同様の事件で、孫を死なせてしまった祖父母が過失致死の疑いで書類送検されている。今回の事件では、祖父は過失致死などの刑事責任に問われるのだろうか。


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●体長120センチのグレート・デーン

各メディアの報道によると、3月20日、富山県富山市の住宅敷地内で、生後11か月の男の子が飼い犬2頭に噛まれて死亡した。犬はともに体長約120センチ、体重約80キロの大型狩猟犬「グレート・デーン」。高さ約180センチのフェンスに囲まれた庭で放し飼いにされていたという。



現場の住宅には、男の子や祖父の50代男性らが暮らしていた。祖父が餌の皿を取るために、男の子を抱えて庭に出たところ、2頭が男の子に噛みついた。男の子の死因は頭部骨折による出血性ショックだった。



過去にも飼い犬が孫を噛み殺してしまう事件が起きている。



朝日新聞によると、生後10カ月の乳児が2017年3月、東京都八王子市の祖父母宅で飼われていたゴールデンレトリバーに噛まれて死亡した。乳児が祖父母といた居間で、犬も放し飼いにされていたという。約2年後の2019年2月、犬が危害を加えないように注意する義務を怠ったとして、警視庁南大沢署は祖父母を過失致死の疑いで書類送検した。



愛する孫を死なせてしまった自責の念にかられて生きた心地がしないだろう。祖父は何らかの刑事責任を問われるのか。また、亡くなった男の子の両親が祖父を民事で訴えることはできるのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。



●注意すべき義務はあったのか?

ーー今回の痛ましい事件、祖父の刑事責任を問うことはできるのでしょうか



亡くなられた男の子のご冥福を心よりお祈り申し上げます。親族内でこのような痛ましい事件が起きてしまい、当事者の方としては、法的な問題を考える心境にはなれないと思いますが、今回のケースを法的に検討してみます。



まず、今回のケースでは、過失致死罪(刑法210条)ないし重過失致死 罪(刑法211条)が成立する可能性があります。過失致死罪は50万円以下の罰金、重過失致死罪は5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。



過失犯が成立するためには、不注意な行為が必要です。そしてどのような場合に、不注意が認められるかというと、以下の3つの要件が必要です。



(1)その状況下で行為者に注意義務があったこと、 (2)行為者がその注意義務を怠ったこと、 (3)行為当時、行為者が注意義務を履行することが可能であったこと



注意すべき義務があったのに、それを怠った場合、不注意だということです。さらに、この注意義務は、法令・契約・慣習・条理などの様々な根拠から生じます。



ーー今回は祖父が男の子を抱きかかえながら外に出た際に、2頭が男の子に噛みついたという状況でした



犬の噛みつき事故の場合、さまざまな事情を考慮します。



例えば、その犬が愛玩犬か闘犬かでも危険度は変わりますし、その犬が鎖に繋がれていたかという管理状況、被害者が乳幼児か成人かなど、事故によって状況はケースバイケースです。



これらを検討し、注意義務があったかなかったか、また、その程度が設定され、設定された注意義務に違反したかどうかが問われることになります。



ーーこうした犬と人間の事故は、全国で起きていますね



過去には、犬の噛みつき事故のケースで、闘犬2頭を放し飼いにして幼児2名を死傷させた被告人が、重過失致死罪および重過失致傷罪に問われ、懲役1年の実刑に処せられています(那覇地裁沖縄支部平成7年10月31日判決)。



重過失とは、通常の過失と比較して、容易に結果の発生を予想することができ、結果の発生を容易に回避し得るのに、その注意義務を怠った場合をいいます。通常の過失の場合よりも重い法定刑が規定されています。



今回の場合、危険な狩猟犬の元に生後11カ月の乳児を抱えていったとのことで、過失は認められるものと思われます。過失の程度については、もう少し事情を詳しく見てみないと分かりません。



●民事上の責任は?

ーー男の子の両親が祖父に損害賠償請求することは可能でしょうか



民法718条1項は、自分の占有する動物が他人に損害を与えた場合の責任について、以下のように規定しています。



「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」



今回、危険な狩猟犬の元に乳児を連れて行った祖父が、相当の注意をしていたとは考えにくいことから、相当の注意があったとは認められず、祖父は、民法718条1項の責任を負うことになります。



今回の場合、男の子は亡くなっていますので、男の子が祖父に対して有する民法718条に基づく損害賠償請求権を両親が相続し、両親が祖父に対して請求することができると思います。その他、両親固有の損害についても、民法718条1項に基づき請求が可能です。



損害の項目としては、働くことで得ることができたはずの逸失利益・葬儀費用・男の子が祖父に対して有する慰謝料・子どもが亡くなったことについての両親固有の慰謝料などがあります。




【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/